電子レンジ

エピソード文字数 657文字

電子レンジ

うたた寝するように夢を見ていたい。
「明日は午後からっ」の夜を生きていたい。

会って話がしたいのだと、息を切らしたはず、爪が短かったはず、口内炎ができてたはず。

味覚音痴、方向音痴で、音痴、それでもメロディラインは君に合わす。

温め直す。耳を赤くさせた言葉。その髪の匂いも、声も、指先の感触も。巻き戻せない、事実、事実、事実、冷めてしまえば後悔。直すスカートの丈を気にするだけ。『チン』と鳴れば、言い訳話も終わる。

この物語は夢の途中じゃない。
目が覚めてからの妄想だ。

手探りのまま探されたフォック。違う後ろじゃない。前についているの。

手慣れていても、ぎこちなくても、片手でも、両手でも。

あなたの目を奪ったのは誰? 忘れまいとシートベルト握り締めた。

特別な意味を持つ、指定席でも、自由席でも、その椅子は特等席の助手席。

偶然の産物の世界で、金太郎飴の必然を探す。

皿の上回そう。オレンジ色の箱の中。惜しくもない。後一歩でもなかった。まだ間に合うかな。手遅れ、手遅れ、あの日の熱、蘇らない。取り残された皿の上の想い出。『ぴっぴっぴ』の音が急かす。

真空パックに詰めて、取り置きした、甘い言葉も、嘘も、解凍を待つ。あの日がもう一度やって来たなら、はじめましてと言おう。

温め直す。好きだ。好きだ。1回目の好きだ。最後の好きだ。湯気を立たせ、ラップをめくり、テーブルに置いたなら、さあ召し上がれ。冷めないうちに召し上がれ。今、最後の最後の最後の最後の『チン』が鳴ったはず。
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