前世占い

文字数 1,160文字

 とある高名な占い師の先生に、私の前世を伺ったのです。

 先生曰く、遠い遠い昔、私の始まりは馬だったそうです。

 鎧を纏った武士(もののふ)を背に、戦場の野原を駆け回っていたそうなのです。

「ほう、すると戦国時代ですね。私はさぞかし勇猛な駿馬だったのでしょうねえ、ははは」

 笑いながら私がそう言うと

「いえ、そうでもありませぬ。いざ戦になると雌馬の尻を追い掛けてばかりで、終には主人を振り落とし、どこぞのアバズレ馬と駆け落ちしたようです」

 先生は眉一つ動かさずそのように仰ったので、この方に冗談は通じないなと思いました。

 次に私は鮪に生まれ変わりました。

 鮪という魚は泳ぎ続けていないと死んでしまうという大変難儀な生き物らしいのですが、当時から怠け者だった私は泳ぎ疲れてつい熟睡してしまい、暗い海の底へ沈んでいったとのことです。

 鮪の次は驢馬。

 おや、また馬の仲間ですか。

 私が馬面なのはその名残でしょうか。

「驢馬の次は……、薔薇です」

「薔薇? 先生、植物ではないですか」

「無論、植物とて命あるもの。貴方はフランスのベリーナイス宮殿に咲いていた薔薇だったのですよ」

 おそらくベルサイユ宮殿のことを指しているのだとは思いましたが、ちょっと高貴なイメージに嬉しくなりましたので、深く言及するのはやめました。

 さて、マリーアントワネットによって切り花にされ、薔薇としての生涯を終えた私は、ある選択を迫られました。

 ライオンもしくはラクダ、そのどちらかを選びなさい。

 そのように神様に申し付けられたのです。

「ほっほっほ、貴方がそこでラクダを選んだのは正解でしたな」

 何故ライオンが不正解なのかは気になりましたが、先生は矢継ぎ早に私のその後を述べていくので、その理由は訊けませんでした。

 私はラクダとしてクソ暑い砂漠をトコトコ歩き、その次はダチョウとしてこれまた灼熱のサバンナを駆けずり回り、いい加減暑いのは勘弁してくれと願うと、今度は海底にへばりつくウミウシとなってのんびり暮らしていたそうです。

 ふと、私は思いました。

「先生、もしかして次はシマウマでは?」

「おお、ご名答! どうやら貴方にも占いの才能があるようですな!」

 いや、何となくですが。

 そして、シマウマからマントヒヒ、更にヒヤシンスを経由して、最後にスベスベマンジュウガニから生まれ変わったのが、人間である私だということでした。

「ところで先生、あなたは占い師なのですから、私の来世もお見通しのはず。私は一体何に生まれ変わるのでしょう?」

 すると先生は

「んー、んー……」

 と、いたく悩んでおられました。

 やれやれ、未来は誰にも分からないのですね。


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