プロローグが繰り返されるなんて聞いてない
文字数 3,094文字
「フンフンフフンッ」
鼻を尖らせながら鼻歌を奏で、上機嫌 な様子の九尾 。良い事があった訳では無い。にも関わらず白尾神社 を立ち三日間。変わらずに今の調子で、暇ある事に作曲に明け暮れていた。感情を殺したような感じで無愛想な御言から作られる冷たい沈黙。話をかけても適当にあしらわれても尚、ヤヨは隣を歩き続け、隣で過ごしてきた。
「何故じゃろうなあー」
急に御言の前を足早に進むと、振り返りヤヨは言った。そして、その言葉の意図が御言本人である事を大きく赤い瞳に写された事で察する。
「どうした?」
「なんかの? わちゃは此処を歩いたのが初めての気がせぬのじゃよ。――」
「――うぬとの?」と間を起き付け加えた。
首を傾げ、まゆを顰 める様子から、思い悩んでいる事が見て取れる。御言はそんなヤヨを何も言わずに通り過ぎると、
「この先に美味い三色団子が売ってんだ。食うか??」
「ななななんと!? 三色とな!?――ジュルり……。わちゃは甘ったるい茶色いのしか食うた事がないでのっ! 食べたいぞ! うむ食べたい!」
通り過ぎた御言を駆け足で追いかけると、顔をのぞき込ませながら大層嬉しそうな表情を涎を拭きながらしていた。
白い髪、黒い髪を仲良く風に靡 かせて歩き続ける。そんな中、
「しかし、ヤヨ。お前はいつも御飯の事になるとはしゃぐよな」
横目で、さり気なく瞳に写すと両腕を腰に押し当て鼻息を“フンッ”と抜きながら、
「へへへん! 当たり前じゃ! わちゃは三度の飯より御飯が好きじゃ!」
「それ、結局同じことじゃねーかよ」
「あれ? あれれ? それもそう――って、わちゃはうぬの前で食い意地を見せた事なんかなかろうて!」
「ん? ぁあ、そうだっけか……そうだったな。いや、見た目からしてそんな感じだしさ」
「それは、どう言う意味じゃ!!」
「ハハッ」
空を見上げ、軽く声に出しただけの笑いをする御言には見えていないが、ヤヨの不貞腐れ具合と来たら、破裂寸前の赤い風船のようだ。
すれ違う人々は、そんな話を“一人”でしている御言を変な目で見る。いくら退魔師を騙 っていても、ヤヨが見えていない一般からしたら独り言を延々と繰り広げている頭のネジが何処かに飛んでいっているオカシイ人と思われても仕方がない。
だが、それはそれで口には出さないが都合がよかった。
宿場町である喜橋 と烏羽 を繋ぐこの街道は、その間、家の一つも無い訳じゃない。となれば、退魔師を自然と頼ってくる人も少なくはない。
退魔師とは言わば神聖な職であり、邪を払い福を呼び寄せる。――そう思われている。
その為に、家のお祓い占い等をせがまれる。
そして代金の代わりに一部屋と御飯を提供すると言うのが街道で良くある話なのだ。
御言も喜橋から烏羽に向かう間に何度かやったりもしていた。寝床に困らなくて済む程いい話はない。武士崩れが少なくない時代で一人野宿とは余りにも危険すぎる。
ならば、何故今はその後者を取っているのかと言えば単 にヤヨの為。
全てが用意されるのは一人分。ここに来て尚、蔑 ろに感じてしまう行為は避けたかったのだ。
「ホラ、あそこに見えんだろ??」
指を指した先には古びた建物があり、暖簾 が客を呼び寄せるように“バタバタ”と音を立て凪いでいた。
ヤヨは、それを見るや否や子供のようにはしゃぎ始める。
「さ、先に見てきていいかの?? かのっ??」
声を踊らせるヤヨに対して指を指し、
「良いけど、興奮すると尻尾を出す癖なんとかしろよな。分かりやすいんだよ」
「う、うるひゃい!! では行ってくるでの! うぬもはやくなあ!」
「わあったよ」
その言葉を最後に、ヤヨは走り去る。
――って、転ぶなよ。
やれやれと言わんばかりに涙目のヤヨに手を差し出す。
「大丈夫かよ? 膝、擦りむいてんじゃねぇか」
「だ、大丈夫じゃわい! それよりも早く行こうぞッ?」
強がっているのか。それよりも早く団子を食べたいのか。どちらかは分からないが、細く白い足は痛みで震えてはいた。
そんなヤヨを“グイ”ッと半ば強引に寄せると、
「いいから、ほれ、見せてみろ。本当にお前は世話がかかるな」
「うう……何も言い返せぬ……」
黙々と、土を払い首からぶら下げていた水筒で傷口を洗う。
「それは、貴重な水じゃろ? わちゃの為なんかに!」
確かに、旅をする中。しかも、夏真っ盛りなら余計に水分は貴重ではあるが、それよりも御言にとってはヤヨなのだ。
――理由はさておき。
しょぼくれて反省の顔色を隠せないでいるのか。俯き、垂 れた髪から覗かす歪んだ口元を瞳に写しながら、柔らかい白髪 を撫でる。
「気にするなよ。どーせ、休み処で補給できるしな。それより団子。――食うんだろ?」
“コクリ”と遠慮気味に小さく頷く。
「じゃあ、行こう」
「――うぬ。すまぬ」
「謝るなよ。次謝ったら団子抜きな」
「――――うぬ、すま」
「あ」
「い、今のは間一髪と言うやつじゃろ!!」
「間一髪……。お前にとって団子はそんな重要つーことな」
今度は転ばぬ様に、陣羽織の裾を掴み足元を見ながらユックリと進む。
「――あうっ!!」
休み処に着いて立ち止まった背中にぶつかった。当然と言えば当然。頭を摩るヤヨを鼻で笑い、
「おばちゃん、三色団子を二本頂戴ッ!」
「あいよーっ!」
元気の良い気さくな声が、 甘い匂いと、お茶の微かな香りと重なり合い心地好く鼓膜を叩く。
雰囲気とは実に大切なものだ。
「ほれ、おまちどーさん!――って、退魔師さんかいっ。という事は、喜橋に向かうのかい??彼処 は今物騒らしいからねー。何つったって原因不明の失踪やらなにやら……嫌だよー本当に……」
色んな人が立ち寄る場所には色々な情報が集まる。語るに落ちると言いたい所だが、こう言った情報が時に役立つ時がある。
――しかし、喜橋が? それは流石に予想していなかったぞ……。
「のー! はよー、はよー! はんぎゃ!!」
「ちょ、どうしたんだい?? 腕、痛むのかい??」
「あ、いいえ。気にしないで大丈夫。虫がね」
虫扱いされたのが、お気に召されなかったのか。ヤヨはひたすらに足を蹴り続けた。
「わちゃは虫じゃない!!――あうっ!」
「そ、そうかい? でも、喜橋にゆくなら本当に気をつけるんだよ? アンタさんが、来る数日前だって退魔師さんが来たけれど行ったっきりだしね。まあ、次の場所に移動したのなら分かるけど……なんて言うか、女の勘ってやつがねー、騒ぐのよ」
険しい顔を作り、憂 える様子。
「大丈夫だよ。俺は喜橋に預けた刀を取りに戻って、そのまま違う場所に行くつもりだしね」
「――刀? 退魔師さんが、刀――ねぇ。それもそれで初めて見た気がするよ。まあ、何はともあれ気を付けていくんだよ? お代は要らないからさ。なあに、いつもお世話になってんだ!
これぐらいのお礼はさせておくれよっ」
「なんかありがとうございます。では、俺達はこれで失礼しますねっ」
「団子ッ団子ッ三色団子ッ」
御言達は、既に歩き去り、見てはいないが女亭主は、刀に続きまた不思議そうに首を傾げ、
「――達?なんだい、珍しい退魔師さんも居るもんだねぇ……」
鼻を尖らせながら鼻歌を奏で、
「何故じゃろうなあー」
急に御言の前を足早に進むと、振り返りヤヨは言った。そして、その言葉の意図が御言本人である事を大きく赤い瞳に写された事で察する。
「どうした?」
「なんかの? わちゃは此処を歩いたのが初めての気がせぬのじゃよ。――」
「――うぬとの?」と間を起き付け加えた。
首を傾げ、まゆを
「この先に美味い三色団子が売ってんだ。食うか??」
「ななななんと!? 三色とな!?――ジュルり……。わちゃは甘ったるい茶色いのしか食うた事がないでのっ! 食べたいぞ! うむ食べたい!」
通り過ぎた御言を駆け足で追いかけると、顔をのぞき込ませながら大層嬉しそうな表情を涎を拭きながらしていた。
白い髪、黒い髪を仲良く風に
「しかし、ヤヨ。お前はいつも御飯の事になるとはしゃぐよな」
横目で、さり気なく瞳に写すと両腕を腰に押し当て鼻息を“フンッ”と抜きながら、
「へへへん! 当たり前じゃ! わちゃは三度の飯より御飯が好きじゃ!」
「それ、結局同じことじゃねーかよ」
「あれ? あれれ? それもそう――って、わちゃはうぬの前で食い意地を見せた事なんかなかろうて!」
「ん? ぁあ、そうだっけか……そうだったな。いや、見た目からしてそんな感じだしさ」
「それは、どう言う意味じゃ!!」
「ハハッ」
空を見上げ、軽く声に出しただけの笑いをする御言には見えていないが、ヤヨの不貞腐れ具合と来たら、破裂寸前の赤い風船のようだ。
すれ違う人々は、そんな話を“一人”でしている御言を変な目で見る。いくら退魔師を
だが、それはそれで口には出さないが都合がよかった。
宿場町である
退魔師とは言わば神聖な職であり、邪を払い福を呼び寄せる。――そう思われている。
その為に、家のお祓い占い等をせがまれる。
そして代金の代わりに一部屋と御飯を提供すると言うのが街道で良くある話なのだ。
御言も喜橋から烏羽に向かう間に何度かやったりもしていた。寝床に困らなくて済む程いい話はない。武士崩れが少なくない時代で一人野宿とは余りにも危険すぎる。
ならば、何故今はその後者を取っているのかと言えば
全てが用意されるのは一人分。ここに来て尚、
「ホラ、あそこに見えんだろ??」
指を指した先には古びた建物があり、
ヤヨは、それを見るや否や子供のようにはしゃぎ始める。
「さ、先に見てきていいかの?? かのっ??」
声を踊らせるヤヨに対して指を指し、
「良いけど、興奮すると尻尾を出す癖なんとかしろよな。分かりやすいんだよ」
「う、うるひゃい!! では行ってくるでの! うぬもはやくなあ!」
「わあったよ」
その言葉を最後に、ヤヨは走り去る。
――って、転ぶなよ。
やれやれと言わんばかりに涙目のヤヨに手を差し出す。
「大丈夫かよ? 膝、擦りむいてんじゃねぇか」
「だ、大丈夫じゃわい! それよりも早く行こうぞッ?」
強がっているのか。それよりも早く団子を食べたいのか。どちらかは分からないが、細く白い足は痛みで震えてはいた。
そんなヤヨを“グイ”ッと半ば強引に寄せると、
「いいから、ほれ、見せてみろ。本当にお前は世話がかかるな」
「うう……何も言い返せぬ……」
黙々と、土を払い首からぶら下げていた水筒で傷口を洗う。
「それは、貴重な水じゃろ? わちゃの為なんかに!」
確かに、旅をする中。しかも、夏真っ盛りなら余計に水分は貴重ではあるが、それよりも御言にとってはヤヨなのだ。
――理由はさておき。
しょぼくれて反省の顔色を隠せないでいるのか。俯き、
「気にするなよ。どーせ、休み処で補給できるしな。それより団子。――食うんだろ?」
“コクリ”と遠慮気味に小さく頷く。
「じゃあ、行こう」
「――うぬ。すまぬ」
「謝るなよ。次謝ったら団子抜きな」
「――――うぬ、すま」
「あ」
「い、今のは間一髪と言うやつじゃろ!!」
「間一髪……。お前にとって団子はそんな重要つーことな」
今度は転ばぬ様に、陣羽織の裾を掴み足元を見ながらユックリと進む。
「――あうっ!!」
休み処に着いて立ち止まった背中にぶつかった。当然と言えば当然。頭を摩るヤヨを鼻で笑い、
「おばちゃん、三色団子を二本頂戴ッ!」
「あいよーっ!」
元気の良い気さくな声が、 甘い匂いと、お茶の微かな香りと重なり合い心地好く鼓膜を叩く。
雰囲気とは実に大切なものだ。
「ほれ、おまちどーさん!――って、退魔師さんかいっ。という事は、喜橋に向かうのかい??
色んな人が立ち寄る場所には色々な情報が集まる。語るに落ちると言いたい所だが、こう言った情報が時に役立つ時がある。
――しかし、喜橋が? それは流石に予想していなかったぞ……。
「のー! はよー、はよー! はんぎゃ!!」
「ちょ、どうしたんだい?? 腕、痛むのかい??」
「あ、いいえ。気にしないで大丈夫。虫がね」
虫扱いされたのが、お気に召されなかったのか。ヤヨはひたすらに足を蹴り続けた。
「わちゃは虫じゃない!!――あうっ!」
「そ、そうかい? でも、喜橋にゆくなら本当に気をつけるんだよ? アンタさんが、来る数日前だって退魔師さんが来たけれど行ったっきりだしね。まあ、次の場所に移動したのなら分かるけど……なんて言うか、女の勘ってやつがねー、騒ぐのよ」
険しい顔を作り、
「大丈夫だよ。俺は喜橋に預けた刀を取りに戻って、そのまま違う場所に行くつもりだしね」
「――刀? 退魔師さんが、刀――ねぇ。それもそれで初めて見た気がするよ。まあ、何はともあれ気を付けていくんだよ? お代は要らないからさ。なあに、いつもお世話になってんだ!
これぐらいのお礼はさせておくれよっ」
「なんかありがとうございます。では、俺達はこれで失礼しますねっ」
「団子ッ団子ッ三色団子ッ」
御言達は、既に歩き去り、見てはいないが女亭主は、刀に続きまた不思議そうに首を傾げ、
「――達?なんだい、珍しい退魔師さんも居るもんだねぇ……」