第19話 (挿話)現政権与党内のとある政治グループでの講演Ⅱ:貨幣について

文字数 12,278文字

雑誌オーソドックスのメンバーであり、義一と同じように長年に渡って神谷さんに私淑してきた国会議員の安田が座長を務める、政治家としては若手が主なメンバーである政治グループの公式ホームページに上げられた動画の一部から抜粋。
安田の人選により講師として呼ばれた、勿論武史や島谷などのオードソックスの面々を含めた何人もの”先生達”が講演する様子や、少なくとも毎月一度か二度は開催されている議員会館内の会議室での勉強会の様子がカットされる事なく載せられている中、現時点で一番新しい、出来立てホヤホヤの動画がアップされていたので、それを取り上げてみたいと思う。
というのも、なんせ新しい動画というか、講師として出演しているのが、何を隠そう義一その人だったからだ。
前回は今年前半に一度初出演したきりだったが、その動画内でも安田とやり取りがあった通りに、ただの口約束、ただの社交辞令に終わらずに、こうして二度目のお呼ばれとなったのだった。
因みに私は、義一の言論媒体であるラジオにしろ、テレビにしろ、そして勿論雑誌自体も欠かさず見聞き視聴しているのだが、その中では番宣とでも言うのか、全くその様な宣伝は行われずに、ただ単純に直接会った時に義一本人の口を通して聞いたので、見逃す事なく視聴する事が叶った。
まぁ尤も、以前から触れてるように、私は周囲の同年代と比べると圧倒的にネットを見ないのだが、それでも一応、ラジオにしろ、テレビにしろ、義一主導の元でネット上に置かれているオーソドックス全般のホームページはちょくちょく見たり、そして安田の政治グループのも同時に確認するのが日課となっていたのもあって、見逃す心配はいらなかったが、しかしまぁ繰り返し言うと、こうして本人の口から知らされた方が良いことには違いなかった。

…さて、これといって意味のない枕はこのくらいにして、早速抜粋へと移っていこう。
内容としては、動画の題名もそのままだったが、ズバリ『貨幣について』だった。
その内容は当然義一が六月頭に出した二冊のうちの一冊である、新書サイズとは言え三百ページほども文量のある『貨幣について』という本の題名そのものがタイトルになっている時点で、講演の内容も分かるというものだろう。
その通りで、以前に宝箱で私と絵里の二人を生徒に見立てて、ホワイトボードを使いながら義一が分かりやすく貨幣、お金について講義をしてくれたわけだったが、第三巻の第9話『お金について』の中身と結構重複するのもあり、今回は被っている部分は端折った部分だけ抜粋してみようと思う。
早速本編に移ろう。



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個人的な事を言えば学園の試験休み後半である七月中旬平日の夕方、議員会館第二会議室。
動画は以前と変わらずオープニングもなく、いきなりまだ騒ついた会議室の様な映像から始まった。
真っ白な無機質な壁色や、長テーブルの設置の仕方など、毎度毎度同じ形式だった。
上座というのかホワイトボードも見えており、その前には既に幾人かのスーツ姿が座っているのが見えて、一応毎回見ている一視聴者の私の意見を述べれば、彼らがこの政策グループの幹部たちだと分かった。
その幹部達に両脇を挟まれるようにして中央に着席し、肩を窄めて一番側に座る幹部の議員と苦笑を浮かべながら談笑をする、スーツに身を包んだ義一の姿があった。長髪を綺麗にピシッと纏めている。
暫くして、その話している議員と反対側に着席する男性が見えたが、それがここの座長である安田その人だった。
座るなり安田が満面の笑みと言っていい表情で話しかけると、ここにきて漸くというか、見るからにホッとした笑みを浮かべながら義一も何かを返していた。

そんな様子が三十秒ほど流れると、まだ場がざわつきを残す中、安田が立ち上がると、電源の入ったマイクの先をトントンと叩いてみせた。
その直後、先程までのザワつきが嘘の様に一気に引くと、安田は一度義一を見下ろしてから、これまた恒例だが勉強会を開く挨拶を述べ始めた。

初めの方は、「忙しい中出席して頂きましてありがとうございます」というテンプレートな挨拶に始まり、事務的な内容が一分ほど続いたが、今現在の日本における経済の停滞について軽く触れた後で、義一の紹介に入って行った。
「…で、ですね、何度も何度もまた我々の勉強会に来てくださいませんかとお願いしていたんですが、中々承諾して頂けなくて、初めて来ていただいた前回から三ヶ月ほど経ってしまいましたが、しかし漸く重たい腰を上げて頂いたというのか、久しぶりに望月義一先生に再登場して頂きました」
「い、いやぁ…」
と、目の前のテーブルに置かれた小さなマイクスタンドからは離れていたのだが、義一が苦笑いで声を零す音を拾っているのを聞いて、私も思わずモニターの前で笑みを浮かべていた。
安田もそんな義一に笑みを一度向けると、おもむろに手に二冊の本を手に持ち出した。
見るとそれは、まぁ言うまでもないだろうが、義一が六月初めに出した二冊の本、『国力経済論』と『貨幣について』だった。
「望月先生は先月の初め頃にこちら二冊の本を出版されまして…ふふ、もしかしたらご案内の先生方もおられるかも知れませんが、世間一般までとは言わないまでも、いわゆる経済学なりその周辺と言いますか、財界ビジネス界隈で只今話題になっていましてですね…」
「ふふ、悪い意味でですけれど」
と義一は”絶妙な”タイミングで顔をマイクに近づけてボソッと合いの手を挟むと、そのタイミングが良すぎたせいか、会議室のそこかしこから控えめながら笑い声が聞こえた。
かくいう私も、内容としては笑えなくても思わず笑ってしまった。
一応確認のために付け加えれば、別に義一に対してどうのという事ではなく、義一の本を悪く受け止めている現実に対しての意味だ。
安田も一度笑みを浮かべてから挨拶を進める。
「ふふ、私はですね、前回にも申し上げました通り、こちらにいる望月先生とは長い付き合いをさせて頂いてきたのですが、よくもまぁこんな大著なりを著せる程の研究を、他の仕事があるにも関わらず出来るなぁ…と感心というか、感心を通り越してただただ不思議に思うばかりなのですが…ふふ、これ以上言うと、本人が照れてしまいますので、この辺にしておきます。
さて、今現在もですね、日本の財政というのは大変な状況にある…だなんてですね、連日マスコミやら財界、また政府、政治家の間でもコンセンサスと言いますが、ロクな議論をしないまま認識を共有してしまっているのですが、この認識そのものが間違っているのだと、こちらにいらっしゃいます望月先生は、ただいま紹介しました大著、『国力経済論』の中で詳しく論じられています。
で、ですね、
『そもそも何故こんな勘違いを過去何十年にもわたってし続けてしまっているのか?』という疑問が当然出てくるのですが、その中の解決法として先生は、
『まずお金、通貨、貨幣というものがそもそも何なのかが分かっていないから、延々と勘違いし続けて、延々と経済政策を間違ってきてしまったのではないか?』
という問題提起を書いておられていまして、それは私個人の見解ですがごもっともだと思うわけです。
というわけでですね…昨今話題になっています、”仮想通貨”についても含めて、通貨のあり方、通貨が経済成長にどの様な役割を果たしているのかという話を頂きたいと思います。テーマは『貨幣と経済成長』でございます。よろしくお願いします」

「拍手」




安田「では先生…」
と着席した安田が促すと、義一は目の前のマイクスタンドからマイクを外し、それを手に持ってスクっと腰を上げた。

義一「えぇ…あ、はい、只今ご紹介…ふふ、いや、お褒めに預かりました望月義一と申します。着席の上でお話をさせて頂きます」

…ふふ、”また”言ってる。

「えー…先ほど御案内がありました通り、三ヶ月前に
こちらの勉強会で話す様に仰せ仕りまして、その時は所謂過去数十年にわたる日本政府の経済政策の問題点、ズバッと言ってしまえば失策の数々を暴き立てまして…」

議員「苦笑」

ふふふ

義一「ただそう述べるのみならず、一応極々当たり前な対応策と申しましょうか、当然されて然るべしな今するべき政策とは何かについて、具体的な話を含めて申し上げたつもりだったのですが、こちらの政策グループに集っていらっしゃる皆さん先生方は大変に真っ当でいらっしゃると思うのですが、ただ残念なことに、ただいまここに集まっている二十数名程が総勢だと安田先生に教えて頂きまして、これはまぁ…ふふ、私の提案と言いますが、あの後で出席致しました、たけ…あ、いや、中山さんだとかですね、島谷さんだとか、他にも我々と共に何とか現状を正しい方向に変えようと苦心している皆さんが出られていますが、まぁ…政権全体への影響力を広げられずに今の体たらくなのは仕方ないのだろうと、溜息交じりに引きこもっていたのですが…」

安田「あはは」

議員「苦笑」

そっか…そんな少数ではねぇ…

義一「まぁこんな本を出してしまいまして、また前回に動画撮影している前でですね、もし次回にまた呼ばれる様なことがあったとしたら、また出てくれますよねの様な事を安田先生から聞かれまして、まさか二度目は無いだろうと思っていたので安請け合いをしてしまったのですが、それも含めてこうして本を出したのをキッカケに、まさかの二度目が来てしまったという訳です」

議員「苦笑」

…ふふ、初めから全開ね

義一「で、えぇー…っと、ふふ、いきなり愚痴から始めてしまいましたが、今回の話を引き受けるにあたってですね、せっかくだから仮想通貨だとか、そういったものと絡めながら話してくれないかを頼まれましたので、それらも調べてですね、参上した次第であります。よろしくお願いします」

議員「よろしくお願いします」




義一「で、今回はですね、先ほど紹介頂きました二冊の本、『国力経済論』の第一章から第三章までとですね、新書サイズ…とは言っても、厚さ自体は厚めの『貨幣について』を元にお話しする様に仰せつかっているのですが…ふふ、実は『国力経済論』で言いますと、実は四章以降の方が面白いのですけれど」

安田「ふふふ…」

義一「一般の読者を含めてですね、たまに好意的な感想を直接私に言ってくれる方々がいらっしゃるのですが、『貨幣について』は良いのですが、『国力経済論』に関しては、第一章から第三章までが良いという感想を貰うことが非常に多くてですね…ふふ、恐らくそう感想を下さる方々は、途中で読むのを挫折されてるのだろうかと思います」

議員「笑」

安田「あははは!」

ふふふ

義一「自分で言うのも何ですが、先ほども紹介がありました通り、見た目的にも実際に持っても重たい大著ですからねぇ…ふふ、それはさておき、早速ですが貨幣についてお話をさせて頂きたいと思います。
まずはですね、最近話題のビットコインなどの仮想通貨が流行っておりますので、この仮想通貨の話を皮切りにしたいと思います。
えぇー…私が用意しましたスライドをご覧いただくとですね…」
とここで実際にモニター一杯に画像が表示された。

それはグラフだったが、義一がチラッと仄かした様に、これは著作の中には入っていなかったので、今私はモニター前で毎度の如くノートを用意して早速書き込んでいたのだったが、その余白に、この勉強会のレジュメを後で貰えるように義一に頼む旨をメモしておいた。

義一「今日の勉強会を仰せ仕るので調べてみて驚いたのですが、このグラフはビットコインの取引に占める全世界の内訳と言いますか、公式のサイトから引っ張ってきた、まぁその様なものでして、ご覧になれば分かる様に、ここ数年にですね急激に日本円の割合が増えまして、もちろん時期によって変動をしていますが、概ね半分以上をですね日本人がビットコインを買っていると、そんな物凄い状態になっているんですね」

議員「ほぉ…」

へぇー

義一「一時期テレビでビットコインのコマーシャルがしょっちゅう流れていましたが、今だにテレビの影響力は凄いんだなと感心したのと同時に、これまた随分とヤバイことになってるなと心底危機感を覚えたんですね。
というのもですね、このグラフを見つける前にビットコインについて調べましたところ、これは要は金貨とか銀貨とか、いわゆる”金属貨幣”をモデルにしているのが分かってきました。
どういう事かと言いますと、ビットコインというのは”Mining”と呼ばれていますが、直訳すればそのまま『採掘』という意味でして、コンピューター上の難解な数理処理を解くと、その報酬としてビットコインが手に入るという仕組みがそもそもなのですが、そんな高度な計算が出来る人は極々限られてるので、普通は取引所を通じて採掘されたビットコインを入手することになっているそうです。
さて、金貨や銀貨というのは、当然鉱山の採掘によって貴金属を入手するかが大事な訳ですが、誰でもそんな鉱脈を発見出来るわけでも、見つけても中々採掘は難しかったりするわけですね。というのと、まぁ模している様に見えるということです」

なるほど…

義一「で、えぇっと…金貨、つまりはゴールドですが、どこにでも金山があるわけではなく、だからこそ希少性があるというので古来から価値があるとされてきた訳ですが、ビットコインにもですね、発行上限というものが設定されています。
具体的に言いますと、発行量が増えるとマイニングが難しくなる仕組みとなっているようです。
従ってビットコインを欲しがる人が増えると稀少性が高まって、価値が上がるという仕組みになっているそうです。
で…続きまして、これも公式からダウンロードしたグラフですが、これは『ビットコインの発行量とその予測』という事で、見てもらいますと…まだ今年や数年後までは掘れてる、マイニングが出来ると予想されていますが、ご覧の通り、それ以降はずっと横這いですね?要は発行量が頭打ちになるという事です。まさに金貨だとかと同じ様な仕組みで、希少性があるから皆して取引をしているんですね。
でまぁビットコイン、仮想通貨の問題点というのはですね、例えばハッキングされて漏れてしまったとかですね、あるいは投機性があって高騰したり暴落したりとかまぁ、色んな事が言われているんですけれど…勿論これらも問題なのでしょうが、そういった事は今後の技術発展なりで乗り越えられる可能性でもあるのかなと素人考えで思うのですが、問題の本質といいますか、そもそも仮想”通貨”という名前が付けられていますが、
『ビットコインだとかって”通貨”何ですか?』
という疑問が出てくる訳です」

うんうん

義一「私からするとですね、先程来触れてきました様に、仮想通貨というよりも、仮想”金貨”と言いたいくらいなんですね」

仮想金貨…なるほど

義一「でー…この仮想通貨というものを熱心に推進されている方々がいまして、三名をここでは紹介したいと思います。
まず一人目は、”例によって”現総理大臣でおられます岸部さんの近くにいる、過去に構造改革を推進する様に政府に働きかけ続けてきた経済学者のTさんですね」

あはは、”例によって”か

議員「苦笑」

安田「あはは」

義一「三田にある有名私立大学の名誉教授にして、政府未来投資会議議員、つまりは民間議員ですね、そもそも選挙で選ばれていない時点で”議員”って名称がつくのが甚だ疑問というか詐欺というか詐称のための肩書だろうと断罪したいくらいなのですが、それは今はおいといて、後は全国的に有名な人材派遣会社の取締役会長というのも、この人物を知る上でも大事だと思いましてついでに紹介欄に載せておきました。
でですね、たまたま最近に、T先生が仮想通貨に関する記事を書いているのを見つけまして、それを少し紹介したいと思います。
『仮想通貨は今出てきているUBERやAirBnB等と基本的に同じだと思います。過去には国や権威のお墨付きが無ければ安心出来なかったのだけれども、新しい技術を駆使することによって、そうじゃなくて出来る様になった』
という風に認識されている様であります。
で、もう一人ですね、アメリカはカリフォルニア州に本社を置く、インターネット関連商品、デジタル家電製品、それらに関連するソフトウェア製品を開発販売する、あの齧られた果物のマークが有名な全世界規模の多国籍企業の共同経営者の一人である、コンピューターエンジニアの方がおられますが、氏も仮想通貨のファンでして、彼に言わせるとビットコインは金とかドルとかよりも全然良いものだと言うんですね。
何故かというと、
『金は採掘技術が進歩すれば、供給が増え価値が下がる。
米ドルは、中央集権的な権力が勝手に創造できる”インチキの類い”に過ぎない。
ビットコインの供給には、”予測可能な有限性”があるから、金や米ドルよりも優れている』
と。
”Bitcoin is better than gold and U.S. dollar ”
とまぁ言ってるんです。
で最後にもう一人ですね、深夜に放送している地上波の討論番組でお馴染みの方がいらっしゃいますが、敢えてA氏とさせて頂きますと、これはとある企業が仮想通貨を流出させてしまったというのが問題になりましたけれど、それについてコメントを出しているのを見つけまして、これもレジュメに載せておきました。
彼はこう言っています。
『仮想通貨は素晴らしい。これまでは通貨は信頼によって成立してきたが、従来においてはその信頼は各国の中央銀行が支えていた。
ところが仮想通貨を生み出した”ブロックチェーン”という技術を使えば、中央銀行の様な権力に頼る事なく誰でも通貨が発行できる。
これは画期的な技術で社会のあり方を根本から可能性を秘めているのだが、今回明らかになったのは、その素晴らしい技術を肝心の人間がうまく使えていないという、実に残念な事実である』
とおっしゃっています。
でですね…今挙げた三人はですね、三人三様の言い方をしていますが、一つ共通しているのが、『国家権力なしで通貨が発行出来る』という、無政府主義とまで言うと大袈裟ですが、そういう未来社会をITなどのイノベーションによって出来るんだと語っておられるんですね。
ただまぁ…ふふ、ちょっとずつ突っ込んでいきたいと思うのですが、例えば最後に触れましたAさんなんかは誤解があるなと思うのはですね、
『”ブロックチェーン”という技術を使えば、中央銀行の様な権力に頼る事なく誰でも通貨が発行できる』
とおっしゃるんですが、よく考えてみると、誰でも通貨が発行出来る様になって次々と流通する様になったらですね…通貨の価値というのは暴落するんですね。それこそハイパーインフレになってしまいます」

あー…ふふ、本当だ

義一「要するにですね、誰でも発行出来る通貨というのは、誰も欲しがらないという…ふふ、当たり前なんですけれどこれが『実に残念な事実』なんですね」

ふふふ

義一「別に技術的にどうとか人間が追いついていないとかの話以前の事でありまして、んー…ふふ、またしてもズバッと言わせて頂きますと、この方の貨幣観というのは、根本的に間違っている様にお見受けします」

ふふ、うんうん、本当だ

義一「ビットコインは一応それくらいは分かっているので、だから発行上限がある訳ですね。
希少性を担保して価値を高めていくという仕組みになっているんですが、その発行上限を”予測可能な有限性”と、二人目に挙げた著名なコンピューターエンジニアの彼が讃えたこの問題ですね。ハイパーインフレにはならないんですが別の問題を孕んでいまして、この人の誤解とは何かと言いますと、ビットコインというのは需要が高まれば高まる程価値が上昇するのですが、貨幣価値の上昇という事は、逆を言えば物価の下落という事で、要するにこれはデフレなんですね」

あー…

義一「要はですね、ビットコインというのは”予測可能な有限性”があるためにですね、デフレを招くという事です。
えー…これは実例があると言いますが、先ほどビットコインは金貨を模していると申し上げましたけれど、昔は金本位制というのがありまして、金の量というのを足枷にして貨幣の価値を担保していた時代がありました。
当然”金”というのは有限なので、そこで価値が担保されるんですが、それでデフレというものが起きてしまうんですね。
要するに貨幣需要が高まっても、貨幣の供給が金の量に制約されてしまうので結果貨幣が不足すると。お金が不足するとお金の価値が上がるので、皆がお金に殺到するという事です。
先の大戦前にあった世界恐慌というのは、言うなれば大デフレ不況だった訳ですが、これが深刻化した原因は金本位制にあったと言われています。
なので、世界恐慌からの脱出は、金本位制から離脱して、貨幣を金と紐付けないでどんどん刷って流通させた事によって貨幣に価値が下がる、つまりはデフレからインフレへと転じる事に成功して世界恐慌も収まり始めたという経緯がありました。
このエンジニアさんは米ドルがインチキだと言ったんですが、そのインチキであるお陰によってデフレを防げるんですね」

うんうん

義一「まぁですから…まぁ世界的な大企業の創業メンバーの一人だというので、それなりに社会的な発言権を持っておられるんですが、彼自身は少なくともお金について、貨幣については何一つとして分かっていないという事なんですね」




義一「えー…よくある貨幣観の誤解というのがありまして、それを全部ひっくるめて”商品貨幣論”、つまりは先ほど申し上げた様に金貨と同じ発想でして、ビットコインなどの仮想通貨もこの”商品貨幣論”の考え方の元にあります。
えー…っと、この勘違いが巷間に流布されてよく知られているんですが、
『貨幣とは何かというと、元々原始的な物々交換物々というものをやっていて、交換の効率の悪さを克服するために、交換手段として利便性の高い”モノ”として導入され、そのうち希少性の高い金属、つまりは金や銀に置き換えられていった。
紙幣は、金属貨幣よりも使いやすいから用いられるが、その紙幣の価値の根拠は、あくまでも貴金属との兌換、交換が保証されているからだ』
…みたいな話が人口に膾炙していますが、ところがこの考え方は私たちは既に間違いだというのは知っています。
何故なら米ドルは1971年に金との兌換が停止されていますが、国際通貨として流通し続けていますし、歴史を紐解いてみますと、例えばイギリスも十九世期の一時期ですね、金との交換を一時期停止させていたことがありましたが、その間ポンドは使われなくなったかというと、逆にポンドが国際通貨としての地位を築いたのはその頃だったんです」

うんうん

義一「でー…『貨幣が物々交換から生じました』という話自体がどうもですね、人類学なり歴史学の先生方は誰一人としてその様な事実を発見できていない様でして、証明されてすらいないんですね」

議員「へぇー」

義一「えー…あ、そうそう、忘れるところでしたが、先ほど仮想通貨を過大評価していた三名の内で一番最初に紹介しましたT先生への反論と言いますかしますと、先生は基本的に仮想通貨をサービス、つまりは商品だと考えておられるんですが、それは正しくても貨幣観そのものは大間違いでありまして、何故かというと、これまで説明してきた様に、彼の貨幣観が商品貨幣論に立脚してるからなんですね。金本位制と同じ考え方な訳です。
しかし繰り返しますが、この金本位制というのは既に間違った貨幣観だというのは歴史が証明していますから、そんな価値観に基づいて論じている事などは、聞く価値もないという事です。
で、えぇっと…ついでなので、欠席裁判をしてしまう様ですが…って今までもそうだろうと言われればそれまでですが、これが恐らく世間一般的な反応だろうという事で、先ほど安田先生がチラッと触れられました、私が先月出しました本に対する、著名な方々からの”暖かな”批評の数々の内からですね…」

…ふふふ

安田「ッフッフッフッフ」

義一「あはは。えぇっと…投資や経済に関するフィクション・ノンフィクションの作品を多く書かれている作家の方がいらっしゃいまして、彼が週刊誌に私の本への批評を書いてくださっているので、せっかくなので引用したいと思います。
繰り返しますが、この方を批判したくて引用するのではなくてですね、『彼のご意見が一般的なご意見ですよね?』と、その確認の為に触れさせて頂きます。
えぇっと…
『…それに加えて、”金融緩和に効果がないなら、政府債務をさらに拡大して、無理やりインフレにしろ”というマッドサイエンティストの様な主張をする筆者の様な者も出てきました』
…ふふふ、このマッドサイエンティストとは私のことですが」

議員「苦笑」

…ふふ、そりゃあ議員さん達も苦笑いになるわよ。誹謗されているのに、その本人が愉快げに話すんだもの

義一「あははは。で、えぇー…コホン、
『私達はいまだに、いつ日本国の財政が行き詰まり、国債が暴落し急速な円安が進むか分からない崖っぷちの狭い道を恐る恐る歩んでいるのです』」

はぁ…もう何も言う気も起きないわ

義一「『日本国の財政赤字も構造的な問題で、国家が無限に借金する事は出来ないのですから(もしそれが可能なら”錬金術”になってしまいます)、このままでは危機はいずれ現実化するでしょう。その影響が計り知れないものである以上、私たちは個人としてそのリスクに備えなかればなりません』」

はぁ…ふふ、義一さんがこの間宝箱で話してくれた通りの反応を、誰だか知らないけれどこの作家はしてくれているのね…
『このままでは危機はいずれ現実化するでしょう』って一体何の根拠を元にして言ってるのこの人は…?


義一「…ふふ、今紹介しましたが、またもや繰り返し言えば、これが一般的な日本国民大多数の共通した考えですよね。
カッコで囲われている部分などは、恐らく一般の直感に訴えてくる点があると思います。
『(もしそれが可能なら”錬金術”になってしまいます)』
確かに錬金術なんか無理なんだから、無限に借金なんか出来るわけないよなぁ…ってなものです。
でもここでポイントというのは、この錬金術という言葉を使っている時点で、この記事を書かれた方の貨幣観も商品貨幣論だと分かることです。
だからやっぱり貨幣というものがどういうものなのか、それをしっかりと押さえておかないと、この様な勘違いが生まれてしまうという事です。
無限に借金が出来ないと仰ってられるんですが、これは新書の『貨幣について』にも書きましたし、『国力経済論』でも初めの第一章から第三章にかけて書いたつもりなんですが、んー…まぁどうやらですね、書評を書いてくださっているくらいですから、一応私の本を読んでくださったと思うのですが…ふふ、恐らく面白くなる第四章どころかですね、第三章まですらキチンと読んでくださらなかったのでしょうか…ふふ、きっと私の書き方がまずかったのでしょう、早々と挫折してしまわれた様です」

安田「ッふふ」

議員「苦笑」

あははは

義一「えぇっと…はい、私は本の中でも書いていますが、物価の上昇率、インフレ率なりですね、商品貨幣論ではなく、貨幣を負債だと見る”信用貨幣論”からすると、デフレである限りは無限に借金が出来るんですね。
なのに、出来るのを出来ないと言い張ってらっしゃるのは、錬金術発言に見られる様に、私の本を読んでくださったと思うのですが、読み終えた後でもどうやら貨幣が一体何なのかを理解されていらっしゃらないと。
とまぁ、彼の様な考えを一般国民が持っているせいで、過去数十年にわたって間違った経済政策を延々とし続けている政権が、政権与党が何度か変わっても執行する中身が変わらないと、そんなヘンテコリンなことが今現在まで進行形で続いているという訳なんですね。
ついでにですね…この方は日本政府の国債が”デフォルト”、つまりは端的に言って破綻するだなどと、これまた一般的な世間的な不安を述べていらっしゃるので、本の中でも散々書きましたが、自国通貨建ての国債はデフォルトしないというのを、なんと私だけではなく、”あの”財務省ですら、プライマリーバランス黒字化目標だとか、消費税増税だとかといった”緊縮財政”が大好きなあの財務省ですら、過去数十年にわたって日本経済をズタボロにしてきた張本人であるあの財務省ですら、実は正しい事を今も自分のホームページに載せています」

議員「苦笑」

安田「あはは」

…ふふ

義一「えぇー、2002年の五月にですね、外国の格付け会社が日本の国債の格付けを下げたのですが、この時の財務省は今からでは想像も出来ませんが激怒したらしくてですね、反論の意見を出しました。これは今この動画をご覧になられている視聴者の方でもすぐに探し出せれるので、確認して頂きたいと思いますが、こう書いてあるんですね。
『日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか』と」

議員「おー」

うんうん。…ってか『おー』って…

義一「とまぁそういう訳でして、今の財務省はしきりに今の日本の財政では近い将来にデフォルトすると嘘を公言している訳ですが、その反面と申しましょうか、こうして自身のホームページ上には堂々とこの文言を残しているのですから、この正しい意識、認識を今取り戻して頂いてですね、正しい国家運営、正しい経済政策に舵を切って頂きたいと思います。
…ふふ、まぁそんな事は無理なのは百も承知ですけれどもね?」


抜粋終わり
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