第16話 異国語
文字数 1,953文字
「素晴らしい。ありがたい」
ユアンが磨いた鎧を見て、神父がため息をつきながら絶賛する。油を調達して薄く塗ったのも効果があったのだろう。
「して、編成官。なぜ、二つくださるのだ」
「神父のご友人に贈ってもらいたいからです」
「そういえば、依然言っていたな」
「これだけの鍛冶技術があると思うでしょう」
「わたし達の街では、鉄も取れないし作れてもしないが…」
「ですから、鉄の産地と鍛冶が得意な街をご紹介ください」
「うむ。読めてきた。それを奇麗に磨いて売るのだな」
「その通りです」
皇帝ペンギン神父は、見習いを呼んで地図を持ってくるように命令した。少し経って、目の前に地図が広げられる。
「そなたの為に、複製したのだ」
「恐縮です」
「このコッペブリュンゲでは、鉄をつくっている。さらに進むとハッハミーレハには、鍛冶職人が盛んだと聞いている。近場ではこの二つの都市を訪れるといい」
「ありがとうございます」
「まて、まだ早い。後、一週間も待てば紹介状が用意できるであろう、その為、今しばらく留まり開墾に集中して欲しい」
「何から、何までありがとうございます」
丁重にお礼を伝えて、献金箱に小袋を納めて退出する。小さなゴキブリが悩みの種であったようで、毒ダンゴの売れ行きは順調の様だったので助かる。他にも何か商品を作っておかないと、手元の資金が枯渇してしまう。
「いつも、お買い上げありがとうございます」
「いや、言い値で買わせてくれるのだから、こっちこそだよ。また、寄ってくれ」
ノノとユアンが集めてくれた芋やキノコを売り歩く。相場を知らないので、訪問先に決めてもらっている。でんぷん粉等の粉を精算する許可があれば良いのだが、教会が主導している様なのでもう少し様子を見る必要がある。増産に成功してから考えよう。
「お、そろそろ店じまいだ。安くしておくよ」
「いや、すまない。思った通りに売れなくてね」
「編成官は優しすぎるのさ。また、寄ってくれよ」
何かお土産を買おうかと屋台をのぞくも、売上から買って帰れる物はなかった。元の世界でキャッシュフローが大切だと教わった事を思い出す。その日に稼いだお金と使ったお金、少し余る様なら良くなっている。何も買わずに帰れば、少しは成果を持ち帰れる。
「旦那、ちょっとだけお時間もらえないでしょうか」
「ボクの事かな」
「そうです。実は、いい娘がウチの宿にも入りまして…」
「すまない。ツレが怒るのでね。やめておくよ」
「そりゃないですよ。ノノは買ったのでしょ」
「いや、古城の掃除と炊事を手伝ってもらっているだけだよ」
「またまた…」
「すまないけど、日が暮れてしまうので失礼」
馬車に乗ると「ラッコ」が大きな鳴き声をあげる。飛び散るつばが、ワザと鳴いたのかと思わせる様に、話しかけてきた男性にかかった。「馬がご無礼と…」と添えたが、本心ではない。
「お城にお戻りですね」
「門番をお疲れ様です。その通りです」
門を抜けて城を目指す。今更になって気がつくが、多少の高低差がある様で古城への道は緩やかな登りになっている。道中の右側には教会の荘園が多くあり、それを示す十字架とあぜ道が通っている。修道者が身に着ける衣装を着た人が、返る支度をしている。式典で見た顔ではないので条件の悪い修道者なのだと思う。
『先生、もう街は出たかな』
『ごめんね。出てしまっているよ。戻るかい』
『話せるかの確認だったから、戻る必要はないよ』
『何だい』
『一通りの仕事が終わって、物見やぐらで周りを眺めているのだけど』
『ありがとう。ボクでは出来ない事を助かるよ』
『近くにね。キャンプしてる一行がいるかもしれない』
『キャンプかぁ。野宿って事だよね』
『あ、そうそう。それがね、あてがないのか火をおこしてる』
『家畜を放牧しているとかじゃなくて』
『違うと思うんだよね。家族で3人なんだ』
『ありがとう。位置を覚えておいて戻ったら一緒にいけるかい』
『いいよ。ノノに食べ物とお湯の準備をしてもらっておくね』
なるべく急いで帰ったが、すでにあたりは真っ暗になっている。えりかが不機嫌そうに「遅い」とほおを膨らませている。情けない事に荷物を持つとえりかに抱えられて大きく跳躍された。数メートルある樹木を軽々と超える、何も入っていない胃から何かがこみ上げるのを感じた時には次の跳躍が来た。5回目で地面に置かれる。着いたようだ。
「お、驚かないで欲しい。今、ハーメルン城内は編成中なので事情を聞きに来ました」
「ンな、かるし、トいず。アルしあね…」
えりかが腰の剣を奪ってぬいた。首を振るが、手をあげる様に剣先で伝える。我々はインキュベーターなので翻訳されて聞こえると思い込んでいた。初めて聞く理解不能な言葉に、空気が凍り付いた心地がする。
起こしてあった焚火がバチンと音を立てた。
ユアンが磨いた鎧を見て、神父がため息をつきながら絶賛する。油を調達して薄く塗ったのも効果があったのだろう。
「して、編成官。なぜ、二つくださるのだ」
「神父のご友人に贈ってもらいたいからです」
「そういえば、依然言っていたな」
「これだけの鍛冶技術があると思うでしょう」
「わたし達の街では、鉄も取れないし作れてもしないが…」
「ですから、鉄の産地と鍛冶が得意な街をご紹介ください」
「うむ。読めてきた。それを奇麗に磨いて売るのだな」
「その通りです」
皇帝ペンギン神父は、見習いを呼んで地図を持ってくるように命令した。少し経って、目の前に地図が広げられる。
「そなたの為に、複製したのだ」
「恐縮です」
「このコッペブリュンゲでは、鉄をつくっている。さらに進むとハッハミーレハには、鍛冶職人が盛んだと聞いている。近場ではこの二つの都市を訪れるといい」
「ありがとうございます」
「まて、まだ早い。後、一週間も待てば紹介状が用意できるであろう、その為、今しばらく留まり開墾に集中して欲しい」
「何から、何までありがとうございます」
丁重にお礼を伝えて、献金箱に小袋を納めて退出する。小さなゴキブリが悩みの種であったようで、毒ダンゴの売れ行きは順調の様だったので助かる。他にも何か商品を作っておかないと、手元の資金が枯渇してしまう。
「いつも、お買い上げありがとうございます」
「いや、言い値で買わせてくれるのだから、こっちこそだよ。また、寄ってくれ」
ノノとユアンが集めてくれた芋やキノコを売り歩く。相場を知らないので、訪問先に決めてもらっている。でんぷん粉等の粉を精算する許可があれば良いのだが、教会が主導している様なのでもう少し様子を見る必要がある。増産に成功してから考えよう。
「お、そろそろ店じまいだ。安くしておくよ」
「いや、すまない。思った通りに売れなくてね」
「編成官は優しすぎるのさ。また、寄ってくれよ」
何かお土産を買おうかと屋台をのぞくも、売上から買って帰れる物はなかった。元の世界でキャッシュフローが大切だと教わった事を思い出す。その日に稼いだお金と使ったお金、少し余る様なら良くなっている。何も買わずに帰れば、少しは成果を持ち帰れる。
「旦那、ちょっとだけお時間もらえないでしょうか」
「ボクの事かな」
「そうです。実は、いい娘がウチの宿にも入りまして…」
「すまない。ツレが怒るのでね。やめておくよ」
「そりゃないですよ。ノノは買ったのでしょ」
「いや、古城の掃除と炊事を手伝ってもらっているだけだよ」
「またまた…」
「すまないけど、日が暮れてしまうので失礼」
馬車に乗ると「ラッコ」が大きな鳴き声をあげる。飛び散るつばが、ワザと鳴いたのかと思わせる様に、話しかけてきた男性にかかった。「馬がご無礼と…」と添えたが、本心ではない。
「お城にお戻りですね」
「門番をお疲れ様です。その通りです」
門を抜けて城を目指す。今更になって気がつくが、多少の高低差がある様で古城への道は緩やかな登りになっている。道中の右側には教会の荘園が多くあり、それを示す十字架とあぜ道が通っている。修道者が身に着ける衣装を着た人が、返る支度をしている。式典で見た顔ではないので条件の悪い修道者なのだと思う。
『先生、もう街は出たかな』
『ごめんね。出てしまっているよ。戻るかい』
『話せるかの確認だったから、戻る必要はないよ』
『何だい』
『一通りの仕事が終わって、物見やぐらで周りを眺めているのだけど』
『ありがとう。ボクでは出来ない事を助かるよ』
『近くにね。キャンプしてる一行がいるかもしれない』
『キャンプかぁ。野宿って事だよね』
『あ、そうそう。それがね、あてがないのか火をおこしてる』
『家畜を放牧しているとかじゃなくて』
『違うと思うんだよね。家族で3人なんだ』
『ありがとう。位置を覚えておいて戻ったら一緒にいけるかい』
『いいよ。ノノに食べ物とお湯の準備をしてもらっておくね』
なるべく急いで帰ったが、すでにあたりは真っ暗になっている。えりかが不機嫌そうに「遅い」とほおを膨らませている。情けない事に荷物を持つとえりかに抱えられて大きく跳躍された。数メートルある樹木を軽々と超える、何も入っていない胃から何かがこみ上げるのを感じた時には次の跳躍が来た。5回目で地面に置かれる。着いたようだ。
「お、驚かないで欲しい。今、ハーメルン城内は編成中なので事情を聞きに来ました」
「ンな、かるし、トいず。アルしあね…」
えりかが腰の剣を奪ってぬいた。首を振るが、手をあげる様に剣先で伝える。我々はインキュベーターなので翻訳されて聞こえると思い込んでいた。初めて聞く理解不能な言葉に、空気が凍り付いた心地がする。
起こしてあった焚火がバチンと音を立てた。