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エピソード文字数 878文字

「わしは、徳川殿を手厚く持てなすようにと、命じたはずだ」

「上様、お言葉ですが、そのように致しております」

「貴様、わしに楯突くのか!徳川殿の接待役の任は解く、羽柴秀吉を援軍せよ!」

「羽柴殿の援軍!?上様、それはあまりにもご無体な仕打ち。誠心誠意、徳川殿をもてなしておるではないか!」

 主君に楯突く光秀を、蘭丸が羽交い締めにしする。畳に額を擦り付けた光秀は、信長を睨みつけた。

 光秀にとって秀吉は、織田一門でありながら、帰蝶とのことを信長の耳に入れた張本人であり、いずれは天下人を目論む敵対関係でもある。

 光秀の瞳の奥にメラメラと怒りの炎が燃え上がる。

「蘭丸、明智殿に無礼であるぞ。手を放さぬか」

 あたしは蘭丸から光秀を解き放ち、信長に頭を下げ光秀を部屋から連れ出した。光秀は憤慨していたが徐々に冷静さを取り戻し、あたしに詫びた。

「平手殿、お見苦しいところをお見せし、申し訳ござりませぬ」

「明智殿、ご不満はございましょうが、上様は中国攻め(毛利征伐)が思うようにいかず、焦っておられるのです。明智殿のお力が必要であると判断され、心を鬼にし、羽柴軍の援軍をせよと命じられたのです」

「平手殿、そなたは我らの気持ちをくみ取り(いさ)め、上様のために尽力するように諭される。於濃の方様が申される通り、才知にたける武将だ。そなたのように懐大き人間なら、わしも上様に嫌われることもなかったに。わしは不器用な人間ゆえ、臨機応変に対処出来ませぬ」

「明智殿……」

「上様のお怒りはごもっともでございます。正室であらせられる於濃の方様のことを、心の中でお慕いしているのですから。されど……羽柴殿の援軍だけは……」

 帰蝶への想いを口にした光秀に、あたしの胸中は複雑だった。

「明智殿、どうかこの俺に免じて、中国攻めに向かって下さい。於濃の方様も上様との(いさか)いは望まれていないはずです」

 光秀の赤く燃える瞳から……
 怒りの色がスーッと消えていく。

 気持ちを落ち着けるかのように小さく深呼吸し、口元を緩めた。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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