第37話 救いのあるカッコ悪さ
文字数 1,563文字
「優和は本当は何で正人と別れたの?」
その質問によって、優和は、先ほどまで明美を同士だと思っていた自分がずいぶん懐かしく感じられた。
この質問に答えることで何が変わってしまうんだろう。
優和は慎重だった。
別れた理由なら先日話したつもりだった。
明美はそうではない事実を求めていたが、優和にとってはあれが事実だった。
少なくともそう信じていた。
優和は自分が都合がいいように考えがちであることを知っていた。
そしてそれは悲しまずにいられる選択でもあった。
母親はどんな時でも、立ち止まらず、前を向いて歩いていくことを求められる。
とくにシングルとなればなおさらだった。
しかし優和の元々の性格はそれに合わなさ過ぎた。
でも優和は努力した。
それがプラス思考でなんでも捉えようとする賜物だった。
ある意味自分に都合のいいように考える、まさに優和が最も自分に合っていないと思っていた性格だった。
それは優和にとって明美を思い出させた。
でも優和にとって、それが自分の感情を誤魔化すために、そして弱い自分を無視するために用いられる戦略だったのに対し、明美のそれは先天的な性格と言う意味で全然違っていた。
明美の場合、その都合のよさは全てそれに合っている性格が揃ったうえでの一つだった。
だからそれが不自然ではなく、調和がとれ、明美の一部となっていた。
それに対して優和の場合はある意味自分に合っていない性質を無理やり、それも妥協する形で意識して取り入れていたため、常に葛藤しなければならなかった。
優和は母親に合っていない自分とまさに努力もせずに母親になれてしまいそうな明美を比べた。
優和は明美が優和にないものを何も努力しなくても全て持っているように感じた。
「明美はどうしてだと思う」
優和はそんな明美が優和の何かに嫉妬しているのを感じていた。
でもそれが何か分からなかった。
「どういうことで喧嘩した?」
「どうしてそんなこと聞いてくるの?」
優和は明美の質問に質問で返し、明美をじらした。
「正人に不満はあった?」
それでも諦めずに優和と正人との関係について明美は質問し続けるのであった。
優和は余裕がなく聞いてくる明美になぜか腹が立った。
それは、そこまでして正人との幸せを求める貪欲な明美の姿に、自分との明らかな違いを感じたからだった。
優和は知りたくなくても、明美が正人のことを心底愛していることに気づかされた。
明美のその必死な姿はカッコ悪かった。
でもそれは優和がどんなに望んでも、もう叶わない姿だった。
「正人は私のことを誰よりも理解してくれる人だった」
優和は悔しかったのだ。
そして悲しかった。
明美とは違う形でしかなれない自分のカッコ悪さに心の底から嘆いていた。
「私も誰よりも正人のことを理解できていた」
もう明美は質問できなかった。
それは明美の質問とは違う答えを返す優和に動揺しているせいではなかった。
明美の反応は、まさに正人のことを本当に愛しているからこその自信のなさの表れだった。
その余裕のない姿に正人から同じように愛されているはずの明美が簡単に想像できた。
それは以前の優和だった。
優和はあの時の優和を深く愛してくれた正人にはもう二度と会うことができないことを思った。
優和は虚しくなる気持ちを無理やり押し込んで、挑発する様に明美を見た。
優和にとって明美の自信を失わせることは簡単だった。
「明美はどうなの?」
優和は自分のカッコ悪さに泣きたくなった。
そしてどんなにカッコ悪くても救いがある明美がどうしても羨ましかったのである。
その質問によって、優和は、先ほどまで明美を同士だと思っていた自分がずいぶん懐かしく感じられた。
この質問に答えることで何が変わってしまうんだろう。
優和は慎重だった。
別れた理由なら先日話したつもりだった。
明美はそうではない事実を求めていたが、優和にとってはあれが事実だった。
少なくともそう信じていた。
優和は自分が都合がいいように考えがちであることを知っていた。
そしてそれは悲しまずにいられる選択でもあった。
母親はどんな時でも、立ち止まらず、前を向いて歩いていくことを求められる。
とくにシングルとなればなおさらだった。
しかし優和の元々の性格はそれに合わなさ過ぎた。
でも優和は努力した。
それがプラス思考でなんでも捉えようとする賜物だった。
ある意味自分に都合のいいように考える、まさに優和が最も自分に合っていないと思っていた性格だった。
それは優和にとって明美を思い出させた。
でも優和にとって、それが自分の感情を誤魔化すために、そして弱い自分を無視するために用いられる戦略だったのに対し、明美のそれは先天的な性格と言う意味で全然違っていた。
明美の場合、その都合のよさは全てそれに合っている性格が揃ったうえでの一つだった。
だからそれが不自然ではなく、調和がとれ、明美の一部となっていた。
それに対して優和の場合はある意味自分に合っていない性質を無理やり、それも妥協する形で意識して取り入れていたため、常に葛藤しなければならなかった。
優和は母親に合っていない自分とまさに努力もせずに母親になれてしまいそうな明美を比べた。
優和は明美が優和にないものを何も努力しなくても全て持っているように感じた。
「明美はどうしてだと思う」
優和はそんな明美が優和の何かに嫉妬しているのを感じていた。
でもそれが何か分からなかった。
「どういうことで喧嘩した?」
「どうしてそんなこと聞いてくるの?」
優和は明美の質問に質問で返し、明美をじらした。
「正人に不満はあった?」
それでも諦めずに優和と正人との関係について明美は質問し続けるのであった。
優和は余裕がなく聞いてくる明美になぜか腹が立った。
それは、そこまでして正人との幸せを求める貪欲な明美の姿に、自分との明らかな違いを感じたからだった。
優和は知りたくなくても、明美が正人のことを心底愛していることに気づかされた。
明美のその必死な姿はカッコ悪かった。
でもそれは優和がどんなに望んでも、もう叶わない姿だった。
「正人は私のことを誰よりも理解してくれる人だった」
優和は悔しかったのだ。
そして悲しかった。
明美とは違う形でしかなれない自分のカッコ悪さに心の底から嘆いていた。
「私も誰よりも正人のことを理解できていた」
もう明美は質問できなかった。
それは明美の質問とは違う答えを返す優和に動揺しているせいではなかった。
明美の反応は、まさに正人のことを本当に愛しているからこその自信のなさの表れだった。
その余裕のない姿に正人から同じように愛されているはずの明美が簡単に想像できた。
それは以前の優和だった。
優和はあの時の優和を深く愛してくれた正人にはもう二度と会うことができないことを思った。
優和は虚しくなる気持ちを無理やり押し込んで、挑発する様に明美を見た。
優和にとって明美の自信を失わせることは簡単だった。
「明美はどうなの?」
優和は自分のカッコ悪さに泣きたくなった。
そしてどんなにカッコ悪くても救いがある明美がどうしても羨ましかったのである。