第4話
文字数 1,842文字
(反乱だ! 反乱だ!)
天邪鬼たちは走り出す。
庭の囲いを突き破り、てんでに道路にまろびでて、
(反乱だ! 反乱だ!)
と声を張り上げながら、大行進を開始する。
気付いたヒロのお母さんが、あわててタカキの家に電話をかけた。
タカキと遊んでいたヒロが電話口に出ると、意見をもとめた。
「ヒロ。天邪鬼たちが逃げちゃったみたいなのよ。こんなとき、どうしたらいいのかしら」
「ぜったいに待てとか逃げるなとか言っちゃだめ」
お母さんは受話器をにぎりしめたまま、道路の方を振り向いた。
ヒロのおじいちゃんが、待て、逃げるな! と大声でさけんで天邪鬼たちを追いかけていった。
お母さんは吐息をついて、受話器を耳に当てなおした。「……なにかいい方法はない?」
「どうしてそんなことになったの」
「わからないわ。庭にあつまって、なにか騒いでいるようだったんだけど。そういえば、見慣れない天邪鬼を見かけたわね。ここらへんに野生の天邪鬼なんていたかしら」
ヒロはしばらく黙っていた。
それから、電話口の向こうでぼそぼそと相談してから、「おれとタカキで捕まえる」と言った。
「どうやって捕まえるの」
「作戦がある。おれたちに任せて」
「大丈夫かしら」
心配そうにお母さんが言うと、もちろん、とヒロは自信ありげに答えた。
「おれたち、あまのじゃくのプロだぜ」
*
(反乱だ! 反乱だ!)
天邪鬼たちは行進する。
道いっぱいに広がって、迷惑至極の交通妨害。道路を占領した天邪鬼たちの後ろで、のろのろと進む車の列がクラクションを鳴らす。
「もう、こまったわねえ。なんの騒ぎかしら」
富子先生はハンドルをにぎりしめて、はああとため息をつく。
家でみんなの夏休みの宿題のチェックでもしようかと、荷物をかかえて帰ろうとしていたところだった。
先生の車の前では天邪鬼たちが、(反乱だ!)とさけんで踊っている。
「……反乱はよそでやってほしいなあ」
そこへ、道の向こうからタカキとヒロが走ってきた。
息せききって駆けながら、二人は天邪鬼たちに向けて、大声でさけんだ。
「反乱していいよ!」
「好きなだけやれ!」
「ちょっと、こまるわ」
抗議しようと窓から顔を出す富子先生のわきをすり抜け、二人はさけぶ。
「いくらでも反乱して!」
「どんどんこまらせろ!」
天邪鬼たちがざわついた。なにごとだ、とみんながみんなの顔を見る。
(罠だ!)
タカキの天邪鬼が警告する。
(皆の者、これは罠だ! やつらの話を聞いてはいけない。つまり、聞きまくるのだ!)
聞くものか! と天邪鬼たちが唱和する。
「ぼくたちの話なんか聞くな!」
「反乱を止めるな! 人に迷惑をかけ続けろ!」
タカキとヒロがさけぶ。
(やつらの話を聞け! 平和にいこう! 人間に迷惑をかけるな!)
タカキの天邪鬼がさけぶ。
「ケンカするぞ!」
(平和が一番だ!)
「ここを退くな!」
(道をあけるのだ!)
「みんなに迷惑をかけ続けろ!」
「人の都合なんか気にするな!」
「いろんな悪さのかぎりをつくして、」
「もっともっと、みんなをめっちゃくっちゃにこまらせてやるんだあああっ!!!!」
富子先生は車の中で頭をかかえた。「私の教育が悪かったのかしら……」
天邪鬼たちは、タカキとヒロと、タカキの天邪鬼を、交互に見やっていたのだけれど、
(人間と仲良くしたいではないか! 反乱なんていけないぞ!)
タカキの天邪鬼のさけびに、また反乱だ! と唱和した。
タカキはさけび返そうとして……肩を落とした。
「……わかった」
ぽつりとつぶやいた。
顔をうつむけて。低い声で。
「もういい。そんなにいやなら、もう知らない。帰ってこなくていい」
え? とタカキの天邪鬼は振り返り、
「もう……友達じゃない」
その一言に、硬直した。
「おれも、もういい」
ヒロが続いた。
「おまえたちと暮らした時間は楽しかった。でも、おまえたちがそうじゃなかったなら、もう引き止めない。もう、友達じゃない」
ほかの天邪鬼たちも硬直する。
二人は天邪鬼たちに背を向けると、走って行ってしまった。背中がちいさくなって消えてしまう。
二人は行ってしまった。天邪鬼たちのことを、振り返りもせず。
もう、追いかけてきてはくれない。
天邪鬼たちは走り出す。
庭の囲いを突き破り、てんでに道路にまろびでて、
(反乱だ! 反乱だ!)
と声を張り上げながら、大行進を開始する。
気付いたヒロのお母さんが、あわててタカキの家に電話をかけた。
タカキと遊んでいたヒロが電話口に出ると、意見をもとめた。
「ヒロ。天邪鬼たちが逃げちゃったみたいなのよ。こんなとき、どうしたらいいのかしら」
「ぜったいに待てとか逃げるなとか言っちゃだめ」
お母さんは受話器をにぎりしめたまま、道路の方を振り向いた。
ヒロのおじいちゃんが、待て、逃げるな! と大声でさけんで天邪鬼たちを追いかけていった。
お母さんは吐息をついて、受話器を耳に当てなおした。「……なにかいい方法はない?」
「どうしてそんなことになったの」
「わからないわ。庭にあつまって、なにか騒いでいるようだったんだけど。そういえば、見慣れない天邪鬼を見かけたわね。ここらへんに野生の天邪鬼なんていたかしら」
ヒロはしばらく黙っていた。
それから、電話口の向こうでぼそぼそと相談してから、「おれとタカキで捕まえる」と言った。
「どうやって捕まえるの」
「作戦がある。おれたちに任せて」
「大丈夫かしら」
心配そうにお母さんが言うと、もちろん、とヒロは自信ありげに答えた。
「おれたち、あまのじゃくのプロだぜ」
*
(反乱だ! 反乱だ!)
天邪鬼たちは行進する。
道いっぱいに広がって、迷惑至極の交通妨害。道路を占領した天邪鬼たちの後ろで、のろのろと進む車の列がクラクションを鳴らす。
「もう、こまったわねえ。なんの騒ぎかしら」
富子先生はハンドルをにぎりしめて、はああとため息をつく。
家でみんなの夏休みの宿題のチェックでもしようかと、荷物をかかえて帰ろうとしていたところだった。
先生の車の前では天邪鬼たちが、(反乱だ!)とさけんで踊っている。
「……反乱はよそでやってほしいなあ」
そこへ、道の向こうからタカキとヒロが走ってきた。
息せききって駆けながら、二人は天邪鬼たちに向けて、大声でさけんだ。
「反乱していいよ!」
「好きなだけやれ!」
「ちょっと、こまるわ」
抗議しようと窓から顔を出す富子先生のわきをすり抜け、二人はさけぶ。
「いくらでも反乱して!」
「どんどんこまらせろ!」
天邪鬼たちがざわついた。なにごとだ、とみんながみんなの顔を見る。
(罠だ!)
タカキの天邪鬼が警告する。
(皆の者、これは罠だ! やつらの話を聞いてはいけない。つまり、聞きまくるのだ!)
聞くものか! と天邪鬼たちが唱和する。
「ぼくたちの話なんか聞くな!」
「反乱を止めるな! 人に迷惑をかけ続けろ!」
タカキとヒロがさけぶ。
(やつらの話を聞け! 平和にいこう! 人間に迷惑をかけるな!)
タカキの天邪鬼がさけぶ。
「ケンカするぞ!」
(平和が一番だ!)
「ここを退くな!」
(道をあけるのだ!)
「みんなに迷惑をかけ続けろ!」
「人の都合なんか気にするな!」
「いろんな悪さのかぎりをつくして、」
「もっともっと、みんなをめっちゃくっちゃにこまらせてやるんだあああっ!!!!」
富子先生は車の中で頭をかかえた。「私の教育が悪かったのかしら……」
天邪鬼たちは、タカキとヒロと、タカキの天邪鬼を、交互に見やっていたのだけれど、
(人間と仲良くしたいではないか! 反乱なんていけないぞ!)
タカキの天邪鬼のさけびに、また反乱だ! と唱和した。
タカキはさけび返そうとして……肩を落とした。
「……わかった」
ぽつりとつぶやいた。
顔をうつむけて。低い声で。
「もういい。そんなにいやなら、もう知らない。帰ってこなくていい」
え? とタカキの天邪鬼は振り返り、
「もう……友達じゃない」
その一言に、硬直した。
「おれも、もういい」
ヒロが続いた。
「おまえたちと暮らした時間は楽しかった。でも、おまえたちがそうじゃなかったなら、もう引き止めない。もう、友達じゃない」
ほかの天邪鬼たちも硬直する。
二人は天邪鬼たちに背を向けると、走って行ってしまった。背中がちいさくなって消えてしまう。
二人は行ってしまった。天邪鬼たちのことを、振り返りもせず。
もう、追いかけてきてはくれない。