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エピソード文字数 836文字

 ◇◇

―1586年(天正14年)9月―

 “羽柴秀吉(はしばひでよし)豊臣(とよとみ)の氏を賜り、12月には太政大臣に就任し、豊臣政権を確立した。”

 君主であった斎藤道三を亡くし、織田信長を亡くし、お仕えしていた帰蝶の行方が知れぬまま戦乱の世を生き抜いた多恵は、里に帰ることも考えたが、秀吉の正室北政所に気にいられ、豊臣家でも侍女として仕えることとなった。

 多恵の部屋には斎藤家より賜った桐の箱があり、後生大事に保管されていた。

 桐の箱の中には、多恵が長年つけていた手記と、平手紅よりもらった携帯電話という不思議な形をした品物。

 ――そして天正11年に、美濃という女性から届いた(ふみ)……。

 多恵は時折桐の箱を開けては、懐かしむように文を手に取る。

 文には差出人の住まいは書かれてはいない。居所を突き止められては困るとの意図からだろう。

 万が一、誰かに読まれたとしても、豊臣に詮索されぬように、差出人は縁者だと伝えてあった。

【多恵様
 おかわり御座いませぬか。
 私は2人で穏やかに暮らしておるゆえ、心配はいりませぬ。
 多恵にはたいそう世話になり、その礼も言えぬまま出立し、申し訳なく思っています。
 多恵がいつも側にいてくれ、私はとても心強かった。多恵は私にとって、姉であり母のような存在でした。
 深く感謝しております。
 本当にありがとうございました。

 赤い牡丹の花も黒い蝶と仲良く戯れておいででしょう。
 多恵もどうか健やかにお過ごし下さい。
 遠い地より、多恵のご多幸を願っております。   美濃】

 短い文章ではあったが、多恵には、美濃という名の女性が誰なのか、(ふみ)に書かれた2人とは誰と誰を差しているのか、直ぐに理解した。

 見慣れた美しい文字。
 侍女である自分を労り優しいお言葉を掛けて下さるお方は、この世に1人しか存在しない。

 ――突如、自分の前から姿を消した……

 ――帰蝶様……。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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