マッキーがお泊まり【※BL要素あり】

文字数 4,028文字

「お風呂(ふろ)、さっぱりしたね、マッキー!」

「すっかり直ってよかったねー。明乃(あけの)さん、今度は何ヶ月、空焚(からだ)我慢(がまん)できるかなー」

「いやマッキー、母さん別に常日頃(つねひごろ)浴槽壊(よくそうこわ)したくてうずうずしているワケじゃないよ!!?」



 連休中(れんきゅうちゅう)に、親友(しんゆう)のマッキーこと牧志臣(まきしおみ)が、ぼく・殿村雛人(とのむらひなと)(いえ)()まってくれるようになって(ひさ)しい。

 最初マッキーは、『家族団(かぞくだん)らんに水を差しちゃ悪いから』と固辞(こじ)していたのだけれど、ぼくと母さんが『マッキーがいたほうが楽しい!!』って(なか)強引(ごういん)に、殿村家(とのむらけ)へ引っぱりこんだんだ。



 彼にとっては、とても困ってしまうお願いだったのかもしれないけれど、ぼくたちは、マッキーが『ひとり』でいることが、すごく(かな)しくて……心配(しんぱい)だったから。



 母さんも一緒(いっしょ)になって、みんなでわいわいしながらご(はん)を作って(ぼくが包丁(ほうちょう)()つと、なぜか途端(とたん)に、刃物(はもの)は手からばーん! って飛んで、四方(しほう)(あら)くれロケットみたいに乱舞(らんぶ)しだすから、ぼくはサラダのレタスをちぎったりくらいしかさせてもらえないのだけれど……本当(ほんとう)になんでだろう??)。



 ご(はん)をいただいたあと、少し休んでからマッキーとお風呂(ふろ)(あら)いっこして、湯船(ゆぶね)でまったりしながら男の子トークに花を()かせるから、いつも少しだけのぼせちゃう。

 『マッキーは(かみ)が長いから、(あら)ったあと(かわ)かすの、大変(たいへん)でしょ?』、『んーん、今はすっごい吸水性(きゅうすいせい)のいいタオルがあってねー』なんて()り取りしつつ、パジャマに着替(きが)えたぼくたちは、ふたりでひとつのシングルベッドにもぐりこむ。



「マッキー、ごめんね。ベッド、せまいでしょ……。いい加減(かげん)()()えなきゃなんだけれど、本を買うとお給料(きゅうりょう)がぱーって飛んじゃって……」

「んーん。オレがお邪魔(じゃま)しちゃってるんだから、(あやま)んないといけないのはこっち。それに『施設(しせつ)』では、(ゆか)雑魚寝(ざこね)()たり(まえ)だったから、ふかふかベッドはすごくありがたいよ?」

「……っ! ごめん、なさい」


 ……マッキーは、『施設(しせつ)』……児童福祉施設(じどうふくししせつ)(そだ)ったって、出会(であ)ってしばらくしてから(はな)してくれた。

 そして、そこはあんまり……手厚(てあ)場所(ばしょ)ではなかったらしくて。

 からだに直接(ちょくせつ)だったり、精神的(せいしんてき)暴力(ぼうりょく)も、頻繁(ひんぱん)にあったらしい。

 マッキーは――本人(ほんにん)は、気づいていないかもだけれど――たまに、心にぽっかりと(くら)(あな)()いてしまっているような……(さび)しそうな(ひとみ)をしているときがある。

 ぼくはそれに気づくと、きゅうっと(むね)()めつけられたようになって、(くる)しくなるんだ。マッキーのほうが、ずっとずっと、つらい思いをしてきたのに。



 マッキーは、しゅんとしたぼくのおでこをつん、と(やさ)しく小突(こづ)いて、ふわっと(わら)った。

「オレは、自分の運命(うんめい)感謝(かんしゃ)してるよ? 保健医(ほけんい)になったのも、オレみたいにしんどかった(だれ)かの(いた)みを()やしたいと思ったからだし、それにほら。高校に(つと)めたお(かげ)で……ヒナに、()えたしね」

「……っ、マっ、マッギぃイィ~~……っ!!」

「ほらほら、(つよ)い子は()かないのー。よーしよし♪」

「ぼくもっ、マッキーと出逢(であ)えてよかったよおぉ!」

 マッキーに()きつくと、ふっと、嗅覚(きゅうかく)(あま)やかな(かお)りをキャッチして、ぼくは、(かれ)首筋(くびすじ)(かお)()せる。

「ん……?? くん……」

「わ、くすぐったいよヒナー」

「だって。マッキー、ぼくと(おな)じシャンプー使っているハズなのに、なんだかぼくには欠片(かけら)(かん)じられない、(あま)(にお)いもするっていうか……。これがフェロモンってやつなのかな、うう~、ぼくも色気(いろけ)ほしい……!」

「えー? どうしたー、(やぶ)から(ぼう)に?」

「えと、あ、あの。……マッキーって、恋愛(れんあい)というか、(いろ)っぽいことの経験豊富(けいけんほうふ)……、なんだよね?」

 ベッドの中で、もじもじとしはじめたぼくに、マッキーはその意図(いと)(さぐ)るように、目を(ほそ)める。

「……ほんとに、どうしたの?」

「……ぼく、この前、りえとキ……、キス……したって(はなし)、したでしょ?」

「ああ、キレたりえちゃんにお(かゆ)ねじこまれたってやつ? 初めてで舌入(したはい)って、粘着質(ねんちゃくしつ)なお(かゆ)(から)むねちゃねちゃなプレイはハードル高かったよねー」

「やー!! 生々(なまなま)しく()わないでマッキーのヴァカー!!!」

「はー、かわいいなぁ♪」

 真っ赤になって絶叫(ぜっきょう)するぼくに、マッキーは片手をごめんねの(かたち)にするけれど。その発言(はつげん)表情(ひょうじょう)も、絶対悪(ぜったいわる)いって思っていない……!

「うぅー……!」

 キッ!! と、ぼくにとっては精一杯(せいいっぱい)(するど)い目で威嚇(いかく)すると、マッキーはちょっと(まゆ)()げつつも、(たの)しそうに、(つづ)きをうながした。

「ふふ、ほんとにゴメンって。で? そのキスがどうしたの?」

「あっ、えと、そうだった……! あのね……」

 ぼくは、(あたま)の中のぐちゃぐちゃになっている感情(かんじょう)上手(じょうず)にならべようと(つと)めながら、言葉(ことば)をつむぐ。



「……りえにとっては、雛鳥(ひなどり)強制食餌(きょうせいしょくじ)する母鳥(ははどり)くらいの気持(きも)ちだったのかもしれないけれど。……あれから、りえのくちびるを見る(たび)、ヘンに意識(イシキ)しちゃって。ああ、このかわいいくちびるに、もっともっと()れたいな、とか……。ぼ、ぼくってヘンタイなのかな。だから……、マッキーの場合(ばあい)は、どうなのかなって。(だれ)かとのキスを思い出して、おかしな気持(きも)ちになったりする……?」



 マッキーは、きょとん、とした(かお)をしていたけれど、視線(しせん)(うえ)にあげて、思案(しあん)しているような素振(そぶ)りを見せたあと、(かる)(かん)じで答えた。

「んー、オレは……なんだかんだ、キスはしたことないんだよね」

「えっ……、えええぇえっ!?」

「いや(おどろ)きすぎでしょ」

「だ、だってマッキー……いろんなひとと()たことあるって……」

口以外(くちいがい)だけでも充分(じゅうぶん)、イかせられるし☆まず相手(あいて)下半身(かはんしん)に手を」

「言わなくていいよ!!?!」

「あはは。まあ、いつも『キスしたい』って言われても、のらりくらりとかわすかなー」

「……なんで?」

「なんかさ、自分を(もと)めてるひとに気持(きも)ちよくなってもらうのはすきなんだけど。……くちびるだけは、ほんとに(あい)してるひとだけに(ゆる)したいんだ」

 マッキーは、天井(てんじょう)をぼんやり(なが)めながらそう言うと、ぼくを見て、(すこ)(もう)しわけなさそうに、微笑(ほほえ)んだ。

「……参考(さんこう)にならなくて、ゴメンね?」

「……ううん。マッキーの(かんが)えかた、すごく素敵(すてき)だと思う! やっぱりマッキーは、ぼくのあこがれのひとだよ!!」

「……ヒナ」

 (つぎ)瞬間(しゅんかん)。ぼくの(ほお)に、ちゅっ、と(やわ)らかくて、(すこ)湿(しめ)った感触(かんしょく)がした。

「……え」

「さ、もう()な。明日(あした)一緒(いっしょ)に、りえちゃんの誕生日(たんじょうび)プレゼント、()いにいくんでしょ?」

 (あたま)をぽんぽん、となでてくれて、ぼくのからだを()()せるマッキー。

「う、うん……? あ、あの、アドバイスよろしくお(ねが)いします、マッキー恋愛(れんあい)マイスター先生(せんせい)!!」

「はは、なにそれ。お(やく)に立てるよう善処(ぜんしょ)してしんぜよう、なんてね。おやすみー」

 いい(にお)いがするマッキーの(むね)(かお)をうずめたけれど、ぼくの頭には疑問符(ぎもんふ)がぴよぴよと()()う。



 ……(いま)の、マッキーのくちびる、だったよね? でもマッキー、キスは、だいすきなひととしかしたくないって……??

 ……いやでも……。うん、マッキーはオトナな男だもんね。ほっぺにキスだったら、マッキー(てき)には『そういう』意図(いと)全然入(ぜんぜんはい)らないのかも。うわわ、マッキー、オトナすぎる!! ぼくも見習(みなら)おう!!



***



 十分後(じっぷんご)

 ぼくは生来寝(せいらいね)つきがいいから、すっかり寝入(ねい)ってしまって、

「ふふ、ヒナかわい。……(かな)わない、(こい)だよなぁ」

 と、マッキーがぼくを()きしめながら、(せつ)なそうにつぶやいたことなんて、()がつきもしなかったんだ。





【終】

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

殿村 雛人(とのむら ひなと)


 アホでピュアでドジな高校教師。あだ名は『ヒナ』。


 黙っていればキレイな顔立ちをしているのに、しゃべりはじめるととにかくヘタレで、周囲のひとびとは生温かい目で見守らずにはいられなくなる。


 幼馴染であるりえがだいすきで、そんな彼女をいつも笑顔にしたいと思っている。

花園 りえ(はなぞの りえ)


 ヒナの幼馴染で、世話焼きな女子高生。ヒナが勤務する高校に通っている。


 いつも長い袖をひきずっているが、その割にはヒナのネクタイ結びなど、こまごまとした作業をササッとこなす器用な少女。

牧 志臣(まき しおみ)


 絶世の美形で、ヒナの親友。ヒナと同じ高校で保健医をしている。あだ名は『マッキー』。


 セクシーでイケメンすぎる上、とにかく優しいので、学校には彼の熱狂的なファンクラブが存在するらしい。


 料理・洗濯・裁縫となんでもこなすオトナな男。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色