約束
文字数 1,999文字
(わたしも巫女舞やりたい!)
白と緋色の装束 をひるがして、笙 の音と共に舞う春海 から、愛夢 は目が離せなくなりました。紅を差した唇は優しく結ばれ、凜とした眼差しが麗しく、幻想的です。
あれから二年。
巫女舞の感動を胸に中学生になった愛夢 は、念願叶って巫女の座を射止めました。けれど、思わぬ儀式にあわてふためいています。
いてもたってもいられず、愛夢 は春海 の家まで急ぎます。
おばさんに家にあげてもらうと、春海 が顔を出しました。
「あれ? どうしたの?」
愛夢 は青い顔で空中に表示した 動画を指差します。
「ほら見て、ウナちゃん! 魚の死体がある! イカのミイラも!」
「大丈夫、大丈夫。巫女が食べるわけじゃないから」
愛夢 はサイズを大きくして祭壇 の酒瓶を春 海 に見せました。
「でもお酒! 飲むよね!? オミキってお酒のことだよね!?」
春海 はいつもの愛夢 を安心させる笑みを浮かべています。
「大丈夫だって。ちょっとだし」
(子どもは飲んじゃダメなんじゃないの!?)
愛夢 は目を白黒させて叫びました。
「えっ? えーっ!汚 れる!」
「あははっ! 逆、逆。穢 れをはらうものだよ」
「だ、だって、アルコール! 危険だよぉ!」
「代謝補助 があるのに? 七五三 の時、参拝 しなかった?」
愛夢 はブンブンと首を左右に振ります。
「だって神社の中、怖いんだもん!」
「今は克服 したんだね。えらいえらい!」
「まだ怖いよ! 舞うのは外だし! お祓 いヤダ! どうしよう! 変なものいっぱいかざってある!」
「昔は野生の動植物食べなきゃ死ぬし。ミイラっぽいけど保存のための知恵だね。美味しいんだって」
「ええっ!?」
「安価なバグミートが大量生産できるようになったのって割と最近なんだよ。あたしのじぃちゃんばぁちゃんはお酒大好きだしね」
不安でいっぱいになった愛夢 ははたと気づきました。
「あっ! 日本酒はニッポンデントーの古〜いお酒でしょ? アルコールそんなに入ってないとか?」
「ううん。醸造酒 なのにアルコール度数高いよ。すごいよね」
「ひぃぃいや!」
泣きそうな愛夢 の肩をつかんで春海 が励 ました。
「落ち着いて。日本酒は超貴重なんだよ! 生産者が激減して生産量が少ないの。だからどれも予約がいっぱいだし」
「変なにおいする? 苦い?」
「甘くて優しいにおいだから大丈夫! この辺は米どころだったから、二十歳 になると市 から日本酒をもらえるんだけど、お父さん、じぃちゃんとばぁちゃんにあげたんだ。そしたらかなり甘いって言ってたらしいよ」
「ほんとにほんと?」
「信じて。飲んだ後は安心するから!」
春海 の嘘のない笑顔に、愛 夢 はこくりとうなずきました。
心配は尽きませんが、心をふるいたたせて愛 夢 はお祭り当日をむかえました。
(デジタルでよくない……?)
祭壇 のお供物 におびえながら、愛 夢 はお祓いを受けます。お神酒 の入ったお調子が迫り、愛夢 は盃 をかかげました。
いよいよです。においは確かに悪くありません。
お神酒 は少しだけ白くにごっています。
愛夢 はこれ以上ないほど緊張していました。
「はあっ」
意を決して口をつけ、少し驚いた後、すーっと飲み干しました。
甘くておいしい、優しい飲み口。
(これってーー)
精一杯舞を披露し、祭りを終えた愛 夢 は、声をかける両親の脇を走り抜け、観に来てくれた春海 の胸に飛び込みました。
「カルピスだったぁ!」
愛夢 が抱きついて体を揺さぶると、春海 は声をあげて笑います。
「ごめんごめん! でも、いい経験だったでしょ? 神聖さ感じない?」
愛夢 は額をこすりつけました。
「怖い!」
「ごめん。欲ばっちゃって。それにさ、カルピスの元になったのはモンゴルの馬乳酒 だっていわれてるんだよ」
「だから?」
「歴史が効 いてるなって」
「もぉー!」
愛夢 はぎゅっと腕に力を込めました。
春海 がくすぐったそうに身をよじります。
「わかったわかった。愛夢 、二十歳になったら、お酒もらってあげる」
「ウナちゃんしか得してない!」
「あたしの分はじぃちゃんばぁちゃんにあげるつもりなんだけど、自分も飲んでみたいんだよね」
「なんで!?」
「ぜーんぶ今しかないの! 5000万年後には日本は南の島々と一緒にユーラシア大陸に吸い寄せられてヒマラヤ並みの山になるかもしれないんだから! 伝統文化もぺっしゃんこ! 情報は残せても同じ体験は残んないからね! 飲むっきゃないよ!」
愛夢 はほおをふくらませます。
愛夢 には5000万年後なんてどうでもいいことでした。
海外でもどこでも飛んでいってしまいそうな春海 と一緒にいたいだけなのです。
少しでも追いつきたいから、たまに戻ってきてほしいと、愛夢 は背伸びして言いました。
「じゃあ、半分あげる! 一緒にお祝いしよっ!」
「ありがとう! 楽しみ! 怖くなったら全部飲んであげるから!」
愛夢 も負けじと胸を張ります。
「へーき! 怖いのだって今だけだからね!」
白と緋色の
あれから二年。
巫女舞の感動を胸に中学生になった
いてもたってもいられず、
おばさんに家にあげてもらうと、
「あれ? どうしたの?」
「ほら見て、ウナちゃん! 魚の死体がある! イカのミイラも!」
「大丈夫、大丈夫。巫女が食べるわけじゃないから」
「でもお酒! 飲むよね!? オミキってお酒のことだよね!?」
「大丈夫だって。ちょっとだし」
(子どもは飲んじゃダメなんじゃないの!?)
「えっ? えーっ!
「あははっ! 逆、逆。
「だ、だって、アルコール! 危険だよぉ!」
「
「だって神社の中、怖いんだもん!」
「今は
「まだ怖いよ! 舞うのは外だし! お
「昔は野生の動植物食べなきゃ死ぬし。ミイラっぽいけど保存のための知恵だね。美味しいんだって」
「ええっ!?」
「安価なバグミートが大量生産できるようになったのって割と最近なんだよ。あたしのじぃちゃんばぁちゃんはお酒大好きだしね」
不安でいっぱいになった
「あっ! 日本酒はニッポンデントーの古〜いお酒でしょ? アルコールそんなに入ってないとか?」
「ううん。
「ひぃぃいや!」
泣きそうな
「落ち着いて。日本酒は超貴重なんだよ! 生産者が激減して生産量が少ないの。だからどれも予約がいっぱいだし」
「変なにおいする? 苦い?」
「甘くて優しいにおいだから大丈夫! この辺は米どころだったから、
「ほんとにほんと?」
「信じて。飲んだ後は安心するから!」
心配は尽きませんが、心をふるいたたせて
(デジタルでよくない……?)
いよいよです。においは確かに悪くありません。
お
「はあっ」
意を決して口をつけ、少し驚いた後、すーっと飲み干しました。
甘くておいしい、優しい飲み口。
(これってーー)
精一杯舞を披露し、祭りを終えた
「カルピスだったぁ!」
「ごめんごめん! でも、いい経験だったでしょ? 神聖さ感じない?」
「怖い!」
「ごめん。欲ばっちゃって。それにさ、カルピスの元になったのはモンゴルの
「だから?」
「歴史が
「もぉー!」
「わかったわかった。
「ウナちゃんしか得してない!」
「あたしの分はじぃちゃんばぁちゃんにあげるつもりなんだけど、自分も飲んでみたいんだよね」
「なんで!?」
「ぜーんぶ今しかないの! 5000万年後には日本は南の島々と一緒にユーラシア大陸に吸い寄せられてヒマラヤ並みの山になるかもしれないんだから! 伝統文化もぺっしゃんこ! 情報は残せても同じ体験は残んないからね! 飲むっきゃないよ!」
海外でもどこでも飛んでいってしまいそうな
少しでも追いつきたいから、たまに戻ってきてほしいと、
「じゃあ、半分あげる! 一緒にお祝いしよっ!」
「ありがとう! 楽しみ! 怖くなったら全部飲んであげるから!」
「へーき! 怖いのだって今だけだからね!」