エピローグ

文字数 417文字

 その海面は静かにうねり、西からの潮が流れてくる。
 浅い海から、不規則な光が投げかけられた。
 水の中に、何かとがった物。
 細長い十字。飛行機のプロペラだ。
 着水の時の衝撃か、途中から曲がっている。
 翼をたどり、胴体の向こうにもう一つ、いや、こちらにはない。
 あるはずの丸い部分は、焼けこげている。
 窓はすべて破れ、藻に覆われようとしている。
 魚の住み処なのだろうか。
 誰もいない機内。
 操縦桿に、布が結びつけられている。
 白いマフラーだ。波にたゆたい、流れるように揺れている。
 その白い布地に、黒く墨で記された文字が見える。
 こう書かれていた。

  一式陸攻改と桜花は
  其の任務を達成せり

 その機体は、静かに眠っていた。
 もう少し飛んでいたら。
 はるか上空から見ると、すぐ先に小さな島が見えた。
 さらに遠く、島は雲間に隠れていった。

                          終
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登場人物紹介

桜花(おうか)|ロケット推進の特殊攻撃機。大戦末期、日本海軍が使用した、実在の機体。

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