48.

文字数 572文字

「明日、仕事終わったら電話するから」

 正樹は出張先からそのまま車で紗江を迎えに来たので帰りも送ってくれた。時計は深夜を回っていた。出張帰りで正樹が疲れているのは百も承知だが、それでも離れたくなかった。離れれば帰ってしまうのだ。

 きっと、あの人のところに…。

「今日の紗江はどうしたの?まぁ、俺としては嬉しいけど」

 正樹は愛おしそうに紗江を見つめながらその頬を優しく撫でた。

「いつ?」
「ん?」
「いつ、逢える?」

 約束が欲しかった。しがみつくことのできる、約束。
 正樹は宙を見つめて少し考え込んだ。

「そう、だな。7時、いや、8時には終わると思う。それでもいい?」

 無理を言っているのだろうということは分かっていた。それでも、彼の時間を少しでも自分のものにしたかったから、紗江はその言葉に頷いた。

「キス、して」

 紗江のお願いに正樹は熱く答えてくれた。少し、紗江の気持ちが和らいだ。
 助手席の扉を開けて街灯の下に降り立つ。助手席のウインドウが静かに下がった。

「紗江が見えなくなるまでここにいるから」

 その言葉に頷いて紗江は歩き出した。角を曲がって車の視界から消え去ると、しばらくして車のエンジンがかかる音が聞こえた。引き返してそっと覗くと正樹が運転する車が静かに動き出し点滅する信号の角を曲がり消えて行った。
 車が消えた先を、しばらく紗江は見つめていた。
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