第42話 恋人たち(2)
文字数 1,200文字
「……」
「……」
「……」
「ねえ、どうしてケイカは色楽になろうと思ったの?」
「それ、この前も聞いたよね」
「そうだっけ?」
「うん」
「また聞きたくなった」
「……子供の時から、他の子とどこか違うって気づいてた。それである日、家族でテレビを観ている時に親に言ったの」
「なんて?」
「『らいおんじぇーんが、わるいひとにエイってするとき、まっかにみえる』って」
「あはは、一緒だ! 僕はミラクルワンダーだったけど」
「それで母は飛び上がって喜んで、私を医者に連れて行ったわ」
「『我が子は天からの賜物を授かった』か。どの親も似たようなもんだね」
「あとは皆が小学生になった時にやる――」
「シトーウィック
「そう」
「でもそれって、適性の有無が判るだけだ。ケイカの心が決めたわけじゃあない」
「そういう言い方したら誰しも、そうだわ。決めるのは私じゃなくて、親だもの」
「敷かれた道を走ることにしたわけだ」
「うん。トウマだってそうでしょう?」
「まあね。でも僕の場合は
「それって……どういう意味?」
「共感覚がクレイジー過ぎた、とでも言ったらいいのかな。体にとって害になっていたのさ。分かるかい?」
「私たちが興奮した時みたいに、色彩があふれ出る感じ?」
「洪水だよ! 世の中が色の渦にしか見えない程のね! ひどい時は立つことすら出来なかった」
「力は選ばれた者だけに強く宿るんだわ。共感覚を持たない人は、私たちを
「僕はむしろ、その感覚を抑え込むために、子供の頃から薬漬けの毎日だった」
「じゃあ色楽になるのも嫌だった?」
「……おかしいや、いつの間にか質問する立場が逆になってる。まあ、そうだね」
「憧れなのよ。選ばれた時は本当に幸せで、お姫様になるみたいな気分だった」
「いいね。乗っているのはカボチャの馬車ってところか。同じ舗装されていても、僕はそこ以外走れない路面電車だ」
「ふふ、変な例え。あ! ごめん……」
「いいんだよ、おかしいと思えるほど、僕の例えは正解だから」
「……聞いてもいい?」
「何だい。ケイカには何でも話すよ。君に隠し事はしたくない」
「トウマ、どうして色が見えなくなったの?」
「生まれ持った特異体質、幼児期からの薬の
「ふざけてる?」
「いたって真面目だよ。医者に匙を投げられた。原因なんて分かるわけないよね。そもそも彼らには最初から、僕に見えるものが見えないんだから」
「ええとね、私の聞いているのはきっかけの方」
「……それを答えるのが一番きついかもしれない」
「いいの、無理に聞いてないよ!」
「いや、隠すつもりじゃない。前に君を小馬鹿にした言い方をしたのを謝らなくちゃならない。おかしくなったのは学年課題の日さ。あのプレッシャーは相当なものだからね」