手順42 告白しましょう【NOVEL DAYS書下ろし】
文字数 1,975文字
ある晩、ボクはお風呂上がりにつづらに頭をドライヤーで乾かされながら思う。
つづらとはあれから更に仲が縮まって、お互いお風呂上がりに髪を乾かし合ったりするようになった。
今はボクがつづらの部屋でドレッサーの前に座りながらつづらに髪を乾かされている。
まるで、本当に仲のいい姉妹みたいだ。
「……ねえ、つづら」
つづらがボクの髪を乾かし終わってドライヤーのスイッチを切ったタイミングで、ボクは声をかける。
「なあに? 尚ちゃん」
鏡越しにドライヤーを片付けながら答えるつづらの姿が見える。
「ボク、つづらの事が好き。大好き」
じっと鏡に映ったつづらを見つめながら、僕は言う。
「うふふ、ありがとう。私も尚ちゃんが大好きだよ」
つづらは嬉しそうに後ろからボクに抱きついてくる。
ふわりとお風呂上がりのにおいがして、背中に温かくて柔らかい感触が伝わってきた。
僕の胸の奥がキュッと締め付けられて、同時にふわふわした感覚が広がる。
でも、この甘い反応はボクの告白が受け入れられたという意味じゃない。
これが告白だと認識されていないからだ。
ここで引いたら今まで通りの仲のいい姉弟に戻れる。
でも、ボクがここで進もうとしない限り、今後つづらとこれ以上の関係になんてなれない。
だから……。
「違う、ボクは、恋人になりたいって意味でつづらの事が好きなんだ」
ボクは抱きついてくるつづらの手をほどいてつづらに向き合ってから言う。
言ってから、自分の今の格好に気づく。
化粧も何もしてないないすっぴんの状態で、しかも服は可愛くもなんともない、紺色の普通のパジャマだ。
一時の感情に任せて告白しちゃったけど、つづらの好みを考えるなら、ちゃんとフルメイクでワンピースでも着て告白すれば良かった。
何のために今まで女装してきたんだ……。
今になって自分の失態に気づいて、急に血の気が引く。
「尚ちゃん……」
一方、目の前のつづらは急に真剣な表情になって、ボクは思わず俯いてしまう。
さっきの言葉で、ボクの思う好きの意味はちゃんとつづらに伝わった。
そして、この表情でなんとなくつづらの答えは察してしまう。
告白されてそんな顔をする時は、どう断ろうか困っているって事だ。
だけど、つづらの答えは全くの予想外なものだった。
「それは、飯田橋先生との事があったから?」
「へ?」
真剣な顔で尋ねてくるつづらに、ボクは首を傾げる。
なんで、ここで飯田橋先生が出てくるんだろう。
「尚ちゃんの気持ちはすごく嬉しい。だけど、それは弱っている時に優しくしてくれた人が特別素敵に見えるだけだと思うの」
「違う! ボクは……」
どこか悲しそうな顔で言うつづらに、思わずボクは立ち上がって声をあげる。
「飯田橋先生は、生徒の事を気にかけてくれる良い先生だったと思う。だけど、尚ちゃんの恋心につけ込んで、無理矢理あんな事をしようとしたあの人を、私は許せない」
「う、うん……恋心?」
つづらは悔しそうに拳を握って俯くけど、どうやらつづらにはあの騒動はそんな風に見えていたらしい。
……状況的に見れば確かにそうとしか見えないかもしれない。
「男の人が好きだった尚ちゃんがあの人のせいで男性恐怖症になって女の子に走るっていうのはなんだか違うと思うの」
大きな瞳に涙をためながらつづらは言う。
「ま、待ってつづら、何か勘違いしてると思う」
この流れはまずい。
「尚ちゃん、怖い思いをしたのはわかるけど、男の子も悪い人ばっかりじゃないよ、私の男友達も皆いい人達でしょ?」
「いや、まあ……」
確かに悪い人達ではないとは思うけど……。
「だから、これから他の男の子達とも仲良くなって、それでも私が好きって言ってくれるのなら、お付き合いしましょ」
ボクの頭を優しく撫でながらつづらが言う。
「……つづらは、女の子が好きなのにボクと付き合ってもいいの?」
「尚ちゃんは特別だよ」
恐る恐るボクが尋ねれば、つづらがまたボクをギュッと抱きしめる。
「……うん」
……これは、本気でボクがつづらを好きなら本当にボクと付き合ってもいいと思ってくれているのか。
それとも、ボクは本来男が好きなんだと考えたつづらが、自分の男友達を紹介すれば誰か好みの奴がいるだろうと高をくくって体よくお断りされているのか。
……わからない。
出来れば前者であって欲しいけど、後者のような気もする。
「……じゃあ、先輩達全員と仲良くなってから、また告白するね」
「うん、待ってるね」
つづらの胸に埋まりながら顔を上げてボクが宣言すれば、つづらがまたボクの頭を撫でてくる。
ボクの戦いはまだ始まったばかりだ。
つづらとはあれから更に仲が縮まって、お互いお風呂上がりに髪を乾かし合ったりするようになった。
今はボクがつづらの部屋でドレッサーの前に座りながらつづらに髪を乾かされている。
まるで、本当に仲のいい姉妹みたいだ。
「……ねえ、つづら」
つづらがボクの髪を乾かし終わってドライヤーのスイッチを切ったタイミングで、ボクは声をかける。
「なあに? 尚ちゃん」
鏡越しにドライヤーを片付けながら答えるつづらの姿が見える。
「ボク、つづらの事が好き。大好き」
じっと鏡に映ったつづらを見つめながら、僕は言う。
「うふふ、ありがとう。私も尚ちゃんが大好きだよ」
つづらは嬉しそうに後ろからボクに抱きついてくる。
ふわりとお風呂上がりのにおいがして、背中に温かくて柔らかい感触が伝わってきた。
僕の胸の奥がキュッと締め付けられて、同時にふわふわした感覚が広がる。
でも、この甘い反応はボクの告白が受け入れられたという意味じゃない。
これが告白だと認識されていないからだ。
ここで引いたら今まで通りの仲のいい姉弟に戻れる。
でも、ボクがここで進もうとしない限り、今後つづらとこれ以上の関係になんてなれない。
だから……。
「違う、ボクは、恋人になりたいって意味でつづらの事が好きなんだ」
ボクは抱きついてくるつづらの手をほどいてつづらに向き合ってから言う。
言ってから、自分の今の格好に気づく。
化粧も何もしてないないすっぴんの状態で、しかも服は可愛くもなんともない、紺色の普通のパジャマだ。
一時の感情に任せて告白しちゃったけど、つづらの好みを考えるなら、ちゃんとフルメイクでワンピースでも着て告白すれば良かった。
何のために今まで女装してきたんだ……。
今になって自分の失態に気づいて、急に血の気が引く。
「尚ちゃん……」
一方、目の前のつづらは急に真剣な表情になって、ボクは思わず俯いてしまう。
さっきの言葉で、ボクの思う好きの意味はちゃんとつづらに伝わった。
そして、この表情でなんとなくつづらの答えは察してしまう。
告白されてそんな顔をする時は、どう断ろうか困っているって事だ。
だけど、つづらの答えは全くの予想外なものだった。
「それは、飯田橋先生との事があったから?」
「へ?」
真剣な顔で尋ねてくるつづらに、ボクは首を傾げる。
なんで、ここで飯田橋先生が出てくるんだろう。
「尚ちゃんの気持ちはすごく嬉しい。だけど、それは弱っている時に優しくしてくれた人が特別素敵に見えるだけだと思うの」
「違う! ボクは……」
どこか悲しそうな顔で言うつづらに、思わずボクは立ち上がって声をあげる。
「飯田橋先生は、生徒の事を気にかけてくれる良い先生だったと思う。だけど、尚ちゃんの恋心につけ込んで、無理矢理あんな事をしようとしたあの人を、私は許せない」
「う、うん……恋心?」
つづらは悔しそうに拳を握って俯くけど、どうやらつづらにはあの騒動はそんな風に見えていたらしい。
……状況的に見れば確かにそうとしか見えないかもしれない。
「男の人が好きだった尚ちゃんがあの人のせいで男性恐怖症になって女の子に走るっていうのはなんだか違うと思うの」
大きな瞳に涙をためながらつづらは言う。
「ま、待ってつづら、何か勘違いしてると思う」
この流れはまずい。
「尚ちゃん、怖い思いをしたのはわかるけど、男の子も悪い人ばっかりじゃないよ、私の男友達も皆いい人達でしょ?」
「いや、まあ……」
確かに悪い人達ではないとは思うけど……。
「だから、これから他の男の子達とも仲良くなって、それでも私が好きって言ってくれるのなら、お付き合いしましょ」
ボクの頭を優しく撫でながらつづらが言う。
「……つづらは、女の子が好きなのにボクと付き合ってもいいの?」
「尚ちゃんは特別だよ」
恐る恐るボクが尋ねれば、つづらがまたボクをギュッと抱きしめる。
「……うん」
……これは、本気でボクがつづらを好きなら本当にボクと付き合ってもいいと思ってくれているのか。
それとも、ボクは本来男が好きなんだと考えたつづらが、自分の男友達を紹介すれば誰か好みの奴がいるだろうと高をくくって体よくお断りされているのか。
……わからない。
出来れば前者であって欲しいけど、後者のような気もする。
「……じゃあ、先輩達全員と仲良くなってから、また告白するね」
「うん、待ってるね」
つづらの胸に埋まりながら顔を上げてボクが宣言すれば、つづらがまたボクの頭を撫でてくる。
ボクの戦いはまだ始まったばかりだ。