堤方権現台古墳

文字数 3,295文字

 本門寺の隣には堤方神社が鎮座しており、天照大御神アマテラス応神おうじん大王仁徳にんとく大王などの神霊が祀られています。天照神は伊邪那岐命イザナギの御子であり、皇室の祖神にして伊勢神宮の太陽神です。応神帝は後述しますが、豊前宇佐八幡神宮にて伊勢に次ぐ信仰を集めて来ました。仁徳帝は、免税などの善政を敷いて国民から感謝され、世界最大の墓である前方後円の大仙陵古墳が造られたと伝わります。神名を調べる前は「願い事を聴いて下さる地元の神様」程度にしか思っていませんでしたが、実はかなり畏れ多い方々が鎮守の産土神うぶすながみとして、今も私達の郷土を護って下さっているんですね。
2021/02/28 23:57
「地域調査で参拝する前は正直、良く分からない裏山のもりみたいなイメージだったけど、普通に物凄く偉い神様が近接にいらっしゃったのか…悪い事はできないなw」
2021/02/28 23:58
「でも…やっぱり本物の古墳を見るには、江戸の周辺じゃ駄目だよね。少なくとも、東京の外にお出掛けしないと…」
2021/02/28 23:59
2021/03/01 00:00
「あ、その件なんだけど、東京にも古墳はある…と言うか、僕も最近まで知らなかったんだけど、実はすぐ近くにある…ここ、この神社の隣に…」
2021/03/01 00:03

「…え、もしかして…この奥にあるのって、何かの遺跡…?」

2021/03/01 00:06
 そこには、神秘的な景観が広がっていました。堤方神社と本門寺の間を生い茂る、緑色に覆われた空間…そこは400年前・江戸時代の熊野神社遺跡。けれど、この台地の深層には…実は2000年もの歴史が眠っていたのです。2007(平成十九)年などの発掘調査により、弥生時代中期・後期の集落と、約1500年前・6世紀前半の古墳時代後期に築かれた豪族古墳が出土し、この地は「堤方権現台古墳」と名付けられました。普段、自然や歴史から切り離されたような生活を送っている私達・東京市民が、学校の社会見学・郷土学習・自由研究などで何気なく歩いた寺社の山には、遥かなる原始古代の歴史が刻まれていたんですね。そして約300年前、徳川氏の墓が造られ、千年前の先人と共に過ごし、永遠の生命を説く『妙法蓮華経』(法華経)の光に包まれて、久遠の時を生き続ける霊園が築かれたのです。
2021/03/01 00:10
「西暦紀元0年…つまりパレスチナの地にキリストがいらした頃、遥か東方のこの地には一大集落が建ち並び、私達の先祖が住んで居たんですね。あ、そう言えば…ここからめぐみ坂を降りた先には、昭和時代からの教会も御座いますね」
2021/03/01 00:13

 私達は先日、中生代ジュラ紀・白亜紀の「イザナギ プレート」が、南から北へと付加体を運搬し、日本列島の骨格を創成したと学びましたが、あれから一億年もの壮大な歳月を経て、ここ私達の郷土には、イザナギ神を継承する神々の記憶、私達の先祖の足跡が遺されています。この地域の自然には、地球環境の歴史を読み解く鍵も秘められています。日本の三教と呼ばれる仏教・神道・キリスト教が共生し、現世の繁栄と来世の救済、()いては一切衆生(しゅじょう)の幸福を祈る、聖の霊地…それが、池上本門寺を始めとする長栄山です。そして、私達が生きている時代、この現在という世界もまた、いつかは未来の人々に、過去の遺跡として発見されるのかも知れません。

2021/03/01 00:14

「後世…例えば百年後に、この地を訪れる人々は、私達の遺骨が埋まっている地層を、如何なる歴史時代・地質時代として認識するのだろうか?『東京時代』?それとも…『日本人という民族、人類という動物種が棲息していた時代』かも知れないな」

2021/03/01 00:15

 近年は、御会式に次ぐ規模の「池上祭」という夏祭が毎年8月末に開催され、長栄山の南麓にある会館では、大森・池上の歴史地理に関する写真展などが行われています…が、この池上祭も(やっぱり)ウィルスで中止になってしまいました。池上会館の手前から呑川に架かっている橋は「妙見橋」と名付けられていますが、ここから「妙見坂」を登って長栄山本門寺に参ると、妙見堂があります。ここには、北極星北斗七星の神であられる妙見菩薩(北辰権現)が祀られています。

2021/03/01 00:27

「我が国の神道では天御中主神(アメノミナカヌシ)を北辰、即ち北極星の神と捉える説が御座いますが、中華の民族宗教である道教では、北辰の神は天帝太一神・北極紫微大帝などと呼ばれ、天皇陛下の語源である天皇大帝とも深く関わっております。こうした道教の北辰信仰が、私達の仏教や神道にも影響を与え、神道で天御中主神が、そして日蓮宗や密教で妙見菩薩が尊崇されるようになった…と考えられております」

2021/03/01 00:35

「星・天体は、私達人間の文化に大きな影響を及ぼし、時には歴史さえも動かす事がある。これに関しては、私が地元の学生に向けて書いたコラムがあるので、読んで見て欲しい」

2021/03/01 00:49
2021/03/01 18:53

 前章で学んだように、地球には数多くの小惑星が急接近しており、隕石として地表に落下衝突する事もあります。あっくん曰く、天体が歴史を左右した出来事は、ほかにも色々とあったそうです。例えば1908(明治四十一)年、東シベリアのバイカル湖上空で、小惑星または彗星に由来する隕石が空中爆発しましたが、その破壊力は広島原爆の約1000倍に達し、地球全体に衝撃波が及びました。しかし…この隕石の飛来が、もし数時間でも遅れていたら、ロシア帝国の首都ペトログラード(ペテルブルグ)に直撃していた可能性があります。そして…その日時のペトログラードには、ソビエト革命の指導者レーニン(Lenin)が住んで居ました。彼が夢見た「共産主義」という政治哲学の正体は、秘密警察と強制収容所に基づく一党独裁の全体主義であり、ロシア中華カンボジア朝鮮などの国々で、一億人もの犠牲者が亡くなったと指弾されています。だとしたら…百年前の隕石は、東シベリア上空ではなく、数時間後のペトログラードで爆発していたほうが、人類の不幸は小さくなっていたのでしょうか…その答えは、きっと神様にしか分からないでしょう。

2021/03/01 19:13
「過去は変えられません…私達が認識しているのは、ほかでもないこの世界なのですから。二十世紀の戦争と革命がもたらした悲しみに、終止符を打つ事…それが、生き残った私達の天命なのでしょう。例え…人の自力では(あがな)えない罪があったとしても、赦しを(こいねが)う事はできます」
2021/03/01 19:15
2021/03/01 19:23
 私達は前章で、例えば東京に隕石が墜ちる確率もゼロではない…と学びましたが、その直後である2020(令和二)年7月2日・木曜、よりによって関東上空に「習志野隕石」が飛来して爆発し、東京で寝室に居た私達を含め、多くの人々が火球の轟音に遭遇しました。私達の日常生活も、実は広大な宇宙の中において存在しているという事実を、改めて体感させられる出来事でしたね。
2021/03/01 19:17
2021/03/01 19:18

「…さて、噴水の池が見えて来たし、そろそろ本門寺公園の出口だね。そう言えば…この辺りの樹木って、秋になっても落葉しない事があるよね。どうしてなのかな?」

2021/03/01 19:19
2021/03/01 19:21

「池上本門寺の周辺には、常緑樹林が広い面積で遺されている。『大森』という地名の通り、かつてはこの森林が、大森・蒲田の一帯を覆っていたようだ。この噴水池も、当時は呑川に…いや、東京湾に繋がるほど広く深かったんだろうな

2021/03/01 19:25

 思っていたよりも長話になってしまいましたが、こうして私達は、長栄山への参詣を無事に終える事ができました。この長栄山を含む荏原台地の中で、先程の堤方権現台古墳よりも更に深い地下には、更新世箱根山富士山が噴火した時の関東凝灰ロームが堆積しています。数十年前までは、池上本門寺や呑川で地層を観察できましたが、都市化により現在は難しくなっています。さて、私達の旅はまだ序曲に過ぎません。

2021/03/01 19:27

「本門寺を越えましたので、この後は池上街道を北上して、大森駅に向かおうと思いますが、その前に寄りたい場所は御座いますか?」

2021/03/01 19:32
「ねえねえ、太田八幡様にもお参りしようよ!」
2021/03/01 19:40
「仁は本当に神社が好きですね…はい、宜しいですよ^^」
2021/03/01 19:40

 本門寺から池上通りを北上した大森中央は、歴史的には「市野倉(いちのくら)」と呼ばれた町村です。この市野倉地域の産土神を務めて下さっているのが太田神社で、その主祭神は、堤方神社にも祀られている応神大王です。

2021/03/01 19:42
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【神霊矢口】とさみや じゅのうじょうだい アキラ

十三宮 寿能城代 顯

関東州 東京府 東京市 蒲田区


蠍座♏11月1日トパーズ

・一人称「私」

・二人称「あなた様

・地位 中級生?

・専攻 地理学(共生科学士)

・属性 

・武技 レーザー剣・自動小銃

・愛機 ステルス攻撃機ナイトホーク(誘導爆弾)


 十三宮聖の義弟、また星川初の養子。本名は「富田巌千代」で、宗教信仰者としての法号(生前戒名)が「アキラ」。東京の大森・蒲田で生まれ育ち、地理学などの探究に基づき文芸作品を創る「地球学(地理学文芸)作家」を称す。同人サークル「スライダーの会」を結成した会長であり、一心同体の校長(マネージャー)である春原あきらと共にサークルを運営。


「天主と神仏に感謝を、あなた様に幸福を…合掌」

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色