第84話  フリーダム白竹一家 2

文字数 4,532文字

 ※


 二時限目も何事も無く終わり、平和な時間が流れてゆく。たまにはこんなゆっくりとした学校生活も悪くない。


 窓の向こう側には降りしきる雨に、ポツポツと小さな雨音が聞こえてくる。少しばかりひやっとした教室の中は、眠り姫の聖奈にとっては絶好の環境ではないだろうか。



 寝ている聖奈の傍での会話は禁止。これは遠方組だけに留まらない。聖奈の机から三マス以内の奴は自主的に席を立つという妙な現象が起きていた。


 聖奈は「別にいいのに」とは言うものの、みんなが勝手にやり始めたことであり、自分の事ではないのに申し訳ない気持ちになってくる。




 と言う訳で、いつもの廊下で喋る遠方組であったが、これまたいつものように西部が付いてくる。


 だが、いつもの西部よりも明らかにパワーダウンしているのか、その視線は白竹さんではなく、俺や染谷くんだった。

なぁ。黒澤。染谷でもいい。ちょっと金貸してくんね?

昼飯代忘れちまった……

西部、今日はマジでツイてないな

 思わず言っちまった。  

 本当についてないというか、不幸が重なる時ってあるよな。

ありがとぉ! 恩にきるぜ! お前大好き!

 俺は西部に定食代を渡すと、すげー感謝された。

 いつもなら何か文句でも言ってきそうなものだが、反撃してこないあたり、元気が無いようにも思える。


 しかもすぐに俺達から離れて行き、教室に入ると自分の席に座って突っ伏し出した。

あいつどうしたの? 大人しすぎてキモいね
 そう染谷くんが言うと、白竹さんも首を傾げる。
まぁ長い人生ツイてない日はあるよなって感じかな
 そこから染谷くん達に今日の西部ヒストリーでも話してやろうと思ったが、その時急に白竹さんが大きい声で「あっ」と漏らすと、俺達の視線を一気に集めた。
あふっ! た、大変でし。お、お弁当忘れてしまいましたぁ!

 白竹さん? スマホを持ちながら目が真っ白になってますよ。

 そんなに弁当を忘れたのがショックだったのでしょうか?


 彼女に言葉を掛けようとすると、急に背を向けたと思えば「魔樹」と叫びながら隣のクラスへ走っていくではないか。

ん? どうしたのかな

弁当を忘れただけで……

まぁ白竹さんの場合、だけ。じゃないのかも

 その場にいてもしょうがない俺と染谷くんは、ゆっくりと隣のクラスの窓から教室内を覗き込んだ。

まずい……
 すると魔樹もやたら驚いている。驚いているというか、顔が引きつっているぞ。白竹さんのスマホ画面を見ながら、固まっちまった

 こんなタイミングで顔芸をかました魔樹は、白竹さんに両腕を掴まれて「ど~しよう!」と訴えかける。


 なんだなんだ? 何が起こるんだ? 


 そう思ったのは俺達だけじゃなくて、クラスの奴らも注目し出すと、魔樹はようやく我に返ったようだ。

 白竹さんの手を取った魔樹は、廊下に出てくると
とにかく逃げよう
 逃げる?


 何だか物騒な話になってきたと思ったら、魔樹が俺達を見ながら再び白目になってしまう。


 しかも白竹さんに限っては完全に怯えてやがるし。

ああっ……

 まるであと三秒くらいで死にそうな顔になった魔樹。

 よく見ると、俺達に驚いているんじゃなくて……後ろ?

え?

 隣にいる染谷くんがそう漏らすと、他のクラスの連中も同じようなリアクションを取っていた。


 俺は後ろに振り向くと、みんなと同じように「え?」と漏らす以外リアクションなんて取れない。

 そんな事態に陥っていた。

ふふっ。美優っ! あなた。お弁当を忘れていたわよっ!

 え? え? なにこれ。


 し、白竹さんが……二人いるだと?


 一人は魔樹にしがみついてる白竹さんと……


 弁当が入っていると思われるカバンを持った白竹さん。

 俺の視界がバグっていなければ、目の前に白竹さんが二人見える。

 同じ髪型に同じ顔。ピンク髪は勿論のこと、その姿形は全く同じであった。

 ※


 目の前には白竹さんと思われる人物が……二人いる。


 一人は魔樹の後ろに隠れて、やたら怯えた様子で伺う白竹さんと、弁当が入っていると思われるカバンを持った白竹さん。


 その様子を廊下に出ていた人間全てが注目していた。

はい。忘れちゃダメよ

 魔樹にカバンを渡した白竹さんは終始にこやかである。


 だがカバンを受け取った魔樹は白目のままで「うあっ……」っと漏らし今にも後ろに倒れそうだぞ。

どう? まだまだいけるでしょ? 普通にここまで入れたし……あれ?

 その時、弁当を持って来た方の白竹さんと目が合うと、急に俺の目の前まで接近してくる。



 え? なに?

ふわっ、ああっ~~~!

 ちょっと! なんだ?


 目の前で指差して、そんな驚かなくてもいいじゃないですか。むしろ俺の方がビックリしてるんですけど。



 などと思っていると、急に真剣な表情になってしまった白竹さんは、俺の顔に視線を固定させると、暫くしてからうんうんと頷いた。



 何一人で納得してるの? 



 そんな状況の中、周りの人間は全員俺に注目していた。しかも魔樹やその後ろの白竹さんまでじっとこちらを伺っているし。


黒澤に反応? なぜ?
そっか。そういうことなのねっ! 分かったわっ! 全て!

 はい?

 

 手のひらをぽんと叩いた白竹さん。何その可愛いリアクション。

 

 そんな彼女はくるっと背を向けると、魔樹の元へ戻ったかと思えば、後ろにいる白竹さんに問いかける。

美優。ちょっと入れ替わりなさい。チェンジよ! チェーンジっ!
 入れ替わる? その言葉は俺にとって妙に引っかかってしまう。入れ替わり体質だけにな。

かわるのよ! 私が代わりに授業を受けるわっ

受けてあげるわよっ!

 ピョンピョン飛び跳ねる白竹さん……の別の人。

 ってかこのノリ。白竹ママみたいなんだけど。



 青ざめた魔樹は暫くして「従おう」と言うと、後ろにいた白竹さんの手を取ってから「あ、これ」と言いながらカバンを元の白竹さんに返した。


 と思ったら……



 白竹さんの手を引っ張り、猛スピードで廊下から姿を消すと、あっという間に階段を降りていくのだった。

は?
お、おい! 魔樹っ!

 その様子を見ていたのは俺や染谷くん。そして現場に偶然居合わせたクラスの面々である。


 そしてカバンを持ってきた白竹さんだけが残された。

ふふっ。うふふふふ
 あの……なんで俺の顔見ながら超笑顔なんすか?
黒澤くん。お友達?
い、いえ。違うと思います。あの、俺にもよく分からないんだけど
 などと否定してる間に、いつの間にか白竹さんに腕を取られていた。腕を取られるというよりも、腕にしがみ付かれるというか、俺にぴったり張り付いた彼女は、小声で囁いてくる。
んもう。知ってるでしょ?
い、いえ。何のことかサッパリです。無実です。知りたいのはこっちなんですが
うへ!
え?

 な、なに? 今の。


 今一瞬だけ。白竹さんの目がキラってたんですけど。

 とにかく張り付いた腕を離そうとするが、これが取れない。

 ちょっとばかり力を入れても微動だにしない。


 白竹さんらしからぬパワーにたじたじである。

 というか……油断したとはいえ、真正面から腕を取るなんて……


 そんな時後ろから西部の怒号が聞こえてきた。

ぬぅあっ! く、黒澤ぁ! てめぇは俺の白竹さんと何してるんだぁ!

 振りむくと、オールバックの頭から角を生やした西部がヅカヅカと俺に接近してくる。

 ああもう面倒な奴に見られた。

 とにかく誤解を解かねば。まずはこの腕を……



 なんだこれ。がっちりホールドされちまって取れない。

 彼女にこんな腕力があるなんて……

白竹さん。トチ狂っちゃダメです。

何で黒澤に……こいつにはボス神さんという女王様がいるというのに!


こっちです! こっちの腕に引っ付きましょう!

 もういいからちょっと黙れ。


 このままじゃあらぬ噂が立つのは間違いない。

 そう思い本気で振りほどこうとすると、その瞬間ぱっと腕が離れた。

えっと白竹さんの……双子さんでいいんですよね?

そうよっ! 私と美優は双子なのよっ!


ふたご。な~~んですよ~~~!

 やっぱりキラってる! 見間違いじゃなかった。

もしかしてこっちが喫茶店で働いてる白竹さんみたいな展開?


いあ。しかし何となくキャラが違うし……違いすぎんだろ。

 染谷くんがそう質問すると、俺はようやく気がついた。

 彼にそう言われるまで一番大事な疑問が頭からスッポ抜けていた。

双子? 染谷。どーいうこと?

お前見てなかったの? この子は俺らが知ってる白竹さんじゃない。

すっげー似てるけど……違うんだ。さっきまで二人いたんだよ。同じ格好で

 西部に説明している染谷くん。馬鹿に教えてやってくれ。



 その間にまた白竹さん二号が腕に絡んでくるし、でかい胸が押し当てられ、女性特有の甘ったるい匂いが漂ってくる。


 っというか俺が……同じ相手に二回も腕を取られるだと?


 じゃなくて! 

 ちょっと待ってくれってもうっ! 何なんだこの人は!


ちょっとマジやめてください。それと俺達の質問に答えてもらえます?
少しばかりキレそうになった俺を見たのか、腕をぱっと離した彼女は超笑顔を見せて丁寧なお辞儀をすると、

そうです。私は白竹魔優といいます。美優の双子の妹よっ!


そうっ! 私はっ! ま、ゆ、う! 双子の妹なのよ~~~っ!

 まゆう? その名前を聞くと、何だか前にも聞いた事があるような……そんな気がした。
双子っつーか。中身は白竹さんのママそっくりだろ。
妹っていうより……仕草や口調が白竹ママに見えるんだけど。
だけど本当にソックリでびっくりだよ
 染谷くんが一人でうんうんと頷くと、俺も同意するのだった。

いや。俺にはすぐ判別できたぞ。お前らの目は節穴か?

は? どこで分かるっていうんだよ

ってかお前さっき、俺の白竹さんとか言ってただろ!

おっぱいの大きさが違うだろ? 嘘だろお前ら。わかんねーの?


お前ら、それでも男かよ!

 こいつに聞いた俺が馬鹿だった。思わず額に手をやりうな垂れていると、西部は彼女の胸をガン見しだした。



 すると次の瞬間には西部の顔がバグったかの如く、やたら驚いてやがる。

いや、待てよ……こ、これわっ! このおっぱいはまさか!


レジェンドおっぱ……ぐはっ!

 思わず西部を静止しようと思ったが、先に魔優ちゃんが「ちょいあーさー!」と言いながらビンタすると、すっげー音と共に西部は崩れ去った。



 ちょいあーさー? 妙な掛け声だな。

あの形状はまさに……ま、まにゅ……ぐほっ!

そいやーさぁ! どっこいさっ!

エロガキには興味ないのよ。

 倒れた西部は容赦なくローキックの連打を食らっていた。

 っつーか早い! 凄まじい速度で西部の脇腹にヒットしてるぞ!


 最後に股間をグリグリされると、悶えながら白目になっていた。




 西部。やっぱお前……今日はツイてないわ。

 悪いことは言わん。今日一日は大人しくしてたほうがいいぞ。




 さて、意味が分からない事だらけで、謎だけが頭をグルグル回る中、次の授業を告げるチャイムが鳴るりひびく。


 とりあえずは教室に戻ろうとすると、白竹さん二号がついてくる。

私の席はどこ? ここのクラスでいいのよね?

 まさか。二号さん。本当に白竹さんと入れ替わるつもりなのか? 

 

 確かに。見た目云々はソックリなので、バレはしないだろうけど……

 何で俺ばかり話しかけてくるの?

 

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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