藍苺酒家

文字数 1,027文字

社会に出て3年目。


この頃になると武藤さんとの昼食会はあまりやらなくなっていたの。


疎遠になったワケじゃないよ。


代わりに月1で飲みに行く様になっていたの。


行き着けのお店は中華料理のダイニング。


落ち着ける雰囲気の素敵なお店だよ。


当然、話の大部分は私の愚痴。


彼の言葉には不思議なチカラがあっていつも勇気を貰ってたよ。


だけど…。


短い夏も終わって肌寒い風が吹く季節。


その日も武藤さんは優しい表情だったよ。


でも、なんか様子がおかしいの。


明らかにお酒のペースが違ってたよ?


「俺はさ…家族や友人を粗末に扱う人が許せないんだよね」


・・・・・・え?


その話は急に始まったの。


「当然だよね。

どんな人でも憤慨するよ。

でもね…

その粗末に扱う人が家族にいたら…

どうしたらいいだろうね」


・・・・・・?


「今、離婚を考えているんだ…」


衝撃的だった。


『夜中までビールを飲んで昼間まで起きて来ない』


その文にして2行の言葉には武藤さんの苦しみや怒り…


そして悲しみや絶望感が詰まっていたよ。


部屋にはゴミが散乱して座るところも無い。


武藤さんが仕事で朝からいない日は千夏ちゃんは朝食抜きで放置。


幼稚園も欠席させてしまう。


夕食も異常に遅くて9時や10時が当たり前。


当然、千夏ちゃんの生活リズムもメチャクチャ。


酔うと平然と暴言を吐いて千夏ちゃんの前で喧嘩を売る。


他の家事もおろそかにして家が機能していない。


私には想像出来ない世界だった。


「自分の事だけならいい」


武藤さんは私を真っ直ぐ見つめる。


「でも、このままでは千夏が駄目になってしまう」


あまりにも深刻だった。


『虐待しているワケじゃないんですよね?』


とか…


『キチンと言い聞かせればいいじゃないですか』


とか…


言えるワケがないよ。


きっと武藤さんはここに至るまで様々な努力を尽くしたの。


私に何が出来るだろう?


何か出来るの?


どんな言葉をかければいい?


私は不謹慎な事を考えていた。


『離婚しちゃえばいいじゃん』


『そんな人と一緒にいる必要ないよ』


『別れちゃいなよ』


そんな事を考えていたの。


そう。


今気付いたよ。


私は…


武藤さんが好きになっていたの。
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登場人物紹介

ヒロイン(HN:藍苺ランメイ)


北海道の土産店に勤める高卒女性社員。

社会人として頑張っているがまだ若い。

趣味は自分磨き。


写真素材[モデル:Lala*]

武藤さん


仲卸しの営業マン。

妻子持ちの働き盛り。

ブルーベリーを使った中国酒が好き。

無糖あずは無関係(゜-゜)


写真素材[モデル:ゆうせい]

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