第2話 隅須家のお仕事

文字数 2,784文字


「最後の荷物を今引き渡した、さあいくぞ!引き上げだ!日本に帰るぞ!」

”スミストレーディング”
これが僕、ジョンの両親の会社。二人だけでやっている。
両親は新婚旅行でフランスに行ったとき、気軽になんかにサインしてそのまま連行されて北アフリカで傭兵をさせられたのが発端だった。
その訓練はとんでもなかったし、フランス語など観光用しか知らなかった。更に、わけわからん言語も多数。
しかし、訓練終了後の配置先は「使えない人たち用」の「数だけ揃えればいい現場」。つまり比較的安全。
たまーに銃を使う時は、猛獣を撃つ時だけだった。

満期退役したとき、二人は日本に戻る気にならなかった。居場所があるとは思えなかったのだ。


二人は傭兵仲間を頼りながら、小さな仕事を彼らから受けてこなしては転々とし、外国生活をそれなりに楽しんでいた。
転々としていたので、大きな買い物とかはしない。ので、少しづつ貯金もできていた。

僕の母が僕を身ごもった時、彼らは身を固めるほうがいいかなと考え、今まで散々あっちこっちに行っていた経験とコネで、小さい規模でバイヤーを始めた。
ニッチな、隙間を狙った、小規模バイヤーのみできるようなものばかりを。
でも、場所によっては小規模取引が何件も、しかも継続するような場所もある。
だが、そういうのは、普通の場所ではありえない。


ムタエラも、”そういう”場所だった。
戦乱の始まりはカラー革命。その超巨大西側国家の策略の1つにより、その小さな国には戦乱が引き起こされた。
ムタエラはその小さな国の要衝。東と南の国と国内をつなぐ街道の交差点。国軍の要塞もあった。
ムタエラは実質単独独立し、どこにも加わらず、なるべく戦闘を避けていた。そして他の軍の駐留を許さなかった。
その街に、物資を入れたり出したりするのが、スミストレーディングに任された仕事だ。
街で織られた高価な絨毯なのどの織物を輸出。主に食料・医薬品の輸入。

ただ、輸送ができなくなれば、その仕事も継続不可能になる。
その最後のトラックが、先程到着したのだ。最後の食料と医薬品を積んで、命からがらやってきてくれたガッツあるドライバー、父の昔の仲間だ。
その空のトラックに両親と僕が乗り込んだ。トラックが来た道はもうNATOを中心にした部隊が押し寄せていた。目に入るもの全てを蜂の巣にして安全を確保しているという。
なので、逆方向に逃げるしか無い。
情報はあまりなかったが、蜂の巣確実よりはマシな選択。



外国の連中が「解放軍」と言っている、麻薬ジャンキー山賊部隊みたいなのが、新品のトヨタピックアップに新品重機M2を据え付け、爆走しながらでかい弾丸をばらまいて、岩漠の中にある街を襲っている。
それが何台もいる。ときには仲間のピックアップに撃ち込み、爆破させている。

遠くの高台から双眼鏡で、近くの街がそいつらに蹂躙されるさまを見ながら、先に進めずに困るジョン一行。

「30台はいるなー、あれが去ってくれなきゃ、どーしょーもねーな」
父の仲間のタイスだ。
「こんだけ見通しよけりゃ、闇に紛れて、ってのも無理だしなぁ、、」
父。ゲン・スミス。源次郎・隅須。
「どうしましょ、お水も少ないわ」
母。翔子。そのまま呼ばれている。
俺ジョンはそのとき15歳になっていた。




通常であれば、襲った街を蹂躙し奪い尽くすまで、あの規模の街なら最低1週間はかかるだろうと踏んだ。
俺達は少し戻り、脇道にそれることにした。

こういうところの脇道など、あってないもののようなものだ。
日頃から使われていれば道然としているのだが、たまにしか使われないと、もう大自然の一部でしか無い。
だが、なんとなく先がわかる、という意味では「生き残る唯一の道」となるのだ。

数日、水の節約で唇どころか皮膚がひび割れしそうだった。
が、ようやく小さな村にたどり着いた。
僅かな食料と僅かな水を交換し、すこしばかり生き返り、また先を目指した。

砂漠気味の地帯から完全に土漠に入ると、タイヤを傷つけないように低速で走っている。
と、、数キロ先から土煙が見える。
タイスはトラックをUターンさせ、先程通り越した岩山の影に車を隠した。
半時ほどたつと、先日街を襲っていたのと同様の新品装備の武装山賊どもが10台ほど岩山を通り過ぎていった。

・・・・・
「仕方がない。俺らにはどうしようもないんだから」
ゲンがつぶやく。さきほど立ち寄った小さな村は、山賊解放軍の行く先にあるのだ。
「やるせねぇな、、、毎度のことだが、、」
タイスは何度も見てきたのだろう。無力な者達は蹂躙される。正義?そんなもの存在しない。
強いものが正義を名乗っているだけなのだ。

「この先、村があっても、、、」ゲン
「まぁ、行くしかねぇけどよ。俺らは、生きて帰るぞ!」タイス


それから、幾度かの危険を避け、俺達は大きな、国軍が街の外に駐留している比較的安全な街にたどり着いた。
タイスは国軍の知人に会いに行って、そこからなんかの仕事を受けたようで、俺らと別れた。
俺らは更に大きな街に向かうトラックの荷台に揺られた。

そうやって、首都にたどり着いた。たまにミサイル攻撃を受けるが、基本平静とのことだ。破壊も目立つほどやられてはいない。
人々もぴりぴりしていないのが、さほどの危機は無いことを現している。
小さな宿に落ち着き、日本に帰る手配を始めたが、全く役に立たない大使館とのこと。
なので、もう一つの国籍の宗主国フランス大使館を頼り、一旦フランスのどっかの都市まで出ることにした。
だが便は「チュニジアまでなら、、」とか元植民地先ばかりで、、いくつ経由することになるのか、、まぁ安全度が高けりゃいいが、、



その後、紆余曲折を経て日本に到着。アパートを借り、僕を学校に入れ、両親は新たに仕事を始めるためにまた海外に旅立った。安全な日本なら子供一人で暮らせるから。

幼い頃から、両親が電話やネットが通じない地域に居る場合、僕との連絡は特別な通信網を使う、ということになっている。
今回も大半は一般通信が通じないところにいる両親。勿論学校などないだろう場所だと容易に想像つく。


僕が安全な街で日本人の子供として普通の生活を産まれて初めて味わいはじめてから数カ月後、両親との”今時モールス?!”で、現地に来るようにと連絡を受けた。

僕はネットで航空券を買った。両親のいる国へは2回乗り換え後、長距離バスがまだあればバス。なくなっていればトラックに便乗させてもららう。
戦乱の国だが、両親の居る場所はまだまだ戦火が届いていないはず。だから僕は呼び寄せられた。1年は平穏で過ごせるだろうと見越しての、両親の拠点への僕の呼び寄せだから。



それはジョンや両親にとっては、ごく普通の日常。
それがまた再開する。





ちなみに
隅須はもともとは日本名の名字があった。が、満期除隊後フランス植民地で植民地国籍を得て、そのときにフランス名はスミスにした。
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