第57話 壁は乗り越えてもまた立ちはだかる
文字数 8,006文字
茨さんに励まされた勢いで持ち場を走り去ったあたしは、我に返り冷静さを取り戻していた。
ああ、お化けどうしよう。●子はあたししかいないってーのに!!いや、そんな事より合唱部の合唱どうしよう!!ああ、どうしようどうしようどうしよう!!
そう悩んでいるうちに胃が徐々にキリキリと痛みだし、吐き気と眩暈が湧き起こって来た。そんなもん湧き起こんならちょっとの勇気と度胸が湧いて出てくれればいいものを。
「はぁ……し、仕方ないわよね……もう本番近いしここで逃げたら女どころか人間の一部が終わりそうだし……でもなぁ~!逃げたい!!ああ、でも駄目だ自分!」
ここが人気のない場所で良かった。だからなのだろう。あたしはここぞとばかり頭を抱え心の中で湧きおこる声を口にし呟きまくった。追い詰められた人間ってこんな感じなんだろうか。
よし!!自分を……自分を信じろ!!女も度胸よ!蕾!!
もう最近これの繰り返しばかりだ。自分でも腹が立ってくるが仕方ない。過去の失敗が大きなトラウマとなって圧し掛かり、それを忘れた気で日々のほほんと過ごしていたって肝心な時に思い出してずぶずぶと引きずられてしまう弱い自分……きっと誰にだってある……はずだ。
だからといって!!そうだ、いつまでも引きずって引き籠って逃げていても仕方の無い事なのだ。いつかは向き合わなければならない問題…今がその時だと思えばきっと乗り越えられる!!
……でもなぁ~……う~ん……嫌だなぁ……
「…ってやめろあたし!!」
バチンッ!!
すぐにやって来るモヤモヤな気持ちを振り払うかのように、、両手で自分の頬を思い切り叩いた。思っていたよりも痛い。
ああ、なんなんだあたしは!!少女漫画の主人公気どりか!!
「……あいつだったらきっとそう言うんだろうなぁ……」
心の中でツッコミながら、ついそんな事を口にしていた。
もし伴が隣にいたら……きっとそんな感じで思い切りどついてくるはずだと。芸人のツッコミにも負けず鋭く。
そう言えば…AZUREもライブでここに来てるんだっけ。一瞬忘れてたけど。
伴もあたしの事を応援してくれていた。歌うと伝えた時にすごいと言って喜んでくれていた。あたしの一大決心の大舞台(ちょっと大げさだけど)をあいつも何処からかこっそり見届けてくれるのだろうか。あのあたしの知るダッサイ恰好でもって。
「……仕方ない。腹括るしかないか。」
首を振り立ち上がると開き直ったような台詞が口から出た。でも、その声は何か吹っ切れた様な……迷いの無い声だったと思う。
勘違いしないで欲しい。別に伴が見ているからとか、あの時の事を思い出したから元気が出たとかそう言う事ではない。うん。
「……当たって砕けるか……やりきって笑うか……」
恰好付けてそう呟くと、歩き出す。そろそろ時間だ。
「ゾノ!!遅い!!」
着替えて大講堂の舞台裏に辿り着くと、静乃が腕組して仁王立ちで待ち構えていた。相変わらずの貫禄である。
「ごめん!でも大丈夫だから!!」
「……ならいいけど。まぁ、逃げ出さなかっただけマシね。」
「頑張ります……」
「はい、頑張って下さい。」
ふっと微かに微笑むと、静乃は颯爽と背を向け他の部員達の方へと歩いて行ってしまった。本当いつでも堂々として落ち着いているから凄い。
静乃も静乃なりにかなり心配してくれていたのだろう。あたしが直前になって倒れたり逃げたりしないかとか色々。遠慮がちに少し離れたところから見守る苺とも目が合うと、彼女も控えめに笑ってガッツポーズなんかして見せてくれた。これもこれで心強い。
よし、後はあたし次第だ!これが高校生活最後の部活での大舞台だけど、あたしにとっては第一歩。やるしかない!!
「行くわよ。皆緊張せず楽しんで。」
『はい!』
舞台進行の司会者のアナウンスが終わると、合唱部は舞台へと向かう。勿論あたしも…落ち着いて一呼吸してゆっくりと。
パチパチパチ!!
舞台へ出ると響く拍手、眩しいくらいの照明の光。それだけで眩暈がしてきそうだ。怖くて客席の方はまだ見れないから、あたしは視線を少し上へと向けた。客席上は照明室になっているからそれを目印にするように。でも背筋はしっかり伸ばして出来るだけ自信ありげに。
静乃が客席へ一礼し、ピアノの伴奏が流れだすとしんと静まり返る……
初めは苺のソロから。彼女の透き通った美しい歌声が大講堂に響き、観客達もきっと魅了されているだろう。苺は普段は凄く控えめで大人しいけどやる時はやるのだ。あたしなんかよりよっぽど逞しいと思う。
足が微かに震えているのがわかる。苺ではなくあたしのだ。けど、苺の歌声や静乃の凛とした指揮姿を見聴きしていると自然と少しだけだけど緊張感が薄れていく。信頼できる友人達の姿を見て安心したのだろう。
ああ、なんだかこの感じ……懐かしいな……
そう思った時、震えは消えて代わりに忘れていたあの楽しさが蘇って来た……ような気がした。ソロパートが終わり、いよいよ合唱。口を開きみんなと揃えて声を出す。そうそう、こんな感じだった。自分の歌声が他の部員達の声と合わさって奏でる声のハーモニー……歌う時のこの感じ…。
あれ?あたし……歌てるじゃん。ちゃんと。
あれだけ直前まで心配してあたふたしていた自分は何処へやら。思った以上にちゃんと出来ているしかも楽しめている自分に自分が一番驚いた。まさか再びこんな気持ちが湧き起こるだなんて思ってもみなかったから。
もしかして……あたし、自分が思っているよりも本番に強いのか?それとも色々あって逞しくなったのだろうか??
合唱の発表が終わり、再び拍手が響く……
深く一礼し、部員一同姿勢正しく舞台袖へと戻って行く……
お、終わった……
はは……なんだ……やってみたらなんか……
「ゾノぉ~!!よくやった!!」
「蕾先輩凄く綺麗でしたぁ~!!」
舞台裏に引っ込んだ瞬間、みんなから一斉に掛けられる称賛の声。そして同期後輩構わず抱きつかれた。中には涙さえ浮かべている子もいる。
な、なんだこれ……なんか……嬉しくて凄く楽しい。
「が、頑張ったのはみんなも一緒だし……あたしはその……みなさんのおかげっていうか……」
照れて頭を掻いてたどたどしく言葉を発すると顔どころか全身が熱くなってきた。恥ずかしさと照れくささと達成感と様々な感情でもって。でも顔はにやにや緩んでいたと思う。その証拠にみんなもつられて笑い出したから。
「ちょっと皆。そんな騒いだら聞こえるわよ。静かに。」
「とか言ってぇ~!!静乃だって嬉しそうじゃん!!」
と、これはあたしではなく他の部員。涼し気な顔をし、いつもの様にしれっと言い放つ静乃の脇腹を肘で小突くというなんとも古めかしい仕草までしている。
「……まぁ、そうね。上手く出来た方じゃない?」
「……あ、ありがとうございます。」
「蕾ちゃん……うう…よ、良かったねぇ……」
「いや!泣くほどのことじゃ!!い、苺!!」
何故か上から目線の静乃と泣き出す苺に挟まれ、あたしは更に全身が熱くなった。
よかった……本当に……
達成感と感動に溢れたみんなの表情を見て、あたしは心の底からそう思った。
逃げないで立ち向かって良かった……と……。
壁を乗り越えるのって…意外と簡単な時もあるんだな……
「あ!そうだ!!これからAZUREのライブじゃない!?」
「やばっ!!すっかり忘れてたよ~!!」
舞台裏で感動に包まれた雰囲気の中、ニッケが急に思い出した様に両手を叩き声を上げた。それに釣られ他の部員達も重要な事を思い出したかの様に慌て始め、あたしから素早く離れていく……
あ、あれぇ~……??みんなぁ……ちょっとどちらへ??
「すっかり忘れるとこだったわ!!」
「急ご急ご!!いい場所取らないと!!」
さっきの感動と一体感は何処へ……。あたしはあっという間にポツンと一人置いてきぼり状態。目を輝かせ去って行く仲間達の背中を呆然と見守っていた。
「お~い……って聞いてねーなこれ。」
ま、まぁ……別に良いけどさぁ。あたしの過去のトラウマなんてみんな知らないし。自分の問題であって壁だっただけなんだけどさぁ……。
ああ……女子高生ってこんなもんよね。一大決心して頑張った仲間よりも今をトキメク人気アイドル様優先。ナマで拝めるチャンスだもんね。うん。寂しくないよ?うん。全然。
でも何かもやっとするから後で伴の頭でもどついておくか。これくらいは許されるはずだ。
いつの間にか静乃と苺までいなくなってるし。あんた達もAZUREのファンだったっけ??ははは。
「……はぁ、仕方ないか……。あたしもちょっとだけ観ておいてやるか。」
何だかんだで今まで全く興味なかったからまともに観た事なかったし。行かなかったら行かなかったで
心の中で色々と言い訳を付けながらも、あたしの歩調は軽やかで少し浮足立っている。凄く認めたくは無いけど……これってワクワクしているってことかな。本当にほんの少しだけだけどね。
でも……あたしのあの勇士を見せてやりたかった。伴に。そもそもあいつが焚きつけたわけだし。望んでもいない背中をグイグイと押しまくって。だったら責任持って最後まで見届けるのが男ってもんじゃないのか??
………なんて、無理な話だよね。だってあいつは腐ってもアイドルで今日なんか特にライブの準備とかでも忙しそうだし。
でも無理な事を押し切ってやって来るのがあいつ……
「……やめやめ!!期待すんなあたし!!」
ふと湧いて来た期待を振り払うように頭を振ると、あたしは再び前を向いて歩き出した。
もし……もしあたしが伴と付き合う様になったら……こういう気持ちに一々振り回されないといけないのかな。やっぱり。普段オーラなくてだらしなくて普通に見えるから暇そうに見えなくもないんだけど、あたしの知らない場所で色々と多忙なスケジュールをこなしているんだろう。わかってはいるけど。
なんか……なんかなぁ……こういうのって……
また良からぬ妄想を抱きモヤモヤした気持ちになって来た。せっかくいい気分だったのに。やっぱりあたしも逞しいとは言え年頃の乙女なんだな。山の天気の様に年頃の乙女の気持ちは移ろいやすいのだ。
「あ!こんな所にいた!!」
モヤモヤする気持ちを抱き俯きながら歩いていると、突然聞き覚えの有り過ぎる声がした。しかも目の前で。
反射的に見上げると……そいつはいた。しかもいつもと同じジャージ姿で。
「……あんた何やってんの?」
普通なら『え!?な、なんで!?』とか驚くだろうが、生憎あたしは普通ではない。目の前のそれを見るなり眉根を寄せこの呆れた第一声だ。当然それ……伴は不満そうに深いため息を吐いてちょっとだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「…お前なぁ!いきなりそれかよ!!」
「だってそんな恰好でウロウロしてるとか本当自覚無さ過ぎっていうか、無防備過ぎてもう呆れるしかないっていうか……」
「混乱したお前がいきなり殴り掛かったりしないように配慮した結果なんだけど。」
「さすがに校内で殴る蹴るの暴行には及ばないわよ。失礼な。」
「胸に手を当てて見ろ。」
「生憎それほど胸が無いのでさっぱり……って誰がまな板だ!!」
「言ってねーよ!!」
確かに言ってない。これはあたしが悪い。さっきのモヤモヤした気持ちもあり八つ当たりしていた。ついさっきまで考えていた相手が急に目の前に現れると本当驚くし。
「…あたし…一応あんたのステージを観に行こうとしてたんだけど……」
「え!?マジで!?」
「あとで煩く言われても面倒だし……」
「余計な一言!!」
「ごめん。なんかちょっと八つ当たり。」
「俺お前になんかしたか?まぁいいや、それより……」
「な、何?」
急に黙り込むと、何故か伴は辺りを見回しあたしの腕をグイッと引っ張った。引き寄せたのではない。引っ張ったのだ。物陰に引きずり込む様にグイグイと。
こいつ……意外と力あるんだよね。忍と同じで華奢な男子って感じなのに……。
「……」
「な、何よ?」
無言であたしを見つめる伴はいつもと違ってまともに見える。ジャージ姿でフードを被っていても。あたしにとってはこっちが普通の伴なんだけど。
「ちゃんと観てたからな。お前の勇士。」
「え?み、観てたの?」
「そう。だからこの恰好。時に止められたけど……まぁ、理由話したら意外とあっさり許してくれてさ。『俺が上手く誤魔化しといてやる』って……」
「はぁ……九条さんが?それは本当意外。」
九条さんは伴と違って警戒心が強いからてっきり無理矢理押し切ってやって来たのかと思った。過去の出来事からもその方が納得がいく。
「そ、それで?感想は……?」
「だから今からそれを言おうとしたのにお前が……あ~!!いいや!と、とにかく!!」
正面からがっしりとあたしの両肩を掴むと、伴は頭をぐしゃぐしゃ掻きながら何故か深いため息をついた。失礼な奴だ。それともあたしの歌声がそんなにまずかったんだろうか?上手い方だと多少自負してるんだけど。
急にまた真面目な表情になり黙り込む伴を見て、あたしはこいつの本業とやらを今更ながら自覚し感想なんか聞いたことを後悔し始めていた。同い年でちゃらんぽらん(酷い)だけどプロな訳だし。
沈黙の間の間を少し冷たい秋風が通り過ぎ、なんだか緊張感が一層高まってしまった。舞台に立つ前以上に。両手にもどっと汗が湧き出ているのがわかる。
「俺、合唱とかはよくわかんねーけど……その…まぁ…良かったんじゃないかと……」
「そ、そう……ですか……」
「うん。とにかく凄かった。」
「あ、ありがとう……。ま、まぁ…苺は確かに凄いよね。けどあの子普段は大人しくて凄く内気な子で…あ、凄く可愛いんだけど……けど歌になるとまた…」
「そうじゃなくって……お前が凄いって言ってんだよ!」
「……はぁ?あたし??」
「それ以外誰なんだよ……」
確かに伴は『凄い』と言ってくれた。けどそれは合唱全体に対してだと思っていたのに。あたしなんてみんなと一緒になってただ必死に歌っていただけだ。
観てくれただけでも意外だったのに……
「凄いってマジで……あんなにウジウジしてた奴があんな風に楽しそうに歌う事が出来るって。なんか……感動したっていうか……凄い嬉しかった。」
手に力を込め、伴は真っすぐあたしを見つめそう言った。冗談でもなく心からの本当の言葉だ。良く分からないけどあたしにはその時その言葉を素直に受け入れる事が出来たのだった。
けど……嬉しいって……大袈裟な……
大袈裟だけど、あたしを見て微笑む伴を見ているとそんな茶化すような一言が言えず……。悔しいけどあたしまで何だか嬉しいって気持ちになってしまった。合唱の後、仲間と感動し合ったあの気持ちとはまた別の嬉しいって気持ち……。
その後も『凄い』を連呼し笑う伴を前に、あたしはただただ黙っていた。何か言いたかったけど、何も言えない。嬉しいのにその気持ちすら。伴の言葉は素直に心の中に入って来るのに自分の今の気持ちは素直に口を突いて出て来ない。
「…本当は直ぐに駆けつけて伝えたかったんだけど……」
「それはやめて。」
「わかってるって。それに気持ちが高ぶったままお前に会ったら俺やばかったし……」
「……殴られるから?」
「あ!それもあったかぁ~……あははは!全く考えて無かったわ。それ。」
「学べよ!過去から!!」
紫乃さんみたいな爽やかスマイル浮かべて……。
まぁ、でも思い留まってくれて良かった。変装をしているとは言え伴はアイドルだ。それも超人気の。ひょっこり現れて勘の鋭い女子高達に騒がれたら面倒だった。本当に。
「俺、あのままお前に会ったら抱きついてたから。凄いよお前って言ってさ。」
「は、はぁ!?」
「だから今そうしてもいい?」
「そうって……」
あの場でそうされても困るがここでそうされても困る。勿論あたしが。なんなんだこいつの急な少女漫画風の台詞は。たまにこう来るから本当困る。
けど……ここまで決心出来たのは伴のおかげだ。悔しいけどそれは認めるしかない。あたしにこのお礼が出来るとしたら……
「…いいよ。あんたには恩がある。」
「売ったつもりねーよ。けど…お前の為になったら嬉しい。」
背中に回された腕に力を込められるとそれだけでいつも以上に胸が高鳴った。こうやって抱きしめられるのは何度かあったけど、その時以上に熱くて苦しい。
なんでこんなに心臓に悪いのに落ち着くんだろう……。
「俺、やっぱり蕾が好きだ。」
「…知ってる……」
「今日のお前見てたらもっと好きになった。」
「…あたしも……多分、好き……なのかもしれない……」
「…え?」
煩すぎる心臓に熱いくらいの体温にどうにかなってしまったのか。その言葉は無意識のうちに微かにけど確実にこの距離で聞こえるくらいには声に出ていたらしい。
一瞬、伴の腕に込める力が抜けた気がしたが、直ぐにまた力が込められてあたしの心臓は古典的だが爆発しそうなくらいドキドキしている。頭が少しだけクラクラして来たかもしれない。
と言うか……意識がちょっと遠のいて……
「伴~!!」
そんな時だった。誰かの声が遠くから聞こえて来たのは……
その瞬間、あたしははっと我に返った。そしてこの現状に気づく……
「あ、やべっ……行かないと……」
「い、行け!!さっさと行って!!」
「あ……」
伴を押しのけ離れると、あたしは声のする方向を指さした。伴の顔を見ないままに。
あ、あたしはなんてことを………!!
今更ながら言ってしまった言葉を思い出しサッと血の気が失せるのを感じた。別の意味でまた意識が遠のきそうだ。
「…ま、いっか。ちゃんと聞きたい言葉は聞けたし。」
「ち、ちがっ……!!」
「俺ちゃんと聞いたからな。一度言った言葉にはちゃんと責任を持てよ~?」
うっかり慌てて伴の顔を見ると、ムカつく程嬉しそうな笑みを浮かべていた。
ほ、本当ムカつく……この笑顔!!
「よ~し!!俺これから仕事もっと頑張れそうだ!!」
「し、仕事は結構だけど!!」
「じゃあ頑張って一仕事終えてくるぞ~!!あ、お前ちゃんと観てろよ?じゃあな!」
「ちょ、ちょっと!!人の話を……」
ああ……行ってしまった………
あたしの頭をポンポン叩くと、伴は嬉しそうにスキップでもしそうな浮かれっぷり去って行ってしまったのだった。素早く。
取り残されたあたしは………
ただただ呆然とし……やがて脱力しその場にがくっと膝をつくことしか出来なかった。
「……神様、時間を戻して………!!」
こうしてあたしは、高校生活最後の学園祭でとんでもなく分厚い壁を乗り越えたが、とんでもなく面倒くさい問題を抱えてしまったのであった。
さて……どうするか………