待ち人
文字数 3,861文字
「腕の良い医薬師様がいると、ご紹介を受けました」
そう言って、濡れ鼠 の母子 三人が、療養所の扉を叩いた。
母親に肩を抱かれた少年が、その手にギュッと握っているのは漆黒の羽根。
(どういう、こと……?)
出迎えたレヴィアはわけがわからず、目の前が真っ暗になる。
土砂降りの雨のあとで、ロシュの羽だけが戻ってきた。
竜と竜騎士は、今どこにいるのだろう。
(まさか……)
「すてきなりゅうのおひめさまがねー、にーちゃん、たすけてくれたんだよ!」
最悪の事態を想定して青ざめたレヴィアは、小さな女の子の声で我に返る。
(すてきなおひめさまって、ミーシャのこと?)
「アルテミシア様より羽根をいただきました」
「……どうぞ、お入りください」
深く頭を下げる母親を促がして、レヴィアは痛いほどの鼓動を刻む胸を押さえながら、診療所の扉を大きく開けた。
三人分の着替えや、体を温める薬茶。
スヴァンとメイリにかいがいしく世話を焼かれて、そのたびに母親は恐縮しているが、子供たちはくすぐったそうに笑っている。
その様子を見る限り、レヴィアが恐れているような事態にはなってなさそうだ。
(でも、どうして帰ってこないの?ミーシャ)
口を開けば、母子 をきつく問い詰めてしまいそうで。
レヴィアは無言でフェドを診察する。
その横では、先ほどトーラ王国から戻ったばかりのジーグが、旅装も解かずに母子 から話を聞いていた。
「そうか、川に流されたのか……。命が助かって何よりだ」
涙に咽 び、幾度も礼を口にする母親を慰めながら、ジーグは眉を曇らせる。
フェドの擦り傷に軟膏を塗るレヴィアを、スヴァンがのぞき込んだ。
「ほかに処置は必要ですか?骨の具合とか」
「問題ない。スヴァン、三日分の傷薬を出してあげて」
「了解です」
「あ、レヴィア様、あとは私たちが……」
後片付けを始めたレヴィアを、メイリが止めようとしたとき。
「怪我人が運ばれたって?」
騒ぎを聞いてやってきたラシオンが、母子 と診療室にいる面々をぐるりと見渡した。
「重症、じゃあねぇみてぇだな。よかったよかった。ん?お嬢は帰ってねぇのか」
「ああ、まだ戻らない。あなた方をこちらに寄こしたアルテミシアは、ほかに何か言っていただろうか」
威圧感を与えないように。
ジーグは腰かけている母子 の傍らに膝をついた。
「まだやることがあるからと、おっしゃっていました」
鼻をすすり上げながら母親が答える。
「あのっ」
一緒に戻らなかったことで、アルテミシアが責められるとでも思ったのだろうか。
拳 を握りしめたフェドが、すっくりと立ち上がった。
「アーテミッシャ様は、本当は送ってやりたいけれどと、おしゃってくださいました」
「あのね、ごーごーの川に、おひめさま、じゃぼーんって。にーちゃんのここのところ」
テーニャは自分の胸の辺りを指さす。
「ぎゅっぎゅっておしてね、そしたら、にーちゃん、おきたの!」
(ミーシャが蘇生 術を……。なら、無事でいてくれてるのかな)
レヴィアはやっと小さな息をついた。
発熱や痛みが出たら、すぐに診療所を訪ねるようにと告げられた母子 は、何度も礼を言いながら帰っていった。
「久しぶりに、でかい嵐だったからなぁ」
ラシオンが窓の外を眺めると、傾きかけた陽射しが、雨上がりの街を輝かせている。
「やることって何だろな。川で溺れたの助けたってんなら、ふくちょが行ったのって、平原?メイリ、ふくちょからなんか聞いてっか?」
「う~ん、とくにはおっしゃってなかったけど」
首を傾げ合うヴァイノとメイリを、レヴィアが無表情で振り返った。
「ヴァイノたちがミーシャと一緒に帰ってこなかったのは、どうして?一晩、一緒にいて、午前中も訓練があったんでしょう?」
「え?いやぁ、急にふくちょが先に帰るって。……なぁ」
冷徹のまなざしに恐れをなして、ヴァイノはスヴァンに助けを求める目を向ける。
だが、頼みの友人は半眼を返すばかりだ。
「ヴァイノ、”きょーいくした”って言ってたじゃん。それってやっぱ、余計なこと言ったんじゃない?」
「バカ、オマエ!ちが、そ、そんな大したこと言ってねーって」
一歩踏み出したレヴィアの圧に、ヴァイノはじりじりと後ずさりをする。
「ふくちょがさ、いろいろ誘われんの、困ってんのに断んねーからさ。好きなヤツとだけお出かけすればいいじゃんって、言っただけだって」
「……そう」
レヴィアの表情から険が抜けた。
それは、かねてからレヴィアも伝えたくて、伝えられずにいた言葉だから。
「でもさ、ふくちょ、誘われるのは嫌じゃねーって言うんだよ」
レヴィアが顔を曇らせるのを見て、慌ててヴァイノは続けた。
「仕事じゃなくて出かけるとか、なかったからって」
レヴィアがはっとした顔を上げると、どこか痛そうな顔をするヴァイノと目が合う。
「ずっと竜騎士だったからって。ずっと、あんなふうに戦うことが当たり前で、ダチもいなくて……」
ヴァイノが口を閉じると、診察室に沈黙が落ちた。
「……でも、ふくちょ、オレらと出かけんのは楽しいって。だから、たくさんお出かけしようなって言ったんだよ。んでさ」
ヴァイノの口角がにやりと上がる。
「デンカと遠乗りするのが、一番楽しいってよ」
「遠乗り?お嬢はロシュで出てるんだよな。……ヴァイノ、お嬢はいつ、うちの領地を出た?」
「え?……昼ちょっと前、かな。一緒に飯食う?って誘ったけど、帰るって」
「じゃあ、こっちに戻ったのって……。あー、そっかそっか、なるほどなぁ」
ラシオンがうんうんと小刻みにうなずいた。
「レヴィア、お嬢は見ちゃったんじゃねぇかな」
「見ちゃった?……何を?」
首を傾 げるレヴィアに、ラシオンがにやりと笑う。
「ご令嬢部隊に、お前が囲まれてるところをさ」
「ご、ご令嬢部隊?!囲まれる?」
ヴァイノの声がひっくり返った。
「ナニその状況。うらやましいの?恐ろしいの?」
「私の留守中、何かあったか」
探る金の瞳に、ラシオンは肩をすくめる。
「いや、外交的なこととかじゃなくてな。ちょっと前に、主 だった領主家から頼まれてたんだんだよ。自分のとこの子息令嬢に、この街を見学させたいって。じゃあ、まとめて案内をしましょってんで、それが今日だったんだ。なんつったって、レヴィアは今、スバクルで超絶人気者だからさ」
(人気者、か)
ジーグはふむ、と腕を組んだ。
悪いことではないが、トーラ王国の王子であるレヴィアとスバクル領主家の者との関係は、良くも悪くも外交問題になる。
ジーグの指があごに当てられるのを見て、ラシオンがくつくつと笑った。
「そんなに深刻なことじゃねぇって。スバクルを救った”青竜を操る竜騎士”、しかも、隣国の王子サマだろ、レヴィアは。意地でも貢物 を持ってきただけだよ。……凄腕の狩人の目つきでな」
「あー、なんかわかるー。菓子屋で物色してるアスタとメイリの目って、ちょっと怖、ぶへっ」
左右からアスタとメイリの拳 を受けて、スヴァンは慌てて口を閉じる。
その横で、ヴァイノはしきりに首を捻 っていた。
「ロシュを出したんならさぁ、デンカと遠乗りするつもりだったんじゃねーの?ふくちょは。あのヒト、ご令嬢部隊なんて気にしない……」
そこで言葉を止め、目を見開いたヴァイノの口が、大きく開いていく。
「そっかそっか。気にしたんだ、ふくちょ」
(どうよ、きょーいくの成果が出てるじゃんか!)
ヴァイノは勝ち誇った顔で仲間を見渡した。
「モテモテのデンカ見て、拗 ねて、ひとりで出かけちゃったんだ。なーるほどねぇ」
「でも、なんで平原なんだろ」
今度はスヴァンの首が傾いた。
「遠乗りならさ、すぐ近くの湖水地帯とかのが良くない?カーヤイ領の丘陵 なんか、眺めも良くてキモチいいのに、なんでわざわざ」
――あの激戦が繰り広げられた平原に行くのか――
言葉を飲み込んだスヴァンと愚連隊が、顔を見合わせてうなずき合うのにかぶせて。
「墓が、あるからな」
「……あ」
ジーグの低い声に、愚連隊たちの背が伸びた。
――流れた血は忘れない――
トーラ陣営を張っていた場所に建てられた石碑の意味を、刻まれた言葉の意味を。
ここにいる全員がわかっている。
夜中に診療所を抜け出したアルテミシアは、いつだって
「僕、ミーシャを迎えに……」
「いや、ここで待て」
今にも出て行きそうになるレヴィアを、ジーグが止める。
「こういうときのリズィエは、予測のつかない行動を取る。トレキバでもそうだったろう。北限都市の初夏に、泉で泳ぐなど」
「トレキバ騒動」を思い出したレヴィアは、赤くなった顔を隠すようにうつむいた。
澄んだ水の中で、一糸まとわぬ姿で泳いでいたアルテミシア。
日差しを反射する水面に、しなやかな肢体が透けていた。
あのときは、ただ失礼だと思って背を向けただけだけれど。
今となっては、とても平常心ではいられない。
「行き違いになりかねない。ここで待とう。”待たれている”とわかっているから、必ず帰ってくる」
「……うん」
寝過ごして、慌てて戻ったトレキバの屋敷で。
ジリジリとした様子で、それでもジーグは待っていてくれた。
「今回は、僕もお説教するほうに回っていいのかな」
「もちろんだ」
すっかり成長した愛弟子に頬を緩めながら、ジーグはうなずく。
「存分に叱ってやってくれ。お前の説教のほうが効くようだからな」
目を見交わした師弟は、そろって大きなため息を吐き出した。
そう言って、濡れ
母親に肩を抱かれた少年が、その手にギュッと握っているのは漆黒の羽根。
(どういう、こと……?)
出迎えたレヴィアはわけがわからず、目の前が真っ暗になる。
土砂降りの雨のあとで、ロシュの羽だけが戻ってきた。
竜と竜騎士は、今どこにいるのだろう。
(まさか……)
「すてきなりゅうのおひめさまがねー、にーちゃん、たすけてくれたんだよ!」
最悪の事態を想定して青ざめたレヴィアは、小さな女の子の声で我に返る。
(すてきなおひめさまって、ミーシャのこと?)
「アルテミシア様より羽根をいただきました」
「……どうぞ、お入りください」
深く頭を下げる母親を促がして、レヴィアは痛いほどの鼓動を刻む胸を押さえながら、診療所の扉を大きく開けた。
三人分の着替えや、体を温める薬茶。
スヴァンとメイリにかいがいしく世話を焼かれて、そのたびに母親は恐縮しているが、子供たちはくすぐったそうに笑っている。
その様子を見る限り、レヴィアが恐れているような事態にはなってなさそうだ。
(でも、どうして帰ってこないの?ミーシャ)
口を開けば、
レヴィアは無言でフェドを診察する。
その横では、先ほどトーラ王国から戻ったばかりのジーグが、旅装も解かずに
「そうか、川に流されたのか……。命が助かって何よりだ」
涙に
フェドの擦り傷に軟膏を塗るレヴィアを、スヴァンがのぞき込んだ。
「ほかに処置は必要ですか?骨の具合とか」
「問題ない。スヴァン、三日分の傷薬を出してあげて」
「了解です」
「あ、レヴィア様、あとは私たちが……」
後片付けを始めたレヴィアを、メイリが止めようとしたとき。
「怪我人が運ばれたって?」
騒ぎを聞いてやってきたラシオンが、
「重症、じゃあねぇみてぇだな。よかったよかった。ん?お嬢は帰ってねぇのか」
「ああ、まだ戻らない。あなた方をこちらに寄こしたアルテミシアは、ほかに何か言っていただろうか」
威圧感を与えないように。
ジーグは腰かけている
「まだやることがあるからと、おっしゃっていました」
鼻をすすり上げながら母親が答える。
「あのっ」
一緒に戻らなかったことで、アルテミシアが責められるとでも思ったのだろうか。
「アーテミッシャ様は、本当は送ってやりたいけれどと、おしゃってくださいました」
「あのね、ごーごーの川に、おひめさま、じゃぼーんって。にーちゃんのここのところ」
テーニャは自分の胸の辺りを指さす。
「ぎゅっぎゅっておしてね、そしたら、にーちゃん、おきたの!」
(ミーシャが
レヴィアはやっと小さな息をついた。
発熱や痛みが出たら、すぐに診療所を訪ねるようにと告げられた
「久しぶりに、でかい嵐だったからなぁ」
ラシオンが窓の外を眺めると、傾きかけた陽射しが、雨上がりの街を輝かせている。
「やることって何だろな。川で溺れたの助けたってんなら、ふくちょが行ったのって、平原?メイリ、ふくちょからなんか聞いてっか?」
「う~ん、とくにはおっしゃってなかったけど」
首を傾げ合うヴァイノとメイリを、レヴィアが無表情で振り返った。
「ヴァイノたちがミーシャと一緒に帰ってこなかったのは、どうして?一晩、一緒にいて、午前中も訓練があったんでしょう?」
「え?いやぁ、急にふくちょが先に帰るって。……なぁ」
冷徹のまなざしに恐れをなして、ヴァイノはスヴァンに助けを求める目を向ける。
だが、頼みの友人は半眼を返すばかりだ。
「ヴァイノ、”きょーいくした”って言ってたじゃん。それってやっぱ、余計なこと言ったんじゃない?」
「バカ、オマエ!ちが、そ、そんな大したこと言ってねーって」
一歩踏み出したレヴィアの圧に、ヴァイノはじりじりと後ずさりをする。
「ふくちょがさ、いろいろ誘われんの、困ってんのに断んねーからさ。好きなヤツとだけお出かけすればいいじゃんって、言っただけだって」
「……そう」
レヴィアの表情から険が抜けた。
それは、かねてからレヴィアも伝えたくて、伝えられずにいた言葉だから。
「でもさ、ふくちょ、誘われるのは嫌じゃねーって言うんだよ」
レヴィアが顔を曇らせるのを見て、慌ててヴァイノは続けた。
「仕事じゃなくて出かけるとか、なかったからって」
レヴィアがはっとした顔を上げると、どこか痛そうな顔をするヴァイノと目が合う。
「ずっと竜騎士だったからって。ずっと、あんなふうに戦うことが当たり前で、ダチもいなくて……」
ヴァイノが口を閉じると、診察室に沈黙が落ちた。
「……でも、ふくちょ、オレらと出かけんのは楽しいって。だから、たくさんお出かけしようなって言ったんだよ。んでさ」
ヴァイノの口角がにやりと上がる。
「デンカと遠乗りするのが、一番楽しいってよ」
「遠乗り?お嬢はロシュで出てるんだよな。……ヴァイノ、お嬢はいつ、うちの領地を出た?」
「え?……昼ちょっと前、かな。一緒に飯食う?って誘ったけど、帰るって」
「じゃあ、こっちに戻ったのって……。あー、そっかそっか、なるほどなぁ」
ラシオンがうんうんと小刻みにうなずいた。
「レヴィア、お嬢は見ちゃったんじゃねぇかな」
「見ちゃった?……何を?」
首を
「ご令嬢部隊に、お前が囲まれてるところをさ」
「ご、ご令嬢部隊?!囲まれる?」
ヴァイノの声がひっくり返った。
「ナニその状況。うらやましいの?恐ろしいの?」
「私の留守中、何かあったか」
探る金の瞳に、ラシオンは肩をすくめる。
「いや、外交的なこととかじゃなくてな。ちょっと前に、
(人気者、か)
ジーグはふむ、と腕を組んだ。
悪いことではないが、トーラ王国の王子であるレヴィアとスバクル領主家の者との関係は、良くも悪くも外交問題になる。
ジーグの指があごに当てられるのを見て、ラシオンがくつくつと笑った。
「そんなに深刻なことじゃねぇって。スバクルを救った”青竜を操る竜騎士”、しかも、隣国の王子サマだろ、レヴィアは。意地でも
個人的に
お近づきになりたい令嬢方が、「あー、なんかわかるー。菓子屋で物色してるアスタとメイリの目って、ちょっと怖、ぶへっ」
左右からアスタとメイリの
その横で、ヴァイノはしきりに首を
「ロシュを出したんならさぁ、デンカと遠乗りするつもりだったんじゃねーの?ふくちょは。あのヒト、ご令嬢部隊なんて気にしない……」
そこで言葉を止め、目を見開いたヴァイノの口が、大きく開いていく。
「そっかそっか。気にしたんだ、ふくちょ」
(どうよ、きょーいくの成果が出てるじゃんか!)
ヴァイノは勝ち誇った顔で仲間を見渡した。
「モテモテのデンカ見て、
「でも、なんで平原なんだろ」
今度はスヴァンの首が傾いた。
「遠乗りならさ、すぐ近くの湖水地帯とかのが良くない?カーヤイ領の
――あの激戦が繰り広げられた平原に行くのか――
言葉を飲み込んだスヴァンと愚連隊が、顔を見合わせてうなずき合うのにかぶせて。
「墓が、あるからな」
「……あ」
ジーグの低い声に、愚連隊たちの背が伸びた。
――流れた血は忘れない――
トーラ陣営を張っていた場所に建てられた石碑の意味を、刻まれた言葉の意味を。
ここにいる全員がわかっている。
夜中に診療所を抜け出したアルテミシアは、いつだって
あの
丘のほうを向いて、立ち尽くしていた。「僕、ミーシャを迎えに……」
「いや、ここで待て」
今にも出て行きそうになるレヴィアを、ジーグが止める。
「こういうときのリズィエは、予測のつかない行動を取る。トレキバでもそうだったろう。北限都市の初夏に、泉で泳ぐなど」
「トレキバ騒動」を思い出したレヴィアは、赤くなった顔を隠すようにうつむいた。
澄んだ水の中で、一糸まとわぬ姿で泳いでいたアルテミシア。
日差しを反射する水面に、しなやかな肢体が透けていた。
あのときは、ただ失礼だと思って背を向けただけだけれど。
今となっては、とても平常心ではいられない。
「行き違いになりかねない。ここで待とう。”待たれている”とわかっているから、必ず帰ってくる」
「……うん」
寝過ごして、慌てて戻ったトレキバの屋敷で。
ジリジリとした様子で、それでもジーグは待っていてくれた。
「今回は、僕もお説教するほうに回っていいのかな」
「もちろんだ」
すっかり成長した愛弟子に頬を緩めながら、ジーグはうなずく。
「存分に叱ってやってくれ。お前の説教のほうが効くようだからな」
目を見交わした師弟は、そろって大きなため息を吐き出した。