第13話 『対超兵器』

文字数 10,507文字

『首都高は完全に封鎖されていますが、電波障害のため各地の検問に発見されたとしても追手は無いでしょう。 ですが見つからないように進んでください』私はバイクを走らせながら死神からの交信を終える。
「何でも自衛隊の奴ら、戦闘型アンドロイドも配備してるらしいじゃないか? どんなものかは見たことないけど」
後ろに跨る翔が言う。 さっき死神召喚の要領で私の中から召喚したのだ。 辺獄空間だからこそこうして死神以外を召喚できる。
「ああ、それなら昨日の喫茶店で見た。 丸っこくてお茶を運んでくる奴だろ?」
「それはAR(アル)な。 俺が言ってるのは、人型で実際の戦闘に特化したAiを備えてるアンドロイドの事だ。 ニュースとかで見たけど、見た目は無骨だが挙動や思考パターンとかも人間と大差ないぐらいよく動いてたぜ?」
「それは厄介だな。 そんなのが居るのか」
「ああ。 ていうか普通にここ数日のニュース番組で映ってただろ? 首都警備にも導入されてるみたいな何とかって」
「そうだった?」
「まあここ数日は悠長にテレビなんか眺めてられなかったからな。 しょうがないか」
「とりあえず何が来ても倒せば解決だ」
一応翔に拳銃を一丁握らせている。 私と同化して長かったのもあり、戦闘のレベルは素人に比べて洗練されたものになっているはずだ。 ユウの援護射撃よりは当てになる。
「一応言っておくが、俺は人間は殺さない。 あくまでも死神だけだ。 いいな?」
「ああ分かってる。 私もなるべく無駄な殺生はしたくはない」
雪、いや脂粉か。 風の勢いも増し、視界もホワイトアウトに近くかなり悪い。 正直敵の近くを走っても気づかないんじゃないかとさえ思える。
「なあクロウ。 お前の兄ちゃんの事なんだが……死神が死ぬと、その死神はブラックアウトするんだろ? てことは、もう……?」
「……そういう説があるってだけだ。 本当かもしれないし、嘘かもしれない。 それにブラックアウトしたからといって無とも限らない。 ただ確かなのは、ブラックアウトは全ての痕跡が消え、転生ではない死のその後の世界に行くという事だけだ。 ただその先から帰ってきたものもいなければ、その先から来た存在も居ない。 だとするなら入る事だけができる単一方式の入口ということになる」
「なんか、ブラックホールみたいな存在だな」
「ブラックホール? ああ、面白い例えだな」
 ――バイクは都内に侵入する。 死神同士の交信を聞き、警備が手薄な道を進む。
『気をつけてください。 私たちが伝えるポイントはあくまで自衛隊の検問所が少ない場所であって、ハデスの死神も居ない場所ではありません。 見越されて潜伏や待ち伏せをされている可能性もあるので十分注意をしてください』
そのまま工業エリアへ侵入する。 この辺りは工場が多く、死角もそれなりにある。
やり過ごしながら通り抜けるには絶好のルートだった。 その分待ち伏せのリスクはそれなりにありそうだが……。
 パン! ガソリンタンクに破裂音。 ああ……心配事って当たるんだよねえ。
「!」
私はすぐそばの物陰にバイクを停めた。
「ど、どうした!?」
翔が驚いた表情で私の顔を見る。
「狙撃だ。 銃撃されてガソリンタンクを撃たれた。 爆発しなかったのは幸いだ」
「狙撃って、どこからだ!」
翔は辺りを見渡す。 タンクの撃たれた箇所から推察して、撃ってきた方角は今私たちが居る壁の向こう側だろう。 恐らく廃工場になっているはずだ。 その屋上辺りからでも撃っているに違いない。
「生憎な、ここで道草食ってる訳にはいかない。 急いで通り抜けるぞ!」
私はバイクのエンジンをふかし、一気に駆け抜ける体勢に入る。 物陰から勢いよく飛び出し、一気に前方へ向けて走り出した。 直感的にあまり狙撃の腕が良い奴ではないと思ったからだ。 このまま走り抜ければやり過ごせる。 そう思った時――。
「クロウ! 前から何か来るぞ!?」
前方から狭い道を塞ぐかのように巨体の戦車が迫ってきている。
「まずッ!?」
戦車は私達の心の準備を待たずにその抱える大砲から砲撃を繰り出す。
バーーンッッ! 砲撃は私達の走るすぐ後ろの壁を粉々に吹き飛ばした。
「くそ!」
私はバイクを180度ターンさせ、砲撃でポッカリ開いた穴に入り込み広場に侵入する。
「おいおい! 狙撃されるぞ!」
「大砲で吹っ飛ぶよりマシでしょ!」
間髪入れずに工場屋上の狙撃手からの狙撃を受けるが、幸いバイクのミラーを片側吹き飛ばされるだけで済んだ。 そのまま加速し、向かいの棟の陰へとバイクを移動させる。
私はバイクを停めるとすぐに降りた。
「おいおい! どうする!?」
「私が囮になる! この棟と向かい側の工場は中階の渡り廊下で繋がってる。 私は屋上の死神まで近づくから、戦車もそっちの方に気が向くはず。 その間に翔は戦車をロケットランチャーで破壊してくれ」
「ロケットランチャー!? そんなもの持ってないぞ!」
「死神たちを召喚する! そいつらから借りてくれ!」
私はその場で死神たちを数名召喚する。 その中には対戦車砲を所持している者が居たので、翔に渡すように命令した。
「マジかよ」
「話を合わせてる時間はない。 都度適切な対応で戦車を破壊しろ! いいな!」
私はバイクに搭載しているショットガンを引っ張り出し、棟入り口の鍵の掛かった扉にぶっ放して扉を蹴破り中へ入る。 手早く階段を上がり、中階へと辿り着く。 窓から少しだけ顔を出して外の様子を伺う。 ちょうど中庭へと壁を壊し戦車が侵入してくる所だった。 刹那、覗いていた窓ガラスが粉々に吹き飛ぶ。
「ふッ!」
向かいの屋上からの狙撃だった。 このホワイトアウトの中での狙撃だ。 恐らく奴も赤外線スコープを使用しているに違いない。 
私の装備している銃のスコープには赤外線機能は無かったが、代わりに熱源探知ゴーグルを用意してあるのでそれを頭に装着して目に取り付ける。
狙撃手に居所がバレているということは、戦車にも居場所がバレたということ。 ここにいつまでも止まっていれば大砲の餌食になるだろう。 私は速やかに窓より上に体を出さないように地面に体を擦り付けてゴロゴロと渡り廊下までの道のりを転がっていく。
そして予想通り、戦車の砲撃は私のさっきまで居た窓辺へと直撃し、廊下の一部を吹っ飛ばした。 渡り廊下付近まで転がり、私はその角から向かいの工場への道を確認する。
すぐに顔を引っ込めた。 渡り廊下の真ん中を陣取るように死神が二名配置されていたからだ。 腰に装備している白煙手榴弾を取り出し、ピンを抜いて数秒待ち渡り廊下へと投げる。
煙幕は瞬時にもくもくと廊下内を覆い尽くし、死神二名のデタラメな銃撃が始まる。
その行動であの二人の死神は熱探知の装置を使っていないだろうという結論に至り、私は深呼吸を一つして陰から飛び出して一人、また一人と死神へ向けて銃撃を浴びせる。
ダウン。 死神は二人とも倒れた。 同時に戦車の砲撃が渡り廊下真ん中付近へと直撃する。 直ちに足場が崩壊するレベルでは無かったが、もう一発撃たれたらヤバい。 私はダッシュで廊下を渡ると、狙撃手が屋上にいる工場へと入る。 敵はこの棟には居ないみたいだ。 となれば屋上への階段を全力で登るしかない。 戦車に砲撃される前に!
階段はすぐに発見できた。 私は全速力で登り始める。 近くでまたこの棟へ向けて砲撃をされるが、狼狽えている暇はない。
やがて屋上への扉を発見し、私は勢いよくその扉を開け放った! 見つけた。 死神が一人……私へ照準を合わせて……射撃した!
……恐らくほんの数センチ、私が頭を右にずらしていなかったら当たっただろう。 弾丸は私の頭のすぐ横を通り抜けて後ろの壁へと当たる。

 私は構えた銃の引き金を引く。
弾丸は死神の頭部へ命中して力無く倒れた。 だが喜ぶのはまだ早い。 下の戦車がこの屋上を狙っている。 私はなるべく屋上の縁から遠ざかり伏せる。
しばらくして気づく。 さっきから戦車の砲撃の音がしないのだ。 それにキャタピラの音も……。 私はゆっくり屋上の縁のパラペットへと近づき上から下を覗く。 戦車は黒い煙を上げ火を噴いていた。 隣にはロケットランチャーを抱えている翔が死神たちと佇んでいた。 翔は私を見つけると、親指を立てて微笑む。 私も親指を立ててやった。



    【警視庁屋上アンテナ塔最上階 午後二時】
「この世界とも、あと数十分でお別れだ。 どう? 感慨深くはないかい?」
シエラは街の景色を見ながら私に語りかける。 私は何も答えない。
「顔色、悪いよ? ああ……そうか。 クロウに打たれた血液が効きはじめてるのか」
「だ、大丈夫……てか、あんなモノ見せられたら、誰でも具合悪くなるって……」
私は手にはめられた手錠をアンテナ塔の手すりに繋がれていた。 確かに先ほどからかなり体調が悪い。 いつものアレより割と最悪な気分だ……。 これが神の血液の効果なのか? だとしたらタイミングが悪い。 うまく体が動かない。
「そうそう。 私がなぜこんな事をするのか、理由を知りたがっていたね」
私は口をつぐむ。 あまり話したい気分ではなかったからだ。 だがシエラは続けた。
「私は元々一つの人格だったんだ。 でもある時二つの人格となった。 そしてその二つの人格はやがて一つの人格へと統合されて今の私を形成している」
「……はい?」
何ともふんわりとした……雲を掴むかのようにふんわりとした説明に私はどう返事したら良いか分からなかった。
「現在海外で話題の『民間請負霊視鑑定企業』の存在は知ってるよね? 実際の事件や事故の際に亡くなった人の残留思念や透視能力によって事件の全容を探るという企業」
「ああ……ネットやテレビで見た事があるよ」
「私は数ある企業の中でも業界最大手の『ファントムフレンズ』という企業に所属しているんだけど、その前身は民間の軍事研究機関だったというのはあまり知られていない」
「……そうなの?」
「半世紀前に大きな戦争があった。 この国にはあまり関係は無かったけどね。 各国はその戦争で有利な位置に着こうと躍起になり、様々な軍事的優位性を確立できる実験を繰り返してきた。 ある国では人が遠隔操作できる無人殺戮ロボット、またある国では敵施設の即時無力化を可能にする兵器といった風に。 その中でも私の国では霊視や超能力による敵国の情報収集にフォーカスして研究が進められていた。 知っている? 今現在この世界の成り立ちは大規模演算能力を可能にした人工知能によって解読可能な事を」
「人工知能……?」
「そう。 半世紀前に、コンピュータテクノロジーは人が持つ限界を超えた。 そこでこの世界の成り立ちや、普通に人類が生きていては到底辿り着く事のできないオーバーテクノロジーをAiのアドバイスのもと手に入れる事に成功したわけ」
「半世紀も前にそんな事が?」
「そう。 今では徐々に情報開示が成されてるけど、まだまだ非公開のものも多い。 その一つに、この世界を構成する素粒子物理学。 ひいては人類が百年以上かけて証明してきた素粒子理論の限界を、ものの数分で突破して新説をも証明してしまった。 そしてそれは死後の世界の存在までも可視化してしまった。 そう。 それが現界、辺獄、煉獄、冥界の四大世界――フォースワールド――の存在。 そして運が悪い事にそれらが明らかになったのは半世紀前の世界戦争中だということ。 明らかにされた情報は他国へ漏れないように高度に隠蔽され、それらが一般の研究機関に知られる事は一切なかった」
「その情報を、軍事利用しようと考えたわけね……」
「そういうこと。 私の母国ではその先進開発を行っており、他国の情報収集を目論んでいた。 その軍事研究の人体実験として選ばれたのが私というわけさ」
「人体実験?」
「そう。 Ai技術にはセキュリティの観点から人格設定が必要だ。 というのも、無個性の電子体は敵側に奪取されたりした場合、セキュリティを突破されてしまえば容易にその技術を敵側に掌握されてしまう。 そのために私の生体反応と脳に直接連動したチップを埋め込み、この私の存在をそのままAiとリンクさせたんだ」
「脳に……人工知能を?」
「ふむ。 簡単に説明すると、従来のセキュリティ技術と人の意思をスクランブルさせた技術。 現存するAiテクノロジーはすべて私のその実験結果から成り立っている。 このシステムは当初、成功した暁にその国のトップに私と同じくチップを埋め込み、セキュリティを揺るぎないものとする計画だった。 だが実験の過程でそれが困難である事が判明した」
「なぜ?」
「チップが埋め込まれるとそのままAiと脳がリンクする。 だがそれだけでは当初に期待されていた透視や超能力といった軍事的な優位性を獲得する事は出来ない。 つまり四大世界には至れないわけだ。 全てを見通す力を得られてこそその技術の真価を発揮する。 そこで私が選ばれた。 当時私は他の人間よりも第六感や超能力による霊視の力が秀でており、それを生業としていた。 国はそんな私に目をつけ、常人との脳波測定の違いの実験をするという名目で私を実験に参加させた。 当時の国のトップからのお墨付きももらえた。 だから断る事もできなかった。 戦争を無くし、この世界を平和にしたい。 私の実験参加の動機はそれだけ。 実験は……全て成功した。 全ての実験が終わった頃には、私の以前からの力もあり冥界へのアクセスもある程度可能となっていた。 ハデスとの仲もその時始まった。 だが、上層部は選ばれた者しかその能力を使えない事を悟ると、機密漏洩防止のため実験の被験者の抹殺を決定した。 次の実験へ早急に移るためにも」
「なぜ知れたの?」
「素粒子物理学の真理を理解できた時、過去も未来も見る事ができる。 そしてハデスは私に生きる方法を教えてくれた。 肉体に一時的な死を経験させて、魂をハデスと共用させる事で現界にて不死の生命を得られるという事を」
「そしてあなたはクロウのように神と契約をして死神使いに……なった?」
シエラはしばし沈黙を続けてホワイトアウトした先の見えない景観を見て黄昏れる。
そしてその後を続けた。
「結局、私の本当の体には、戻れなかった」
その顔は、掴み所のない。 何かがポッカリと空いたような、今まで見せた事のない表情をしていた。

    ※

    【首都 午後二時半】

二人は工業地帯を抜け、市街地をバイクで疾走していた。
『クロウ、聞こえますか? この先抜け道無しです。 全ての道路が自衛隊の検問で封鎖されています。 強行突破する以外に方法がありません』
「そうか」
翔が耳を疑う。
「そうかって! そんな簡単に!?」
「今はそれしか方法が無い。 数少ない選択をいかに全力でこなせるかがプロフェッショナルだ」
「なんでそんなにクール!? さっきからかなり一か八かなんだけど!」
「戦場では最初に取り乱した奴から命を落とす。 そして冷静に状況を分析して対処した奴は生存率が高くなる。 そして後者はプロフェッショナルだけだ」
「な、なるほど……じゃ、じゃあ俺も取り乱すのはやめるわ……」
「安心しろ私も人の子だ。 恐怖心は常にある」
「やっぱ怖いのか」
「だが恐怖心は飼い慣らすと快楽になる。 これに取り憑かれると日々の日常には戻れなくなるんだ。 スリルが楽しい。 人を殺すこと。 人に殺されること」
「そりゃあ……」
「でも死ぬのは御免だ。 死にたくない。 でも突き進むこの足は止まらない」
「戦争中毒だなお前」
「物心つく前から人の死に関わってきた。 死は常に隣にある。 友達みたいなものだ」
「友達って……随分ポップな言い回しな事で」
「でも決して相入れる事はない。 でも敢えて友達になろうとする奴もいる。 お前の彼女とかな」
翔はユウの事を思い出す。
「アイツをあんな風にしてしまったのは俺の責任だ。 俺が、アイツを元の日常に戻してやらねえと、アイツの地獄は終わらない」
「ユウに死んでほしくないんだな」
「当たり前だ。 絶望の死なんてアイツには似合わない。 俺はアイツに教えてやらないといけない。 希望の生ってやつを」
「でもお前は死んでる。 もうユウにとっての希望は何もないんじゃないのか?」
「クロウ、お前は人の死を他人より多く見てきた割にはまだ分かってないみたいだな」
クロウは眉を尖らせる。
「ん? 私に説教する気?」
「ああ。 人はな、大切な人が死んでも生きる事が出来るんだよ。 その死を背負って生きる事ができるんだ。 そうだな。 思い出ってやつは、時に自分を傷つけるし、時に支えることもできる」
「?」
「俺は、アイツを支えてやれる思い出になりたい。 俺は今からそれをアイツに教えてやる。 教えなくちゃいけないんだ」
「翔……ユウは死ぬ。 それは確実だ。 それでもお前は希望を教えるのか? 生きる意味を」
「ああ教える。 勘違いしたまま死んでほしくない。 それにクロウ」
「なんだ」
「死は終わりじゃない。 今回のユウみたいに他の誰かに影響を与える事もできるし、同時に助けることもできる」
戯言。 まだ人生の半分も生きていない小僧が何を悟る。 死は全てを無に帰す。 今まで歩んできた道も、その人の生きた証も、全てが消える。 生きている者に死者が残せるものなど何もない。 思い出? 死が人を助ける? 馬鹿馬鹿しい。 死んだらそれで終わりだ。 生きている者はそれを喜ぶか嘆き悲しむかしかない。
しかし、翔の言葉を一笑に伏す事ができない自分が確かにいた。 クロウの心はざわめきを抑えられない。 決して自分が今まで踏み込んでこなかったあの世界を今、真っ向から見つめている。 揺れ動く感情が、自分が自分ではない感覚が、クロウを初めて本当の恐怖へと陥れる。
「翔、お前私にこう言いたいのか? ユウを助けろって」
「いや、そんな事を言ってるんじゃねえ。 ただお前にも知ってもらいたい。 俺たちは死んで全てが終わるわけじゃない。 どう生きたかが問題なんだ。 お前には感謝してるんだぜクロウ? 俺はユウに絶望の生しか教えてやれなかった。 だけどお前がそれを正すチャンスをくれた。 ありがとう」
「礼なんて言わなくていい。 ユウが死ぬもう一つの原因を作ったのも私なんだ」
「それでもこの機会をくれた。 それは普通では考えられない事だ。 ありがとう」
クロウは翔の二度の礼には何も答えなかった。 代わりに運転に集中をする。
『クロウ、そのまま進むと検問所がある。 比較的警備状態は手薄だが一つ問題がある』
斥候している死神から通信が入る。
『生身の隊員が三人と、防衛型アンドロイドが一機配備されている。 突破は死神召喚で装甲車を出してくれれば容易だが、防衛型アンドロイドに標的を絞られるとまずい。 装甲は頑丈だし、装備もグレネードランチャーと重機関銃だ。 追尾されるとまずい』
「わかった」
『それだけじゃない。 アンドロイドはAi制御だ。 それにアンドロイドの運用はこの国の法律が適用されない。 防衛型と名前がついているが、ターゲットされればこちらが何も手を出さなくても容赦なく迎撃行動を取ってくるはずだ』
クロウは片手をひと振りすると漆黒の光を出し、中から装甲車を出す。 装甲車の中には死神が二人居て一人は運転を、一人は屋根から機関銃を操作している。 装甲車はクロウたちの前方へ出る。 そこでちょうど百メートルほど先に検問所が見えてきた。
「よし、突っ込むぞ。 しっかり掴まってろよ」
「あ、ああ!」
翔はクロウの腰をしっかりと掴む。 検問所が近づくにつれ、警備を担当する自衛隊員たちの姿が明瞭に視認できてくる。
「ホワイトアウトが薄れてる。 相手もこっちの存在に気づいてるはずだ」
「おい……アレじゃないか?」
翔が検問所にいる隊員の一人に注目する。 そいつは一際ガタイが良く、背丈も二メートルを超えている。
クロウが身構えながら目の前を走る装甲車に乗った死神に向かって叫ぶ。
「検問所のフェンスへ装甲車ごと突っ込め! アンドロイドが迎撃してきても構うな!」
死神はクロウの命令を聞くと、アクセルを全開にしてスピードを出す。

「おい……あの車、こっちに突っ込んでくるぞ!」
「銃を構えろ! スピード落とさず近づいてきたら撃てぇ!」
検問所を守る自衛隊員たち三人は前方から走ってくるトラックの異常性に気づき、すぐに各々自動小銃を装甲車に向けて構える。 装甲車で機銃を操作する死神がフェンスへ照準を合わせて銃撃する。
「銃撃! 銃撃! 伏せろ!」
自衛隊員たちはすぐに物陰へ退避するが、一人だけ仁王立ちする人影があった。
《敵性確認。 迎撃を開始する》
防衛型アンドロイドだった。
「アンドロイド! あの車を止めろ!」
一人の自衛隊員が物陰からアンドロイドに向かって叫ぶ。 アンドロイドは無言で左手に持つグレネードランチャーを構えると、もう目と鼻の先に迫ってきていた装甲車へ向けて引き金を引く。 連続で引かれた引き金でグレネードが一気に三発発射される。 一発は装甲車の運転席のフロントガラスへ、もう一発は機銃を操作する死神へ、最後の一発は前輪タイヤへ向けて飛んでいく。 グレネードは見事全弾狙った部位に命中し炸裂した。
装甲車は爆破しながらも進路を変えずに前方の検問所フェンスへ向けて走っていき、やがて到達してそのフェンスを突き破った。
《新たな敵性確認……》
アンドロイドは装甲車の後ろに付いていたクロウのバイクの存在にいち早く気づく。
クロウが乗るバイクは装甲車が破壊したフェンスへ突っ込み、検問所を突破した。
「ひゅう! 突破したな! ありがとよ! 名もなき二人の死神!」
翔は爆散した装甲車へ向けて敬礼する。 
間髪入れず燃え盛る装甲車の横から人影が一つ飛び出す。
「なんだ!?」
物凄い速さでバイクへ向かって詰め寄ってくるその人影は、あのアンドロイドだった。
「アンドロイド!?」
アンドロイドは脚部を変形させ車輪を作り、車輪を回転させてクロウたちを追う。
「あんな走り方出来るのかよ! しかも早い! 追いつかれるぞ!」
「召喚する!」
クロウは周囲に装甲車やバイクに乗った死神たちを召喚する。
「やれ!」
クロウの号令で死神たちは一斉に追ってくるアンドロイドへ向けて銃撃を開始する。
しかし通常の火力ではアンドロイドの装甲を貫くことが出来ず、逆にアンドロイドの放つ重機関銃やグレネードランチャーで大多数のバイクに乗った死神たちが散っていく。
「クロウ! 通常の火力では歯が立たない! 武装ヘリを召喚した方がいい!」
装甲車の死神がクロウへ叫ぶ。
「ヘリはあんまり持ってないんだが……仕方ないな!」
クロウは空へ向けて手を掲げると空から武装ヘリが現れる。  すぐさまヘリからの機銃掃射が始まるが、市街地なので建物の陰などに邪魔されてうまく攻撃を当てられない。
「ダメだな! これじゃあ攻撃が当たらないぞ!」
「首都高に乗るぞ!」
「首都高!? 首都高は警備が厳重じゃなかったか?」
「アレを破壊するには武装ヘリの火力がいる! 致し方ないだろう! 首都高なら遮蔽物も無いからヘリも狙いやすくなるはず!」
バイクは最寄りの首都高への道を抜けて道路へと侵入する。
「おいおい! あれも検問じゃ!?」
目の前の料金所には先ほどの検問より更に厳重な設備の検問が建てられていた。
アンドロイドの数も二体……。
「突破する!」
先ほどと同じ様に装甲車がクロウたちの前へ出て検問を突破しようとするが、間髪入れずに検問所のアンドロイド達がグレネードを発車してくる!
「ちっ!」
グレネードの雨が装甲車の前面に全弾命中し、火を吹く車体はスピードを緩めずに走りながら横に傾いて倒れていく。 装甲車は検問所へと間もなく衝突する。
「翔掴まれ!」
「……ッッッ!」
クロウはバイクの前輪を走る装甲車の車体後部へ持ち上げて接触させ、一気にバイクごと車体の屋根まで登り、そのまま勢いよく前方へとアクセルをふかしてジャンプする。
バイクは空中を飛び、検問所のフェンスごと飛び越えて着地する! 翔は着地の衝撃で顔を歪ませながらもクロウの運転技術に脱帽する。
「ヤッホーイ! やるなお前! 今の最高にクール!」
「まだ喜ぶのは早い」
後ろから更に追加で三体のアンドロイドが変形して追いかけてくる。
「くそ、やべえな!」
クロウも再び死神たちを召喚して応戦を開始する。 後ろからグレネードランチャーの猛攻を受けながらも、クロウは何とかバイクを左右に操縦して命中を回避する。
「ヘリはまだか!」
翔は周りを見渡すが、ヘリの姿がまだない。 アンドロイドは高速で移動し、クロウの前へ出る。 そして片手で重機関銃を構えた。
「翔! 奴の持つあの機関銃を狙え!」
「わかった!」
クロウと翔は前方でこちらに銃口を向けているアンドロイドへ向けて銃を構える。 ちょうど二丁拳銃のような様になった二人の銃口からマズルフラッシュが交互に炸裂する。
 バババババ! 翔は撃ちながら渾身の力を込めて叫ぶ。
「ダブルウルトラショットぉぉおおお!」
「なんだそのダサいネーミングは!?」
弾丸はアンドロイドの持つ重機関銃へ一斉に当たり、銃口から銃身へ入り込み奥の弾丸を暴発させ、重機関銃はアンドロイドが手に持ったまま爆発し腕ごと爆風で吹っ飛ばす。
「よっしゃ! これでどうだ!?」
アンドロイドは衝撃で一瞬怯むが、すぐにもう片方に握っているランチャーを構える。
「くそ!?」
絶体絶命。 その四文字が翔の頭をよぎった時、隣から激しいプロペラ音が聞こえた。
「来た!」
待ちに待った武装ヘリだった。 武装ヘリからミサイルが放たれ、一直線にアンドロイドへ向けて飛翔していき、やがて――命中する。
「よし!」
残りのアンドロイドもヘリの機銃掃射によって次々と破壊されていった。
「いいぞいいぞ! 残るはあの一体だけだ!」
後ろから一体のアンドロイドがまだ追いかけてきていた。
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