第22話 刑事が本家にやってきた
文字数 1,489文字
「お母さんって、いいよね」と、涼音 がぽつりと言った。
秀一 と違い涼音は、息子の活躍を喜ぶ母親に注目していたようだ。
涼音は子供の時に両親が離婚している。その後、父親と一緒にみずほ町に引っ越して来た。

「お母さんと会う時あるの?」
「全然ない……どこにいるのかもわからないの」
「お父さんも知らないの?」
涼音は首を振った。
「……なんだか、きくのが悪くって……きいたことない……」
自分もそうだと、秀一は思った。
母親が亡くなってから、父親と母の話をしたことがなかった。
父親が亡くなった妻を思い出して悲しむのではないかと考えただけで、涙が出そうになる。
急に、涼音が口に手を当ててクスリと笑った。
「お母さんの話、久しぶりに話した……秀ちゃんって、男の子っぽくないから、話しやすい」
(ん? 褒められてるんだよな?)
何にせよ、どこか寂しげな顔の涼音が笑ってくれるのは嬉しい。
「私ね、早く働きたいの。一人で生活できるようになりたいの……一輝さんから借りたお金も、ちゃんと返すからね」
びっくりした。
兄が涼音の学費を出したことは知っていたが、返済のことなど考えたこともなかった。
「……兄さんは、貸したと思ってなかったよ。涼音は頭がいいし、性格もいいからこの町にずっといてもらいたいって、よく言ってた。涼音が大学出たら自分の仕事を手伝ってもらいたいって」
涼音は黙った。
うつむき、石のように固まっている。
「兄さんと涼音のお父さんがケンカしたらしいんだけど、なんでだか知ってる?……やっぱ、お金のこと?」
「……私が悪いの」と、涼音は静かに言った。「……県立落ちちゃって……私立に行くことになったから」と、小さくため息をつく。「お父さんに迷惑かけちゃって……申し訳ない……」
最後の言葉はあまりに小さくて、辛そうで。
涼音が泣き出すのではないかと、秀一は焦った。
何か言わなければと、頭がグルグルした。
「涼音、なんか言って!」
「えっ?」
「何か言ってあげたいけど、何も出てこないから、もっと、なんか言って! そのうちいい言葉が浮かぶかも!」
涼音は考え込むような顔をした。
「ええっと……」
その時突然、後ろの金網がガチャガチャなった。
秀一はびくりと、振り返った。
凛 がいた。
「おい! 秀一! お前んち、大変だぞ!」と、金網を揺すりながら凛が言う。「本家に刑事が来てるぞ!」
秀一は驚いた。「泥棒が入ったの?」と立ち上がった。
「ばーか! 一輝さんのスマホの捜査に決まってんだろ。アタシはスマホの発見者だからな、絶対取り調べられるぞ!」
凛は嬉しそうな顔でまた大きく金網を揺すった。
「凛! 静かにしろ! 気が散るだろ!」
サーブを打とうとしていた武尊 がコートから怒鳴った。
「おまえ、負けてんのか! 中学生相手にだらしねえな!」と凛が怒鳴り返す。
「凛ちゃん、しっ!」と、涼音が慌てて口の前で人差し指を立てた。
怒った武尊がラケットを放り出して、凛をめがけて走ってくる。
ケラケラ笑って、猿のようなすばしっこさで逃げる凛。
武尊を止めようとする涼音。
試合放棄ですかと、クールに言う中学生。
秀一はボーッと、小高い山を見上げていた。
本家の白い塀が見える。
(あそこに刑事が来てるのか……)
すぐ近くの『西手』には正語 がいるはずだ。
正語は警察官。
同業者同士、仲良くなったりするのだろうか。
みずほに来ることを正語は面倒臭がっていた。もし正語に友達が出来たら、今日来てよかったと思ってもらえるかもしれない。
(本家に来た刑事さん、正語と友達になってくれるかな)
秀一は、そんなことを呑気に考えていた。
涼音は子供の時に両親が離婚している。その後、父親と一緒にみずほ町に引っ越して来た。

「お母さんと会う時あるの?」
「全然ない……どこにいるのかもわからないの」
「お父さんも知らないの?」
涼音は首を振った。
「……なんだか、きくのが悪くって……きいたことない……」
自分もそうだと、秀一は思った。
母親が亡くなってから、父親と母の話をしたことがなかった。
父親が亡くなった妻を思い出して悲しむのではないかと考えただけで、涙が出そうになる。
急に、涼音が口に手を当ててクスリと笑った。
「お母さんの話、久しぶりに話した……秀ちゃんって、男の子っぽくないから、話しやすい」
(ん? 褒められてるんだよな?)
何にせよ、どこか寂しげな顔の涼音が笑ってくれるのは嬉しい。
「私ね、早く働きたいの。一人で生活できるようになりたいの……一輝さんから借りたお金も、ちゃんと返すからね」
びっくりした。
兄が涼音の学費を出したことは知っていたが、返済のことなど考えたこともなかった。
「……兄さんは、貸したと思ってなかったよ。涼音は頭がいいし、性格もいいからこの町にずっといてもらいたいって、よく言ってた。涼音が大学出たら自分の仕事を手伝ってもらいたいって」
涼音は黙った。
うつむき、石のように固まっている。
「兄さんと涼音のお父さんがケンカしたらしいんだけど、なんでだか知ってる?……やっぱ、お金のこと?」
「……私が悪いの」と、涼音は静かに言った。「……県立落ちちゃって……私立に行くことになったから」と、小さくため息をつく。「お父さんに迷惑かけちゃって……申し訳ない……」
最後の言葉はあまりに小さくて、辛そうで。
涼音が泣き出すのではないかと、秀一は焦った。
何か言わなければと、頭がグルグルした。
「涼音、なんか言って!」
「えっ?」
「何か言ってあげたいけど、何も出てこないから、もっと、なんか言って! そのうちいい言葉が浮かぶかも!」
涼音は考え込むような顔をした。
「ええっと……」
その時突然、後ろの金網がガチャガチャなった。
秀一はびくりと、振り返った。
「おい! 秀一! お前んち、大変だぞ!」と、金網を揺すりながら凛が言う。「本家に刑事が来てるぞ!」
秀一は驚いた。「泥棒が入ったの?」と立ち上がった。
「ばーか! 一輝さんのスマホの捜査に決まってんだろ。アタシはスマホの発見者だからな、絶対取り調べられるぞ!」
凛は嬉しそうな顔でまた大きく金網を揺すった。
「凛! 静かにしろ! 気が散るだろ!」
サーブを打とうとしていた
「おまえ、負けてんのか! 中学生相手にだらしねえな!」と凛が怒鳴り返す。
「凛ちゃん、しっ!」と、涼音が慌てて口の前で人差し指を立てた。
怒った武尊がラケットを放り出して、凛をめがけて走ってくる。
ケラケラ笑って、猿のようなすばしっこさで逃げる凛。
武尊を止めようとする涼音。
試合放棄ですかと、クールに言う中学生。
秀一はボーッと、小高い山を見上げていた。
本家の白い塀が見える。
(あそこに刑事が来てるのか……)
すぐ近くの『西手』には
正語は警察官。
同業者同士、仲良くなったりするのだろうか。
みずほに来ることを正語は面倒臭がっていた。もし正語に友達が出来たら、今日来てよかったと思ってもらえるかもしれない。
(本家に来た刑事さん、正語と友達になってくれるかな)
秀一は、そんなことを呑気に考えていた。