第11回:ウチらは自信がなかった

文字数 2,461文字

「それにしてもアカネがあんなふうになるなんてなぁ。アカネ、アホちゃうかったんやなぁー」
 てっきり、失礼しちゃうわぁ、とか返してくるだろうと思いきや、
「ホンマ、ウチ、アホ失格やわぁ」ときた。だから。
「まぁ心配すんな。あれはただの風邪ちゃうから。あそこまで(すご)いのんはアホでもかかるんちゃうか」
「せやったらノーカン?」
「ノーカンノーカン」
 ――アホである。そう。私たちは無事、こんな軽口(かるくち)をたたけるまで、いつものアホに戻った。アホ最強。アホとなんちゃらは薬にも医者にも温泉にも治せないというし。(なんちゃらってなんだ?)
 幸いにして、後遺症のたぐいもないようである。
 私はというと、感染しなかったのかもしれない。少なくとも自覚症状は出なかった。アカネよりも本当は私のほうがアホなのかもしれない。
 そんなアホの私は今日も、女のコ。週末アイドルである。
 顔を突き合わせてまじまじと、互いを鑑賞している。

「ほんま、あれでアカネに死なれたら私、あとの人生考えられへんからなぁ」
「ウチもウチも〜。今回ようわかったわぁ。ひーちゃんなしではウチ、生きてかれへんもん」
「おっ、アカネ、いまごろ気ぃついたんかいな!」
「もぉー、前から、そうで・し・た! アイドルしてたころからそうでしたッ!」ムスッ。
 そうか。そうでしたか。
「せやったら私は、アイドルのアイドルいうところやな」
「そーですょ」ムスッ。
 そうか。私の終末アイドル、いや、週末アイドルというのは、前々からだったのかもしれない……。

 今年の私の誕生日は、さらっと過ぎ去っていってしまった。インフルエンザであれ、新型コロナウイルス感染症であれ、隔離(かくり)すべき期間というものが存在する。症状が収まってきても、ウイルスが残っている。私も、感染していて無症状という可能性があった。二人とも、他人にまき散らしに行くわけにはいかない。だから遊びにも行けなかった。5類であろうが、危険なのは、人が死にかねないのは、まだまだ同じ。そもそもインフルエンザだって、隔離されなければならないものだ。そして、あれが新型コロナでなかったとしたらまず間違いなくインフルである。そいつの新型だったかもしれない。
 あれがなければもしかするとアカネは、私の誕生日を女のコどうしでのデートにする計画ではなかったのか。そんな気がしている……。いや、誕生日でなくとも、このペースでいけばそろそろ、ありうるだろう。心配だ。いや、どうせ不可避なんだが。

「ウチ、ひーちゃんには勝たれへんもん……」
「なんや? 年収か?」
 アカネの(かせ)ぎが少ないのは男社会なのだからしかたない。
「ちゃう」
「なんや?」
「アイドル的に」
 あー、アイドルのアイドルだからな……。末期的アイドルの私。
「ウチ、ひーちゃんなんかには不()り合いやもん」
「そんなことないて」
「ひーちゃんはカワイイし頭ええし」
 アカネより可愛いと言われても困るのだが。
「なんてゆうか、月と……アレやん? アレ」
「スッポンか?」
「そう、ソレソレ」
 アカネにはスッポンを知らない容疑がある。(私も食べたことないが! あの亀みたいなやつ。)
「なんや、そんなんで切れる関係やなんて思てたんか?」
「思っては……おった……」
 思ってたんかいな!
「ウチなんかのこと、ホンマに好きなんかって」
「好きやって」
「みんな、アカネのことお世辞で『カワイイ』『好き』言うてくれてたし」
「あー、そりゃそうやけどな……。でも私は本気や。もうわかったやろ?」
 ウン……。そう反応しつつも自信なさげだ。
 そんなアカネの二の腕をぽんぽんっとたたいた。
「まぁ私もアカネには勝たれへんて」
「……そぅ?」
「アカネから離れられへんからな」
「ホンマに……?」
「ホンマやからホンマ。せやからアカネ、コロナとかなっても黙っておらんといて。黙って先に死ぬのも勘弁(かんべん)な。もう二度と、勝手に死にかけたりせんといてぇな」
 死なれるくらいなら、メンドクサイくらい、かわいいものだ。
 ウン……。アカネが私の手を握る。
「ひーちゃんもですよ?」
「ああ」
「約束ですよ?」
「約束や」

 愛しあい見つめあう二人。
 ――涙をにじませていた。

 ひととき()って、飲み物で一息入れたころ。「あんな」とアカネ。
「そろそろひーちゃんのことをウチのパパとママに紹介したいねん」
「せやなぁ……」
「ほら、ウチのパパ、会社やってるやん。ほんで『後継ぎいるー』『そろそろ帰ってきて結婚相手見つけぇ』()うてうるさいねん」
 アカネの父親はちょっとした町工場(まちこうば)を経営しているらしい。そしてアカネは一人娘で兄弟もいない。
「せやからパパとママに『もう相方(あいかた)いますー』言うて」
「なんや、アカネは大阪帰りたないんか」
「いや、そういうわけやないけど……婚活(こんかつ)とかさせられそうやからイヤやってん」
「ほんで帰らへんかったんか」
「だって、ウチにはひーちゃんおるもん」
「もしかしてアイドルやめても大阪帰らんかったのも、それでか」
「せぇやよ! いまごろ気ぃついたん?」
「うん、アホでゴメン。堪忍(かんにん)な」
 私も、アカネがアイドルやめてプライベートでも好きでいてくれるとは、思っていなかったのだ。私はそこまで自惚(うぬぼ)れちゃいない。それこそあの『私もです』もお世辞みたいなもんかもしれず、自信はなかった。
「アカネ、引退しても最初から帰る気あらへんかったわけや」
「うん、とにかくウチ、ひーちゃんが一番やもん。ひーちゃんほどカワイイ人おらんもん。もう一目惚れやもん。ひーちゃんおらんとアイドルできひんかったもん。生きがいやもん」
 あぁ。私もや。あいかわらず『カッコいい』ではなく『可愛い』というところには引っ掛からざるをえないわけではあるが。

「そのわりにはうちに転がり込むの、遅かったな」
「だって……自信なかったモン」
 まあええわ。昔の話。一緒になったからにはもう関係ないからな。
「それはおいといて」アカネはバーチャル

を回す両手で、話を横に置いといた。
「おいとくんな……」

〈次はいよいよ最終回 カウントダウン! あしたまにあ~な(Hasta mañana)! つづく〉
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