第101話 辞任会見:2025年3月

文字数 1,781文字

(洋子が、首相の辞任会見をする)

2025年3月。東京。首相官邸。

洋子は思った。ユニバーサル・ジェンダー計画から数えて、長いような、短いような2年だった。もう、自分は政治の世界に戻ることはあるまい。
残された課題は、まだまだある。教育システムをどうするか。道州制にした方がよかったのではないか。
しかし、一人で出来ることには、限りがある。あれも、これも、することはできない。洋子が作ったロードマップは生きている。改革の流れが逆戻りすることは、もはやあるまい。

補佐官が言った。
「会見の準備ができました」
洋子が口を開いた。
「2024年から、1年3か月の間ではありましたが、首相として、また、ユニバーサル・ジェンダー党の党首として、ユニバーサル・ジェンダー計画の実現に向けた様々な施策を行ってきました。その間の最も大きな出来事は、ゼロリセット計画の実施です。この方法は、T商事での成功をもとに、現在では、多くの企業で取り入れられています。ゼロリセット計画で、非ジョブ型雇用から、ジョブ型雇用に切り替わった企業では、採用に、女性優先枠を設定した結果、年率に換算して、5%の女性労働者比率の増加を実現しています。また、平均給与も、ゼロリセット計画の実施前とくらべて、1.8倍に増えています。つまり、ゼロリセット計画は、ジェンダー問題の解消と、日本経済の復活に大きな効果があったことが確認されています。
これらの民間での成功を受けて、2024年9月の臨時国会において、国家公務員組織にも、ゼロリセット計画を適用する法案が可決されました。法案を受けて、2025年1月からは、タスクフォースが結成されました。これは、明治維新以来の150年に一度の、日本国を作り直す法案です。ですから、私は、政治生命を賭けて、このタスクフォースに参加して参りました。この3月に、タスクフォースは、全ての仕事を終えて、解散します。
規定により、タスクフォースのメンバーは、3年間は、ゼロリセット計画の対象となった組織に戻ることはできません。従いまして、私は、3月末に、内閣総理大臣を辞任いたします。
ユニバーサル・ジェンダー計画の実現は、まだ、途上であります。しかし、ユニバーサル・ジェンダー党の議員の皆様のご活躍を見ていれば、安心して後を任せても、問題はないと考えています」
質問が出た。
「ユニバーサル・ジェンダー党の党首は続けられるのでしょうか」
「次の内閣指名を受けるために、新しい党首の選挙が行われます。これには、党員投票の結果が大きく反映されます。そのための時間を考えて、まだ、3月末までは時間がありますが、本日、総理大臣の辞意を明確にした訳です」
「ということは、新党首が選出されて時点で、党首を辞任して、引退されるということでしょうか」
「政界は去るつもりですが、引退という言葉は適切ではないと思います。私は、人生100年計画という生き方に強く賛同しています。短い一生ですから、2人分も、3人分も、いろいろなことを経験してみたいと思っています。年功型雇用の人生プランでは、一人分の経験しかできません。もちろん、総理大臣のようなポストにつけば、それなりの収入はあります。そして年金をもらって、生涯を終わることも可能です。しかし、私は、お金よりも、人生の時間の方が大切だと考えています。今、私は、政治の世界の次に、何にチャレンジしようかと、ワクワクしています。今回は、成功しましたが、次回は成功しないかもしれません。しかし、それで良いのです。私はユニバーサル・ジェンダー計画が、きっかけになって、政治の世界に入りました。その時に、一番、幸せを感じたのは、総理大臣になった時ではありません。ジェンダー問題に、自分なりに取り組めていたこと、そして少しずつですが、問題の解決に向けて自分が前に進んでいると感じたときです。私は、人生の幸福は、チャレンジ出来ることにあると思っています。ですから、次は、別のことにチャレンジしたいのです。体が動く間は、引退ということは考えるつもりはありません。できれば、次の機会には、記者の皆様とは、全く別の場で、お会いできれば、うれしく思います。
最後に、私をここまで、支援して、育ててくれた有権者の皆様に、お礼を申し上げて、この会見を終わります。
有権者の皆様、ありがとうございました」
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