文字数 2,370文字

 再び大通りを歩き始めた僕は朝ご飯を適当にすましていたため、午前が終わるころにはお腹は食料を求めていた。紫イモのソフトクリーム、川越プリン、宇治抹茶のわらび餅など僕を魅了するには充分であったが甘いものはその時は受け付けていなかった。僕は店内に数えきれないほどの包丁を並べているため江戸の寺子屋のように柔和なはずなのに戦地に構えている重厚感のあるお店に興味を引き外から店内を覗いているとふと、飢えた腹には効果抜群の香ばしい匂いが僕の鼻から全体を包み込んだ。15メートル先に路上で焼き鳥を売っていた。すでに六人くらい並んで待っており彼らも僕と同じ気持ちなのだろうと直感的に想像できた。しかし僕は食べ歩きではなく店内に座って思いっきり食べたいと思っていたので、意志を固くしてその焼き鳥屋を通り過ぎた。必要以上に焼きすぎではと思うくらいの色になるまでしっかり焼かれていた。それはきっと塩ではなくタレを付けて焼いていたからだろう。大通りを長い距離歩いた気がしたが見忘れていたのか、どうやら僕が望んでいた座って食べるお店はいよいよ見つからなかった。横断歩道を渡り反対側の歩道を歩き、時々右折してお店を隈なく探したら、アパートに近いホテルのようなお店を見つけた。一階はフードコートになっており、ハンバーガーショップにさばの塩焼き定食、うな重を売っているお店もあった。僕は現代人のままにハンバーガーショップに立ち寄り、その店で一番人気であったチーズバーガーとジンジャエールを買って外に設置されているイスに座って食べた。食べている間、僕は周りの景色を見たが見えたのはご飯のために立ち寄った安っぽいホテルに昔ながらのお肉屋さん、観光客のためのお土産屋さん、そして僕の身長をはるかに超える高さのクリスマスツリーだった。僕がこのクリスマスツリーを見続けながらハンバーガーをほおばると、突然強風が吹き荒れた。その時僕の目には大きく揺れ動く人工的に装飾されたツリーが生物のように必死に冷たい風から耐えているようにみえて慈悲も含まれたいとおしさを感じた。意識の外でハンバーガーにセットだったポテトが数本、この目に見えない力に誘われてトレーから地面に落ちていった。
 食後は最も人を堕落させる。僕はトレーを戻した後、ブラブラと近隣を散歩していた。すっかり趣ある景色にも慣れてしまって川越に到着して初めの頃に抱いた場違いだと思う服装もいつの間にかこの街に溶け込んでいた。時刻は午後の一時を超えたあたりで人が午前までとは比べ物にならないほど増えていた。通り過ぎる人の中には異国の言語も聞こえてき、僕は興味本位で日本語ではない言葉をしゃべる人達を一瞬だけ覗くと、彼らは旅行者だと一目でわかるくらい和に富んでいた。髪に刺さる櫛、まるで虹のようなカラフルで明るい和服。彼女らの物珍しく周りを見渡すしぐさは最初の僕と同じで歴史に浸っている時間だと窺えた。それ以上は失礼にあたると思い、僕は彼女らを後に再び大通りを歩き始めた。観光向けの看板を見つけた僕はまだ訪れていない場所がないか確認した。そこには川越高校など観光に関係ないことも一応に記入されていたが、僕はまだ行っていない箇所がいくつか見つかったが、それよりも一つの寺院に興味がわいた。喜多院、そこが僕の興味の中心だった。さっきまでの惰性的な観光から目的を手に入れたことでさっきまでとは真逆の向上心で目的地に向かった。徒歩二十分ほどで到着した。移動中は特に面白いことなどなかったが唯一書き記すとすれば、骨董品を取り扱っているのだろうか「環」というお店に入ればよかったと後悔している。喜多院の入り口に駐車場があり、車で移動すればよかったと思ったのだがその場所の看板には有料の文字が見えたので直前までの考えは底に落とした。階段を上るとそこは日本を象徴する一つの建物だった。左側には秋と冬の境界の季節であったため、赤や黄色に彩られた葉っぱが地面にゆらゆら落ちている木がざっと見ただけでも数十はあり、右側には喜多院を象徴する本殿と現代の技術では作れないと錯覚するほど立派な二重の塔がそびえたっていた。僕は二重の塔をざっと眺めスマホで写真として残した後、階段を二十段ほど登れって本殿の前に立ちすくんだ。長さは30メートルほどだと思うが建てられてから改築を行っていないのではと思うくらいには歴史を感じさせた。無数に存在する引き戸もどれも今すぐにも倒れてしまう危うさがあり、本殿に足を踏み入れようとすると床が軋む音がする。瓦がいくつも重なり合わさる屋根の下に白、赤、黄色、紫の色の旗がゆらゆらと干されていた。中に入り右手にお守りや御朱印などを購入する場、左手にはおみくじがあり、真ん中に賽銭箱があった。僕はお守りなどを買う予定はなかったため賽銭箱の前に立ち十五円を入れ、手を合わせた。その後おみくじを引いたが凶と書かれた紙が出てきただけで悔しさと悲壮感だけを手にしただけだった。本殿を後にすると木材に墨で書かれた看板を見つけた。
「文化財建造物につき千社札の張り付けをお断りします。貼り付け指定場所があります。寺務所にお問い合わせください」
 今の僕からしたら至極ふつうの内容なのだが、当時の僕は不思議に思ったのか、はたまた珍しさを感じ取ったのか気に入ってしまい写真を一枚パシャリと撮った。おそらくこの寺院であんなものを喜々として撮影するのは僕だけだっただろう。本殿から去る際に階段を一段一段降りている途中、線香の煙が空へ待っていくのを目で追った。何十年、もしかしたら何百年もの間、幽霊となってでもこの寺院を守りそして見届けている人がいるのではないかと思い、僕は心の中でそっと黙祷を捧げた。煙は天へと向かったかと思うといつの間にか跡形もなく消えていた。
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