一 新主幹

文字数 882文字

 十一月二十一日、月曜。
「成田主幹の後任として着任した宮塚登だ。よろしくお願いする。
 挨拶は以上だ。平常の勤務に就いてくれ」
 宮塚主幹は執務机の前に立ってそう言い、すぐさま着席した。
 なんだコイツ。歳はまだ三十前後だろう。部下を見下したこの態度はなんだ。東大出だからと図に乗ってるのか?そうじゃないな。学歴やキャリヤではない支配意識がこの主幹を支えている。この若造を支配者のごとく駆りたてるのは何だ?
 与田は自分の机で書類を片づけながら、宮塚主幹の行動を観察した。主幹は何部もの書類に目を通して捺印した。終ると内線通話で話して執務机から立ちあがって部屋を出ていった。内線通話を確認すると、主幹の通話先は木村巧内閣情報官の執務室だった。

 与田は内線通話で話す主幹の唇の動きを読んでいた。主幹と内閣情報官は、後藤総理殺害の報復を話していた。主幹と内閣情報官が何を話しているか、もっと詳しく知りたい。ありきたりの盗聴器をしかけたのではすぐ見つかってしまう・・・。電話とスマホのハッキングは高度な技術が必要だ。盗聴器をしかけるなら、机のスタンドの裏にある滑り止めのゴム足に特殊盗聴器を仕込んで貼りつけるのが有効と思う。はたしてそのような薄くコンパクトな盗聴器を作れるだろうか・・・。
 これまで特殊送信機器は、内調が直接取引している通信機器メーカーに、成田主幹がじかに極秘製作を依頼した。俺が新たに製作依頼すれば、内容が宮塚主幹へ筒抜けになる。内調に気づかれずに特殊盗聴器を作るにはどうしたらいいか?与田は書類に目を通しながらしばらく考えた。
 佐枝と芳川は、内調の下請けがしかけた盗聴と盗撮の機器を見つけた。二人のスマホとパソコンのハッキを試みたが、セキュリティーが強固で不可能だった。二人には、情報機器に関して高度な知識を持つエンジニアがついている。内調の人間に気づかれずに盗聴器を作るなら、あの二人に頼むしかない。二人は内調をどう思っているだろう?ここで考えるより、じかに会うのがいちばんだ。二人の休日は水曜だ。土日は勤務している・・・。与田は自身の休日の予定を確認した
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