男の娘戦士推進団体の正体

文字数 1,544文字

 そして、俺とペン子さんは秋葉原駅の電気街口へ降りたった。高層ビルがある側だ。平日だってのに、人が多い。
 前に何度か、弥生に連れられて来たことがあるので(そのときはメイド喫茶だのコスプレ衣装の専門店だのに付き合わされた)、少しはどこになにがあるかはわかる。しかし、こんな一年中お祭り騒ぎしているような娯楽地帯に、団体本部なんかがあるのか?
「こ、こっちですっ」
 ともかく、俺としてはペン子さんについていくほかない。
 そのまま、案内されるまま、高層ビルの前を通り、道路を横断し、飲食施設とオフィスが一体となった巨大ビルの前を歩いていく。
 そのあとは中央通りに出て、末広町方面に向かって進んでいき――、新しくできたばかりっぽいオフィスビルの前にやってきた。
 というか、ここって……?
 正面入り口の横に看板があって、そこには俺も知っている総合ホビー企業の名前が書かれてあった。アニメショップ、コスプレショップ、ラノベ専門書店、メイド喫茶、フィギュア、ゲーム、PCパーツ、ロボット専門ショップなどを運営している、秋葉原有数の規模の企業だ。
「え、な、なんでこんなところに……? 本部に行くんじゃ……?」
「実は、男の戦士推進団体は、この会社の中にあるんです。知る人ぞ知る、秘密部門なんですっ!」
 な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!? 
「木を隠すには森ですから。秋葉原なら人が出入りしていても怪しくありませんし、こうやって堂々と企業活動をしていれば、かえって怪しまれませんっ!」
 非合法団体っていうから、もっと地下組織というか、アジトみたいなところを想像していたのだが……ま、まさかそんな超有名企業の中にあったとは。
「とにかく、入りましょう」
 ペン子さんに続いて、俺もオフィスビル内に入る。
 正面には、受付のようなスペースがあり、メイド服を着たお姉さんがいた。
「いらっしゃいませ……」
 しかし、なんというか、企業の顔とは思えないほどに不愛想というか、不健康そうなだった。異様に肌が白くて、目の下には隈っぽいのできてるし。美人なほうではあるのだが。
「……ペン子ちゃん。その子なの?」
 そのお姉さんは、俺のことをじっと見つめてくる。
「あ、はいっ、そうですっ。千年に一度の逸材ですっ!」
「……動画とのギャップ、すごい……」
 悪かったなっ! まぁ、どうせ俺はこの状態じゃ冴えない男だが。
「……とにかく、上がって……理事長、待ってるから」
 お姉さんに促されて、俺とペン子さんは受付の左後方にあるエレベーターに向かった。なお、右後方はエスカレーターだ。
「このビルの九階の一室に、男の娘戦士推進団体の本部があるんです」
 俺はペン子さんと一緒に、そのままエレベーターを上がっていく。そして、目的の階になってドアが開いた。
 そこは、普通のオフィスとしか見えないような作りだ。
「こちらです」
 ペン子さんは迷うことなく歩いていき、あるい一室の前で立ち止まった。ドアの脇に第九会議室と表示れている。そして、設置してある装置に、ポケットから取り出したIDカードを通す。続いて、電子キーで番号を素早く入力して、最後に、画面に人差し指を押しつけて指紋認証をする。
 すると、ピーッと音がして、ドアが開いた。
「さ、入ってください」
 促されて、俺はペン子さんに続いて部屋に入る。

 室内は、異空間だった。
 ……いや、正確にはプラネタリウムみたいな場所だった。足元も含めて全方位にディスプレイがあって、まるで宇宙にいるかのようだった。床や壁に惑星や流れ星が映っている。
 そして、正面の執務用と見られる立派な机のところに若い女性が座っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

牝野雄太……男の娘戦士に選ばれてしまう。帰宅部であることに誇りを持つ男子高生。

牝野雄太(変身後)……超かわいいJK風男の娘戦士。ネットに勝手に投稿された動画が大ヒット。濃ゆいファンとクラスメイトたちに応援され、ときおり恥ずかしい動画を撮られながら戦う。

双木弥生……見た目は美少女だが、性別は男(?)。雄太のクラスメイト。スキンシップが大好き。

男川乙女……男川流剣術の後継者であり、政府が宇宙からの侵略者に備えて開発したパワードスーツを着用し「女の娘戦士」として戦う。雄太の幼なじみ。

百合宮ペン子……男の娘戦士推進団体戦闘支援科のお姉さん。公私さまざまな面で雄太をサポート。学生時代は男の娘もののネット小説を投稿していた。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み