第6話 夜会での騒動 断罪イベント?

文字数 1,885文字

 なんとなく、自分の立ち位置が分かって来たわ。
 小説とは違う。アイリーン・フォン・ジェネラルの立ち位置が……。

 アルフォード・フォン・マクレガー。
 伯爵の嫡男でありながら、司令官でも無く一般の騎士職に就かなければならなかったのは、何としてでも功績をあげなければならない理由があるという事。
 そして、功績をあげられなかった場合の保険に、ご当主が選んだのが嫡男と侯爵令嬢との婚約。
 
 本人同士の感情など全く考慮されていない、正真正銘の政略結婚だったんだわ。
 唯一、小説通りなのはアイリーンが派手好きだってことね。

 そして、私とお二方が仲が良いのはそれぞれの家が、王妃の派閥だという事か。
 なるほど。王太子も第二王子も王妃様のお子様だものね。

「陛下が何か言う前に、行きましょうか」
 エルミーヌが騒ぎの方に向かって歩き出した。
「そうねぇ。処刑だのなんだのにならないうちに止めないと」
 あまり乗り気でない感じでアリーヌも従った。私もその後ろから付いて行っている。

「離してって言ってるでしょ。私は招待されてきてるのよ」
 ソフィアはまだ近衛騎士相手に抵抗していた。
 近衛騎士たちが即座にソフィアを追い出せないのは、殿下たちの顔色をうかがっているからだろう。
「離しておあげなさい。これではせっかくの夜会が台無しでしょう?」
 エルミーヌのその言葉に、近衛騎士たちはあっさり手を引いてしまった。

「あなた達なんて、不敬罪で処罰してもらうんだから」
 自由になったソフィアは、フンって感じで近衛騎士たちに言い、アルフォードにすり寄る。
「アルフォードさまぁ。どこに行かれてたのですかぁ。エスコートしてくれないから、王子様たちの所に行けなかったじゃないですかぁ」
 ぷんすか、って擬音が付くのかな? マンガとかだったら。

 殿下たちも、ソフィアの傍に寄って来ていた。
 そして、三人を代表するように、王太子が私たちに言い放つ。
「今まで、よくもソフィアをイジメてくれたな。近衛騎士を使ってこんな騒動まで起こして、私たちの寵愛が手に入らないからと、見苦しいぞ」
 見苦しかったのは……いや、何も言うまい。悪役令嬢たちの断罪イベント、この小説の見せ場だ。

 ヒロイン……ソフィアがハラハラと涙を流し始めた。
「よく耐えたな。ソフィア」
 第二王子が、ハンカチを出して涙を拭ってあげている。
「そなたたちの悪行。とても婚姻など結べぬ。特に、エルミーヌ。王妃の座など、もってのほかだ。よって我々三人はこの婚約を破棄させて頂く」
 
 小説だと、夜会に出ている貴族たちからは拍手が起こり、絶賛されるシーンだ。そして、ソフィアは攻略対象三人に囲まれて幸せになりましたと続いて、完結する。

 うん。シリーズ最後の小説化だったし、Web連載を打ち切られたんだと思う。
 それぞれの悪役令嬢からどんないじめを受けてたか、攻略者三人とどうやって愛を育んでいったか、個別ルートと重複する内容を長々と書いてたし。

 まぁ、小説はここで終わり。
 現実には拍手どころか、やけにシーンとしているけど。


「陛下に申し上げます」
 エルミーヌとアリーヌが、先ほどの宣言を無視して陛下の方に礼を執っている。
「許す。申してみよ」
「わたくし共、ブリュニョン家とヴェリエ家も殿下方の申し出を受け入れ、この婚約を無かったものにしたいと考えております。後で正式に両家の当主から申し出があると思いますが」

「それは、ご両家が派閥を離脱するという事ですか?」
 王妃が恐る恐るという感じで、訊いている。
「とんでもない事でございますわ。王妃様にはもうお一方、年若き王子殿下がいらっしゃるではないですか。わたくし共の一族にも釣り合った年齢の令嬢がおります」
 エルミーヌは、ニッコリ笑って王妃を安心させた。

「相分かった。だが、すぐにと言うには少し……」
 陛下は言葉を濁している。王妃の第二子と第三子の間には側妃の子どももいるから、そうなると派閥争いが起きてしまうのだろう。
「そうですわね。ですが、婚約破棄は殿下方からの申し出です。わたくしの力の及ぶ範囲では、ございませんわ」
 エルミーヌのにこやかさとは裏腹に、陛下は苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。
「そなたの言う事は、分かった。早急に善処しよう。皆も、今見聞きしたことは、漏らさぬよう」
 陛下が、そう宣言したと同時に宮廷音楽が流れだす。
 もう皆、何事もなかったかのように夜会を楽しんでいた。

 エルミーヌの言葉が何を意味するのか、殿下たちにも分かったのであろう。
 エスコート役のアルフォードとソフィアを残して、それぞれの自分の席に着いた。
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