第1話

文字数 871文字

先日、私は電車内で屁をした。ここで言い訳なのだが決して周囲の人々は嗅いだ瞬間に泡を吹いて倒れ阿鼻叫喚、地獄であるかのような様相を呈するほどの威力を持っていないただの屁である。
むしろ身体の濾過器管において紆余曲折あり、空気中にある化学スモッグや排気ガスなどの悪性物質を取り除き、通常の空気より綺麗な気体といっても過言ではないだろう。
なにはともあれ、屁をしてしまったのである。私から発せられた空気の振動音は8両編成の後ろから2両目、乗っていた車内においてラッパの如く高らかに響き渡った。ああ、そんなに響がなくても良いではないか!日々慎ましく、善良な市民を演じている私になんの恨みがあるのだ!!しかし、私の叫びなど御構い無しに屁の音は全ての乗客へと届いてしまった…。
するとどうであろう。先程まで友と定義づけられているで人と他の乗客など眼中にないように騒いでいた女子校生も!他の人には気づかれぬよう脇の汗を気にしていた中年サラリーマンも!その他諸々の人々がこっちを向き、顔を綻ばせたではないか!畜生、人の失敗を見てそんなに楽しいか、人の屁を見て笑って良いのは屁をこいたことのない人だけだとかキ●スト様がいっていたのを知らぬか!こんな乗客がいる電車に誰が乗ってやるかと私は目的地から3つ前の駅で降りた。
地球上で屁をこいたことのない人などいないだろう。いや、一人だけいた。イタリアのヘッダメー伯爵である。彼は誕生直後の赤ん坊の頃から決して屁というものをこかず、23歳の若さで臨終した。その理由とは何か?「自爆死」である決して「被爆死」でないことに注目していただきたい。彼は身体の内部から押し寄せる屁の圧力により自ら弾け飛んだのである。私は屁の羞恥心から死ぬなどということにはなりたくない。今度彼らが私の屁を見て笑ったらこう言い放ってやろう。
「貴様ら、ヘッダメー伯爵を知らぬか!!これは生きるための屁だ、笑われる筋合いは毛頭ない!」と。
余談であるがヘッダメー伯爵などという馬鹿げた人物など存在しない。全て私の妄想である。
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