10 追跡 神の目と足
文字数 1,583文字
パラスはドローンでの追跡を継続しながら、テーマパークのオンラインショップにリソースを割いてショッピングを楽しんでいた。
「あれれ?」
目的を逸脱してパーク内を撮影していた二基のドローンが同時にアラートを表示する。
「これは由紀子さんです。どう見ても由紀子さんですよ?」
二基のドローンがロックオンしたのはテーマパークのベンチで犬を撫でている由紀子の姿だった。すると同時に他のドローン映像も一斉にアラートを表示する。
「え? ええ?」
複数の船舶内部をグラビティーサーチしていたドローンは一隻の船舶へとロックオンを定め、一組の男女をぼやけたモノクロ画像で捉えてアラートを繰り返す。
「ああ、分かりました。由紀子さんには同じ遺伝子の家族が存在したのです。きっとそうです。よくあるトリックですね。アポロー? 聞こえてますかー?」
『聞こえてるよ! そんなトリックじゃない。船のそっちが本人だ!』
アポローの声が部屋に響くとパラスはすぐさま報告を発する。
「現時刻にて由紀子さんの身体データ一致を確認しました。グラビティセンサー制御をミュケナイから一〇〇パーセントパススルー。以降こちらで補足し、電力使用の九〇パーセントを増加させます」
パラスが発すると同時にシステムの冷却器が唸りを上げる。システム下部から白煙が沸き、部屋は白く包まれた。
「室温四℃を維持します。共存域内の生命活動に支障はありません」
モニター画面に映るサーチ映像は全て船内のモノクロCGへと切り替わり、十基のドローン全てが個別の角度から船内の一室を捉えた。
「素晴らしい技術です。これはプライベートの侵害を目的に作られたのでしょうか? いえ、これは見ているのではなく重力の位置情報を描画したものでしたか……由紀子さんともう一人は男性ですが、なぜ今肉体的な接触活動を行っているのでしょう? 予測99パーセントで男性は佐々木医師と判断しますが、現在の二人の活動目的は不明です」
ドローンのグラビティーセンサーは船室内の二人の姿を捉え、パラスは膨大なデータ制御と分析をしばらく継続した。
「ドローン内部の電力残量二〇パーセント、現在位置から帰還の飛行限界域です。センサーオールロック、情報収集を終了し全てのドローンをこちらの屋上へ移動します。由紀子さんと佐々木医師の身体状況は予測不可です。アポロー? 根拠なく提案しますがあなたの治験データ回収を忘れぬよう提案します」
パラスからの報告を受けながらアポローは自社のヘリに乗り込み洋上へ向かっていた。外洋へと進む一隻の豪華客船を補足してヘリポートへ着陸すると、すぐに警備員たちがアポローを取り囲んだ。
「男女疾走事件の容疑者二名が乗船している。詳しい事は所轄の捜査本部、ここに連絡して確認してくれっ」
アポローは一枚のFAX用紙を警備員へ渡し、すぐに船内の客室へと走った。
パラスからの情報を受け取りつつ辿り着いた一室のドアロックにスマートウォッチをかざすと、それはいとも簡単に解錠し、室内では佐々木と由紀子がベッドで寄り添って眠っていた。
「由紀子ちゃん! 無事かっ!」
ベッドで熟睡する由紀子の身体を揺さぶると、先に反応したのは佐々木だった。
「あ、あなたは! な、なんでここに!? 痛っ!」
アポローが右手で触れると、すぐに佐々木は再びベッドへと横たわった。
「あれ……え!? 先生っ! なんでここに!?」
佐々木と同じ反応を返す由紀子にアポローは安堵の溜息をついてから触れようとしたが、その手を止めて問いかけた。
「由紀子ちゃんは、この人と一緒に行きたいのかい? そうなら俺は止めない」
アポローがそう言うと由紀子は驚いた表情を見せ、そして、俯いて頭を大きく横に振った。