第2話 第一章 『墜落者』① 曇り空
文字数 1,138文字
十二月二十一日(一日目)
晃子は急に掻き曇って来た空を見上げた。
雲の中に隠れた太陽の光が、その稜線を銀色に縁取っていた。
やがてわずかに残っていた空の青みも白っぽい鈍色に変わり、辺りがより一層の静けさに包まれたような気がした。
年末年始を迎える直前とはいえ、メインゲレンデから離れたその辺りは他にスキーヤーの姿も見えず閑散としていた。ひとり違った時間の中に取り残されているような錯覚を覚え、晃子は再び空を見上げた。
その時だった。その鈍い光の稜線の縁に何か点のようなものが現れたと思うと、瞬く間に大きな黒い影のようになって落ちて来た。
その一瞬、ゲレンデを突風が吹き抜け、周りの木立ちに積もった雪を払った。
その近くに落ちたようだが、何の物音も聞こえない。
(・・ハング・・グライダー・・?)
晃子はその方向にスキーの板を向けた。
スロープの脇の林に、そこだけ目立って木立ちの雪が払われている場所がある。
見ると、その木立を縫って森の奥へと続く細い道があるようだ。
そのまま入って・・積もった雪の上をクロスカントリーよろくし進んで行くと、前方に何かの落下の形跡があった。辺りの木立の枝が折れ、垂れ下がっている。が、落下物の残骸のようなものは何もない。
が、そこから先の積雪の上には、何かを引き摺っているような跡と・・。
(・・え、裸足!?)
・・面長のきれいな足跡が、さらに森の奥へと続いている。
晃子は思わず、上を見上げた。
(・・無事なの・・?)
・・あんなに・・高い所から落ちて来たのに。
驚くよりも、半分キツネに摘まれたような気分。が、沸き立つ好奇心に駆られ、その跡をたどる。
グライダーだろうか・・引きずったまま、墜落者はもうかなりの距離を歩いている。
途中から・・血痕?・・雪の上に、点々と滴っている。
晃子は振り返って、今まで通り抜けて来た方向に目をやった。
(・・誰かに知らせた方がいい・・?)
が、小さく溜め息をつくと、決心したように再び前方に目をやった。
(・・ゲレンデに出るつもりが、間違って奥に入ってしまっているのかしら・・)
雪の上に点々と続く血痕の赤い木の実・・それに釣られて行くと、その先に待ち構えているのは果たして・・。
(・・お菓子の家って、どうなるんだっけ・・)
その時、突然、森の木立ちが途切れ、目の前に思わぬ広い空間が現れた。
空一面を覆う白灰色の雲の下、その深い森の唯中に一件のコテッジが雪を被って眠るように佇んでいた。
(・・ゲレンデの森の奥に、こんな場所があったなんて・・)
唖然とした思いで、白と灰色にかすむ静かな景色を眺める。
が、すぐにその視線は、コテッジの手前に横たわる黒いグライダーに合っていた。
晃子は急に掻き曇って来た空を見上げた。
雲の中に隠れた太陽の光が、その稜線を銀色に縁取っていた。
やがてわずかに残っていた空の青みも白っぽい鈍色に変わり、辺りがより一層の静けさに包まれたような気がした。
年末年始を迎える直前とはいえ、メインゲレンデから離れたその辺りは他にスキーヤーの姿も見えず閑散としていた。ひとり違った時間の中に取り残されているような錯覚を覚え、晃子は再び空を見上げた。
その時だった。その鈍い光の稜線の縁に何か点のようなものが現れたと思うと、瞬く間に大きな黒い影のようになって落ちて来た。
その一瞬、ゲレンデを突風が吹き抜け、周りの木立ちに積もった雪を払った。
その近くに落ちたようだが、何の物音も聞こえない。
(・・ハング・・グライダー・・?)
晃子はその方向にスキーの板を向けた。
スロープの脇の林に、そこだけ目立って木立ちの雪が払われている場所がある。
見ると、その木立を縫って森の奥へと続く細い道があるようだ。
そのまま入って・・積もった雪の上をクロスカントリーよろくし進んで行くと、前方に何かの落下の形跡があった。辺りの木立の枝が折れ、垂れ下がっている。が、落下物の残骸のようなものは何もない。
が、そこから先の積雪の上には、何かを引き摺っているような跡と・・。
(・・え、裸足!?)
・・面長のきれいな足跡が、さらに森の奥へと続いている。
晃子は思わず、上を見上げた。
(・・無事なの・・?)
・・あんなに・・高い所から落ちて来たのに。
驚くよりも、半分キツネに摘まれたような気分。が、沸き立つ好奇心に駆られ、その跡をたどる。
グライダーだろうか・・引きずったまま、墜落者はもうかなりの距離を歩いている。
途中から・・血痕?・・雪の上に、点々と滴っている。
晃子は振り返って、今まで通り抜けて来た方向に目をやった。
(・・誰かに知らせた方がいい・・?)
が、小さく溜め息をつくと、決心したように再び前方に目をやった。
(・・ゲレンデに出るつもりが、間違って奥に入ってしまっているのかしら・・)
雪の上に点々と続く血痕の赤い木の実・・それに釣られて行くと、その先に待ち構えているのは果たして・・。
(・・お菓子の家って、どうなるんだっけ・・)
その時、突然、森の木立ちが途切れ、目の前に思わぬ広い空間が現れた。
空一面を覆う白灰色の雲の下、その深い森の唯中に一件のコテッジが雪を被って眠るように佇んでいた。
(・・ゲレンデの森の奥に、こんな場所があったなんて・・)
唖然とした思いで、白と灰色にかすむ静かな景色を眺める。
が、すぐにその視線は、コテッジの手前に横たわる黒いグライダーに合っていた。