第1話

文字数 1,995文字

 NOVEL DAYSとtreeの合同企画「2000字書評コンテスト」、今回のテーマは「さあ、どんでん返しだ。」です。

 ミステリ用語としての「どんでん返し」とは、結末でそれまで読者が事実だと思い込んでいたことを引っくり返し、まったく意外な真実を明らかにすることを指します、よね? たぶん。
 例えば、山田風太郎の『太陽黒点』などを「どんでん返しミステリ」の代表作として挙げれば、「おっ、なかなかのミステリ好きだな」と誰かに感心してもらえるかもしれません。少なくとも、「なかなかのミステリ好きだな、と言ってほしいんだな」と思われて嫌われるくらいの反応は得られそうです。

 今回の書評の対象作品は、どんな「どんでん返しミステリ」なのでしょうか。
 全部で七作品が挙げられていましたが、わたしの目を引きつけたのは、リストの最後にあった東川篤哉『居酒屋「一服亭」の四季』でした。

 謎解きは好きだけど、怖がりのわたしは、サイコホラー系やスプラッター系のミステリは、正直言って苦手です。殺人が起こらない日常の謎系か、ユーモアミステリが好みなのですが、日常の謎系はともかく、ユーモアミステリを専門に書く作家は、日本ミステリ界では珍しい存在である気がします。
 その意味で、東川篤哉作品は、(殺人事件は頻繁に起こるものの)いわゆる「血も凍るような」ミステリが苦手なわたしにとって、安心して読めるユーモアミステリであり、『密室の鍵貸します』に始まる烏賊川市シリーズや、第8回本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』シリーズなど、自分と同じような「怖がりの謎解き好き」にお薦めしたくなる作品が何冊もあります。

 ところが、早速「ア●ゾン」で検索してみたところ、なんと「画像がありません」という文字が表示されるではありませんか。
 な、なぜ書影なし? 戸惑うわたし。次の瞬間、あっけにとられました。出版予定日「2021年9月30日」?!
 わたしは慌ててNOVEL DAYSの「応募方法」を見直しました。「9月末日に【さあどん書評】のタグが付され、<完結>状態になっている作品が審査対象となります」。

 ちょっと待ってください! 9月30日に発売される作品をその日のうちに読了し、更に書評を書けってことですか?!

 いやいや、いくらなんでもそんなはずはないでしょう。そうだ、「ア●ゾン」が間違っているんだ、きっと! そこでわたしは、「楽●」とか、ほかのネット書店も検索してみました。結果は全て同じ。9月30日発売、書影なし(9月14日時点)、ただいま予約受付中!

 まだ発売されておらず、書影すらない作品の書評を募集する。こんなハードルの高い書評コンテストがかつてあったでしょうか。「さあ、どんでん返しだ。」というテーマの中に、まさかこれほどの仕掛けが施されていようとは夢にも思いませんでした。「さあ、」じゃないでしょう、という気がしないでもありませんが、わたしは「これはきっとNOVEL DAYSとtreeからの挑戦状に違いない」と解釈し、闘志に火がつきました。――やってやろうじゃないの!

『居酒屋「一服亭」の四季』というタイトルを見て、すぐ思い出すのは、東川篤哉のもう一つの作品『純喫茶「一服堂」の四季』です。
 鎌倉にある純喫茶「一服堂」の美人店主・安楽(あんらく)椅子(よりこ)は、極度の人見知り。なんとなく、京都の某珈琲店の美人バリスタや、北鎌倉の某巨乳古書店主と血の繋がりを感じさせる人物です。
 しかも、「接客はダメでも、もしかして珈琲は絶品なのでは?」という読者の甘い期待を裏切り、看板メニューであるはずの「一服堂」ブレンド珈琲が微妙に不味いという設定。純喫茶の店主としてはどう見ても残念な人なのに、推理を語り出すと態度は一変。客の披露する推理を鼻で笑い、「甘いですわね! まるで『一服堂』のブレンド珈琲のように甘すぎますわ」と、毒舌だか自虐だかわからない名(?)台詞が飛び出します。

 この快作とタイトルが非常によく似ている『居酒屋「一服亭」の四季』、これは気になります。もしかしたら椅子ちゃん、純喫茶がうまくいかなくなって新しく居酒屋を始めることにしたのかしら。でも、居酒屋だとタチの悪い酔っ払いとかもいるだろうし、客あしらいは純喫茶より大変そう。大丈夫なの? 椅子ちゃん。そして、「一服亭」ハイボールとかが、また微妙に不味いのではないかと心配だわ。

 もちろん、タイトルが似ているだけで、全然違う人物が主人公の物語である可能性も大いにありますが、わたしとしては椅子ちゃんに再登場してほしい! でもとにかく、今回もユーモラスで愛すべきキャラと衝撃的なトリックが融合する東川篤哉ミステリである点は間違いないでしょう、きっと。

 わたしの書評は、はたしてこの作品の内容と合っているのか、それとも全然違うのか? ――「さあ、どんでん返しだ。」 
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