いきなりセックス

文字数 13,154文字

駅から出て徒歩5分ほどの狭い通りに話題の飲食店「いきなりセックス」はある。

店は小さいが新しい。清潔感のある白い外装。ガラス張りで、テラス席もある。

看板がでかでかと掲げられている。黒い板に白い字で勢いよく「いきなりセックス」と書かれている。

入口横にある販売機で食券を購入し、カウンター席しかないので、一番端の席に座る。

すみやかに背の高い紫色のエプロン(いきなりセックスと白い字で大きく書かれたもの)を着用した若い男性店員が、食券の提示を求めてくるので、食券を渡す。

その際に、
「いらしゃませよ。いきなりセクスを楽しんでくださいねえ。」
どうやら外国人らしい。カタコトの挨拶をされた。

私はカウンター席の股間の前にある黒い箱のボタンを押す。

すると、箱が音をたてることなく開く。そこにはクパクパと呼吸をするマンコが現れる。私はズボンのチャックを開けてチンポコを出す(すでに期待によって完全勃起状態である)。

それを探知した箱が前に迫り出してくる。箱と一体になっているマンコと、私のチンポコが密着、次第に、ズプズプと、私のチンポコはマンコに挿入されていく。

「あっ!きもちい!これ、やば!」

思わず声を出してしまう。これは「いきなりセックス」にやって来た客ならば、必ず発してしまう声なのである。

あまりにも「きもちいい」ので、出て来た料理のことはほとんど覚えていない。

食券にはA定食とだけ書かれていた。

箸を使っていたこと、味噌汁が無料でついていたことは記憶している。

食べながら、股間においてはチンポコとマンコのピストン運動が続いていて、凄まじい快楽が延々と襲ってきていた。

その快楽の凄まじさゆえに、食べた物のことなど一切覚えてないのだ。味さえも覚えていない。

「ああ!イクイク!!きもちい!!」
カウンター席だから横にも客はいる。その客はドンブリの飯をひっくり返し、白目を剥いて、涎を垂らしながら、叫んでいた。どうやら射精したらしい。それで、食べるという行為を続けるどころではなくなったのだ。

「ああ!もうやめて!イッたばっかだからあ!ダメだよお!!」
その60代に見える厳格そうな太い眉をした禿げの男は、真っ赤な顔をし、甲高い声で叫んでいた。ジュプジュプと、卑猥な音が、男の股間からは発生していた。射精が終わった後も、責められ続けているのだ。

そうしている間に、私も、限界を迎えた。私の箸を持つ手は震え始めた。私は声を出していた。

「あっ、あん!らめえ!!イクイク!!アイグッ!!!」
私が叫んだ。味噌汁が零れた。私の股間のところで動く黒い箱と、そこに設置されている「天然マンコ」の勢いはとどまることがない。あまりにも名器。確実に射精し、気持ちよくなっているところを執拗にジュポジュポしてきたのである。

「やめてくれよお!イッたばっかなんだよお!!」
私は泣いていた。なんでもするから許してほしいと懇願していた。そうすると、カウンターの奥から強面の身長が190センチくらいあるスキンヘッドの男がでてきて、

「なんでもするなら2万払え、いいな」
と低い声で言った。私はヒイヒイ言いながら、震える手で財布から2万円だしてカウンターの上に置いた。
他の客たちも、泣き叫びながら、なんでもするから許してほしい、と懇願をしていて、それで、金を払うように言われていた。

中には射精したばかりのチンポコへの執拗な拷問行為に耐え切れず、カウンターに突っ伏し、白目を剥いて失神している者もいた。

その場合には後日自宅に請求書が郵送される仕組み。

支払いがない場合には前述した強面の身長が190センチくらいあるスキンヘッドの男が数人、自宅に押し入るという話がある。

店内に満ち溢れる中年男性たちの野太い絶叫。
「らめえええ!!」
「やばいってああ!やばいんだって!ああ!」
「潮吹いちゃう!らめらめ!おっさんなのに!潮でちゃうからあ!!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!!!!!!」(白目を剥き、涎を垂らしての凄絶な叫び声。ほぼデスボイスと同一の性質を持つ)

この「追加徴収システム」の存在こそ「いきなりセックス」がこれほど儲かっている最大の秘訣と言って過言ではない。

「いきなりセックス」創業者の森沢ヘンドリックス武則氏も、その点は認めている。

「この制度を考えた時に、自分のことを天才だと思いました。私の「いきなりセックス」においては、つまり出される食べ物はなんでも良いのです。所詮、記憶には残りません。味など、特別不味くなければ、なんでもいい。洋風なのか和風なのかさえ定かでないもので構わない。大事なことは「天然マンコ」を確実にお客様に味わって頂き、その結果、射精をして、最高に無防備な状態になったお客様を適度に拷問することで、追加の料金を頂く、それも無理やりではなく、お客様から自発的に「なんでもするから許して」と言って頂くこと、これが大事なのです。脅迫にはならない。なぜならお客様は「なんでもする」と言っているわけですから、これは店内に100以上仕込まれているマイクで確実に録音しています。間違いのない同意。そして追加徴収。このビジネスモデルの根幹なのです」

「いきなりセックス」のこのビジネスは大成功を収め、現在都内だけでも6000店舗が営業している。

精力旺盛な若者の間では数十メートルおきに「いきなりセックス」が営業している大通りを歩き回り、何軒はしごできるかを競う遊びが流行しているのだという。

森沢ヘンドリックス武則氏。略歴。
1970年生まれ。1995年に都立淫獣大学マンモス部駅弁及び騎乗位専攻科を卒業。同時に日本チンポコ&マンコブラザーズ証券に入社、20年勤め退職(退職時・東アジア営業統括チーフマネージャー兼取締役常務)。大学時代から温めて来た画期的な飲食店「いきなりセックス」、その前身となる「満開マンコパーク」を2015年に開店するも、女性団体からの抗議や地域住民からの激しい嫌がらせにより、上手くいかず1年で閉店。その後、様々な専門家や技術者からの話を聞きまわり、再度チャレンジした「いきなりセックス」(2019年開店)で大きな成功を収める。2021年時点でコロナ禍であるにも関わらず店舗数を伸ばし続け現在全国に15000店舗が存在する。

「いきなりセックス」で射精された精液はそのまま最新技術により実際の女性の子宮に瞬時に転送され妊娠、子供が生まれる仕組み(どこの誰、どのような女性の子宮に転送されるかは完全ランダムだという)。この画期的なモデルにより、森沢ヘンドリックス武則氏は「少子化対策」への圧倒的な貢献を評価されて公的な賞・企業からの賞・福祉団体からの賞等、多くの賞を受賞した。ビジネス界だけでなく、社会的にもその動向を注目されている人物である。

元少子化担当大臣・堀誓子氏の発言「この国の喫緊の課題、最大の問題である少子化対策に極めて明確な解決の糸口を発見した森沢ヘンドリックス武則氏におかれましては我々政治の世界の人間に対しても今後有用なアドバイスを様々行って頂けるものと信じて疑いません。この「いきなりセックス」の成功は、日本だけに留まらず、世界各地でも展開されるのではないかと私は予想しています。とにかく素晴らしい事業である「いきなりセックス」を政治の立場からも支援したい。森沢ヘンドリックス武則氏が活躍しやすい法整備を、もっと進めて参りたい、そのように思っているところでございます。」

現在、男性向けのサービスしか提供していないが、後には「天然チンポコ」を用意し、女性客にも多く利用して欲しいとのこと。もちろん最新技術により、黒い箱に設置された「天然チンポコ」からは生きている精液が発射され、女性客の妊娠を促す仕組みである。すでに完成間近、今年中の稼働を目指すという話だ。

「とにかく日本における喫緊の課題はいかに人口減少に歯止めをかけるのか、ということだ。私の「いきなりセックス」の画期的ビジネスモデルが、その解決への突破口となることは確実だ。国に要望しているのは少子化担当大臣ではなく、種付け担当大臣と妊娠担当大臣を置くべきだということ。少子化なんて抽象的なものではなく、具体的な種付けと妊娠、これを国は役所として動かすべきだろうとね。なんでも抽象的なものでは動きませんよ。具体的に何をするか、これが大事です。」
堂々とした態度で語る森沢ヘンドリックス武則氏。

彼は自身の妻や娘を、積極的に実験台にしているという。

「拒絶したら?そんときはぶん殴るだけですね!」

満面の笑みで語る森沢ヘンドリックス武則氏。

今どき珍しい亭主関白な人物。

「こないだフェミニスト学者たちが自宅に抗議に来たんですが、予め保存していた私の精液をバケツ一杯分、ぶっかけてやりましたよ」

「奴らは泣き叫んだりしていましたが意味がわからない、生命の源エキスを浴びれたことを光栄に思うべき。なぜ、喜びの表情を浮かべないのか。」

「私が直々に、一人ずつ、あいつらのマンコに種付けして妊娠の喜び、可愛い赤ちゃんを得る喜びを教えてやろうと思ったんですが、それは法律的にアウトだと言われ、やりませんでした。私は良識があって優しい人間ですから、法律違反であるならばもちろんやりません。法律的にオッケーなら、ガンガンレイプしたんですがね。」

「とにかく見ず知らずの他人に対して怒りの形相で口汚く暴力的に人権がどうのとか命は大切とか無神経に言ってくる奴らは死んでいい、死んだ方がみんなに迷惑かからない、その方がいいというのが私の根っからの思想なんでね。」

2021年8月に母校の都立淫獣大学で行った講演では「若者諸君にはもっとアグレッシブな淫獣を目指してもらいたい。淫獣とはすなわちエネルギーそのものであり、淫獣であればあるほど、エネルギーも高まっていく。若者諸君にはもっと積極的に淫獣とは何かを哲学的に探究してもらいたい。単なる短絡的なエロスではない、そこには人類の英知がある。ケダモノのようになって路上を四足歩行で走り回り、上品な会話を楽しんでいるカフェテラスに乱入し、雄叫びをあげて全裸になり、高級ブランドの衣服を身にまとったセレブ連中に君たち自身の体からほとばしる熱いパッションそのものであるエロスエキスをぶちまけてやれ。ありあまる淫獣としてのエネルギーをいかに活用するか、それが需要なのだ」と発言し、その名言に感動して打ち震えた学生たちはその場でむせび泣いたのだという。

2021年9月初めに出版された初の新書「全日本人淫獣化計画」(RYR研究所出版部発行)はベストセラーとなり、現在80万部を突破している。

《やはりベストセラーの本は面白い。何が面白いかは正直よくわからないけど、とにかくみんなが買っているし、読んで、泣きましたとか、感動して眠れなかったとか、ネットとかで言っていて、自分もそれと同じことを思わないと自分は《普通ではない異常な、コミュニティのなかで排除されるべきゴミ》だと、みんなから思われそうで怖くてそれで、ベストセラーの本、今では内容も書名も良く覚えていないコンテンツについて激しい賞賛を行ったのだった。しかしそんなものは数年、早い場合は数カ月もすれば頭の片隅にもないし、本も読み返すことなくその辺でグシャグシャになっている。でもみんなもそうらしいから気にしてはいけないことなのであって、これからも駅前とかの本屋に平積みにされているベストセラー本はチェックしようと思っている。だけど最近読むのが面倒くさい。だから《まとめサイト》なんかで内容をだいたい拾い読みして、それで本を読んだってことにしてる。お金の節約にもなるし、それでいいかなって。いまのところバレてない。みんなが読んでいるから読んでいるだけであって本当に興味があるかというと、まあ、ないな、というものだし、時間の無駄ってこともあるなと思っているので、今、この方法はなかなか頭の良い方法じゃないかと、自画自賛で少しキモイけど、思っているんだ。》

《そんな僕が、じゃあ本当に好きなものってなんだろうって思うと、やはりポルノ動画かなとか思う。pornhubで外国人のセックスを無修正で見られるのは素晴らしいことだ。僕は《みんなが見ているから見る》のではなく、《僕自身が猛烈に見たいから見る》のだということを、ネットのポルノ動画には感じている。そうだ、ポルノ動画を見てチンポコをシコシコしてイグイグと連呼してドピュピュと射精することこそ《僕が心から欲しているもの》なんだ。》

《pornhubではゲイの皆さんの動画も見ることができて、それは男女のセックスと違って物凄く力強く、良い感じがする。》

《特に騎乗位で上に乗っかった男の子のチンポコが物凄い勢いで揺れている、腹に当たってパンパン音をたてているのが、チンポコダンスという感じで、男女のセックスでは見られない光景、興奮するんだ。》

《そんな動画ばかり見ているから、最近ではクラスの男の子をエロい目で見るようになった。井上和男くんがなかなかいい感じだなって思い始めた。体育の時間、教室で着替えをする時に、つい、じっと見つめてしまう。》

《井上和男くんは筋肉質で、胸の筋肉が発達していて、しかも、乳首がピンク色なんだ。これは凄いこと。僕はpornhubのゲイの皆さんが激しくセックスする動画を見ながら、井上くん、井上くん、と呼びかけ、チンポコを擦っている。》

《僕は井上くんを好きになってしまったのだろうか。わからないが、井上くんをレイプしたいと言う願望は僕の中に着実に育っている。》

《井上くんがベンチでイチゴジャム入りコッペパンを食べていて唾液に塗れた舌がたまに見えていてそれが凄くエロくてあの舌で僕のチンポコをペロペロしてくれたらいいなあとか思いながらつい凝視してしまうのだけどそれでも井上くんは僕の視線には一切気付くことがなくてそれは少し寂しい気持ちがしてどうにか井上くんと目を合わせて微笑み合いそのまま良い雰囲気になりお互いにお互いの股間に手を伸ばしあえる仲になれないだろうかと僕は学食で買ったジャンボフランクをジュポジュポと音を立ててしゃぶりながら考えるのだった。》

《pornhubの動画では、今、金髪で青い目をした白人の男の人が、四つん這いになり、ケツの穴をカメラの前に晒している。そうか、金髪の白人さんはケツの毛も金色なんだと、当たり前のことだけど初めて見るから知って、なんか感動した。》

《じゃあ、井上くんのケツの穴は?毛は、生えているかな?黒ずんでいる?それとも乳首と同じピンク色かな?いずれにしても舐めたいし、嗅ぎたい……僕はやはり井上くんを好きになってしまったのか。》

《今日井上くんが僕のシャープペンシルを拾って「落ちたけど」と言って渡してくれた。僕は井上くんの手を握り「ありがとう」と言ってそのままトイレの個室に駆け込んで井上くんに触れた方の手で猛烈に勃起したチンポコをシコシコしたんだ。最高に気持ちが良かった。早く井上くんとセックスしたい。井上くんの首を絞めて殺害したい。井上くんの綺麗な筋肉質な身体を刃物で切り裂いて臓物を見て見たいしその臓物や血を全身に浴びたい。井上くんを殺害して井上くんを僕のものにしたい。》

《教室の窓際のところで、井上くんが男の子数人と談笑している。笑っている井上くん。可愛い。八重歯が見えるのが、凄く、いい。可愛い。可愛い。凄く、井上くんのケツ穴を掘りたいと願うよ。神様が叶えてくれるべきだ。叶えないならば神は死ぬべきだ。役立たず。井上くんは体育着の袖を捲り上げている。脇の下が丸見えだ。毛が生えている。体育の後だから、濃厚なにおいがするだろう。スンスンしたい。嗅ぎたい。舐めたい。井上くん好きだ。やはり好きなのだ。愛だ。井上くんを愛している。井上くんの尻の肉を噛みちぎって肉を喰いたい。血まみれになりたい。》

《今は、井上くんの家の前にいる。ロープとナイフを鞄に入れてある。井上くんは部活が終わって、そろそろ来るはずだ。今日は井上くんの家には両親はいない。井上くんだけになるはずだ。井上くんが家に入る瞬間に後ろから頸動脈を切りつけて殺害しようと思う。それが、一番成功率が高い。血しぶきを浴びれる可能性も高い。一石二鳥である。楽しみだ。僕は、井上くんと恋人同士になるんだ。井上くんの腹を切り裂いて臓物や血を床にばら撒いてその上で転がり、そして眠るんだ。》

恋人とかいたことない。友達もいないし、家族とも特段仲は良くない。

とにかく胸糞悪いことが多すぎて人を好きになるなんて不可能。

世の中のカップルとか夫婦は凄いと思う。

どうやって好きになったのだろうか。

まあ、好きでなくても付き合ったり結婚はするかも知れないが。

わからない。

「好きになる努力をしろよ!」

私に対して見知らぬ浮浪者みたいなボロくて臭い恰好の男が、黄色い歯を剥き出しにして叫んできて大変驚いた。

ボロボロの破れた布一枚を体に巻きつけていて、大量のハエが、周囲を飛んでいた。

私は毎朝、近所の公園を散歩することにしていて、今日も、普通に家をでて、この公園に来たのだ。

公園の後ろは雑木林になっていて、この男は、どうやらその雑木林からでてきたようであった。

自治会のペーパーに、公園の雑木林には段ボールとビニールシートで小屋を作り住み着いている浮浪者が複数人いると、報告が書かれていたのを記憶している。

この男は、恐らくその構成員の1人なのであろう。

善意溢れるこの社会の人々は、本来ならばこの人物をお風呂に入れてやり、温かいスープなど与えるべきなのだろうが、みんな無視をしていた。

体調でも悪いのだろうか。

体調が悪いと不機嫌になり、本来優しい人が、きつい口調になったりする。

そうならば気の毒だ。

早く、元気になるといいな。

そう思いながら見れば、ボール遊びしている父と息子の様子が、ぎこちなく、調子が悪そうに見えてくる……。

調子が悪い状態でもボール遊びをしなければならない。

誰に、強要されているというのか。気の毒だ……。

「みんなが笑顔になれる夢の世界が急速に実現したらいいですよね。」

私がその浮浪者のような男性に対して言うと、突然、彼は激昂した。

「聞かれてないことには答えるな!このボゲ!」

怒鳴りつけられた私はしばらく放心状態。

死にたい気持ちになり、一週間ほど、なんとなく泣いていた。

涙はでない。

ただ、幸せそうなカップルや夫婦を見ると、込み上げてくるものがあった。

死にたい。死にたい。

そればかり呟いていた。

最近では、自殺する人の気持ちや、自暴自棄になって通り魔殺人を犯す人の気持ちが、なんとなく理解できるようになった……そんな気がするのだ。

《びっしりと毛が密生した部分は、エロい。》

俺が、毛深く臭いおっさんのケツ穴を舐めあげると、おっさんは凄絶な叫び声をあげる。

「あっ!あん!んぎもぢ!んぎ!んぎもぢ!」

俺はおっさんの毛深いケツ穴の中に舌を挿し入れた。濃厚な雄の臭いが、口いっぱいに広がる。糞の臭いがそこに混じる。絶妙なハーモニーだ。とにかく濃厚である。

おっさんの毛深いケツ穴がヒクヒクと動いていて、俺は指を穴に入れていく。ローションで濡らした指である。

「あー!あー!らめえ!あんっ!あん!あんあん!」

野太い、低い、明らかなおっさんの声で叫ぶ。太った身体、だらしない身体のおっさんが、快楽に泣き叫ぶ様子を見て、俺の若いチンポコは今にも張り裂けそうなほどギンギンに勃起していた。

おっさんの毛深い肛門内部を指で探り、腹側にあるコリコリした部分を、指先でトントンと、軽く叩く。おっさんが仰け反り、激しく反応する。あ、そこ!そこらめ!と連呼する。俺は何度も、そのコリコリした部分を、軽く撫でた。

《前立腺は男にしか存在しない快楽のスイッチだ。》

「あん!らめえ!もう入れて!入れてよお!激しく!激しくパコパコしてえ!」

おっさんは股を開き、トロトロになったケツ穴をクパクパさせた。上目遣いで、こちらを見ている。人差し指を咥えて、ウインクしてきた。

誘っている。

俺はさらに興奮し、襲いかかるように、勢いよくおっさんの毛深く臭いケツ穴に、俺自身の若いチンポコを突っ込んだ。

「ああ!硬い!おっきい!あん!あんあん!」

凄絶な叫び声を出すおっさん。

おっさんの名前は森沢ヘンドリックス武則っていうらしい。どこかの会社経営者だと。
しかし、そんなこと、今、全裸で抱き合い、気持ちよくなっている俺たちには、関係ないことだ。

《世界中のホテルで男同士の濃厚なセックスは営まれている。多様性あふれる時代、珍しくもない、日常である。》

《そう考えると世界中で無数の禿げて太ったおっさんたちが抱き合い、お互いのチンポコをしゃぶり合い、ケツ穴にチンポコを入れ合い、濃厚な愛の時間を過ごしている様子が、容易に想像できる。》

「あんたとはもうお仕舞だ」
俺は言って、タバコに火を点けた。
「飽きたんだ」

森沢ヘンドリックス武則は涙目になって、俺に抱き着く。
「やだ!なんで!あんなに愛し合ったのに!」
甲高い裏声まじりの声で泣き叫ぶ。

「ペドロ」
俺が呼ぶと、ホテルのクローゼットから褐色の肌、癖の強い髪をしたガタイの良い大男がでてくる。もちろん全裸だ。褐色のチンポコは巨大で、ビンビンに勃起している。
「はい。ペドロいますよ」
その男は言い、俺のところに来て、手を取り、その手の甲にキスをする。

ペドロ。メキシコから来た男。身長192センチ、体重110キロ。プロレスラーか力士を思わせる体型。全身が毛深く、スパイシーな臭いが立ち上っている。

「こいつが俺の恋人だから。あんたとはもうお仕舞なんだ」
俺は言って、ペドロの分厚い唇にキスし、微笑み合う。

「いやだ!なんで!邦彦ちゃん!話が違うよ!!いつも、僕を一番愛してるって言っていたでしょ!!こんなの酷い!!」

「あんたは臭い。だが、ペドロはもっと臭い。ケツに鼻を当てると失神しそうになるんだ。それが、たまらない。あんたのケツでは味わえないエクスタシーだ。あんたでは無理なんだ」

当然のことを言って、俺はペドロを伴ってホテルを後にした。

ラテンアメリカの空は真っ青で、大地は硬くて赤い。
赤い大地を踏みしめる足の裏は、次第に順応していき、傷つかないために皮膚が硬化していく。

10歳になったばかりの少年ペドロの足の裏も、当然硬く、赤い大地をどんなに強く踏みつけても傷つくことがない。

彼は彫りの深い端正な顔立ち、大きな目、黒々とした髪の毛、まだ未熟なほっそりとした体をしている。毛深くもない。臭くもない。においは、牧草のようなにおいがする。

少年ペドロの友人たちも、ラテンアメリカの少年という感じで、褐色の肌、筋肉質だがまだ未熟でほっそりとした身体つき、彫りの深い端正な顔立ちをしていた。

彼らも、少年ペドロと同様に、どこかほんのりと甘い、牧草のような香りの体臭をしていた。

ラテンアメリカの赤い大地を、美しい少年たちは笑い合いながら駆け回る。

じゃれ合い、抱き着きあい、時に、キスをする。

少年ペドロが赤い大地を駆け回り、大きな蜥蜴を木の棒で撲殺して楽しみ、野性の犬、まだ幼い子犬のケツに無数の石ころを入れて腹をパンパンにしてやり、彼流の死刑宣告を行いその上でその子犬を川に放り込み、友達のアレサンドロやゴンザレスと全裸でプロレスをして帰宅すると父親が床に倒れ、白目を剥いて痙攣していた。

黒のビキニパンツだけを着用した父親。
褐色の肌、痩せていてあばら骨が浮き上がっている。
頭は剥げていて、鼻の穴が大きい。

昔は逞しいガタイの人物だった……チェーンソーを振り回し木を切ったり勝手に他人の家の愛犬を真っ二つにしたりしていた。お調子者な面も持つ父親だったが……。

「あぐ……あぎぎ……あぐ……」

そのような発言を、倒れてもがきながら白目を剥いて行う父親の様子を、少年ペドロは心底気色悪いと思い、再び家を飛び出した。

いつだって気色悪いものを進んで見たいと思うことはない。気色悪いものよりも、見ていて気持ちいいものが好きだ。

あの父親が死に絶えて、死体が速やかに処分され、自分にとって気色悪い存在が消えてなくなればいい。

友達のアレサンドロやゴンザレスと待ち合わせて、森の奥にある透明な水がこんこんと溢れる泉で水遊びをした。

少年たちは全裸になる。

まだ未熟ながらしっかりと筋肉の付いた身体つき。体毛は一切ない。
美しい彫刻作品と言っても、過言ではない彼ら。

彼らはお互いにお互いの姿を、気持ちいい存在として認め合う。

笑い合いながら手で水を掬い、相手に掛ける。

泉の中でプロレスごっこ、抱き着きあい、時に、キスをする。

彫りの深い端正な顔立ちをした少年同士が、ゆっくりと唇をくっ付けて、舌を絡め合い、唇を離し、見つめ合い、ふふふ、と笑い合う。

そして、水遊びを再び開始する。

「あんたが放置したからお父さんが死んだのよ!」

帰宅した少年ペドロは母親のアニータに怒鳴りつけられた。
アニータは街にでて若い男に声をかけてセックスして金を稼いでいる。彼女のおっぱいは大きく、若い男は彼女のおっぱいを赤ん坊のようにチュパチュパ吸いたいと欲望するのだ。《ママアニータ》として、街では有名な娼婦なのである。

身長が190センチ以上あるゴツイ屈強な身体をした毛深い褐色の肌の若者が、全裸でアニータのおっぱいを吸う。

「ママ、ママー、むにゅむにゅー、ママー」

若者は野太い声で甘えた感じの声を出すのだ。アヒル口、上目遣いでアニータを見る。

「良い子、良い子ねえー」

アニータは母性に満ち溢れた低めの声でそう言い、おっぱいを吸う若者の頭を撫でる。

「むにゅむにゅ―、ママー、むにゅむにゅー」

アニータは逞しいガタイをした女。顔つきは鼻が長く、鳥のような見た目。
怒りの形相で、少年ペドロを睨みつけている。

「なんでアルコール中毒で倒れた実の父親を放置して遊びまわるの!酷い息子!あんたは悪魔!」

アニータは叫びながら少年ペドロの顔をぶん殴った。
鼻血を噴出しながら倒れる少年ペドロ。

「この悪魔!なんでお父さんを助けない!この悪魔!チンポコ切れ!」

「気色悪いことしてる奴をなんで助ける必要があるんだ!ふざけんなこのアマ!」

少年ペドロは噴き出す鼻血を押さえることなく外にでて、ガレージに置いてあるチェーンソーを持ち出し「死ね!死ね!このババア!」と叫びながらアニータに突撃、アニータは逞しいガタイ、太り気味のために逃げられず、腹をチェーンソーで切り裂かれた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
凄絶な絶叫をしながらアニータは血だまりのなかに倒れた。赤黒い臓物が、切り裂かれたアニータの腹部から流れ出していた。

「うわ、気色悪い……」
少年ペドロは呟くと、チェーンソーを置き、再び家から出て行った。
気色悪いものが速やかに処理され、正常な世界が回復することを心から願った。

いつだって気色悪いものを進んで見たいと思うことはない。気色悪いものよりも、見ていて気持ちいいものが好きだ。

だが、同時にこれは珍しい光景だし、こういうのが好きな人なら高く買い取ってくれるかも知れぬと考え、少年ペドロは父親の所持していた日本製のポラロイドカメラでアニータが無惨な姿で死んでいる様子を撮影し、その写真を封筒に入れて保管した。

その写真は後日彼が日本にやって来た時に、都内の地下にあるクラブでサングラスを掛けた紺色のスーツを着たおっさんに15万円で買ってもらった。

「なかなか良く撮れてるけど、ポラロイドカメラの写真は、やはり現代のデジタル技術による撮影に比べると鮮明さに劣る。デジタル撮影したものだったら10倍出しても良かったんだがね」

「たくさんこういう写真を持っているのですね?」

「ああ、大好きなんだ。今の日本はグロテスクなものが大好きな人種が増えたよ。素晴らしいことだ。首が吹っ飛んで血がドババって噴き出したり、手足を切断されたりする描写をほとんど隠し立てすることなくやるんだ。みんな飢えてる。日本は平和だからね。暴力に飢えてるんだ。俺もそう。本物の殺人現場、しかもとびきりショッキングな殺人現場に遭遇できる可能性なんて、人生で一度あるかないかだよ、普通の一般人として生きていたらね」

涙が止まらない。

ホテルのベッドで、全裸の森沢ヘンドリックス武則氏は、ずっと泣いていて、目を赤くしていた。

「こんなの酷い。捨てるなんて。酷いよ。話が違うよ……」

失恋の傷を負い、世界中からフラれてしまったようにさえ、感じる。

「酷い。酷すぎるよ……」

邦彦ちゃんの方から「あんた可愛いな、すげえ好き」とか言ってきたくせに……。あんまりだ。あんたのケツが世界で一番すげえ好きとか、連呼していたのに。なんだよペドロって……誰なんだよ……。邦彦ちゃんのごつごつした男らしい指が、ぼくのケツ穴をほじくって、とろとろにしていく……邦彦ちゃんが愛してるってあのハスキーボイスで囁きながらぼくのケツ穴にキスして、舌を穴に挿し込んでいく……あれは幻想だったの?真実の愛じゃなかった?誰?ペドロ誰?わからない。もう、すべてがわからない……。

涙が止まらない。

悲しみに震え、自発的ではなく、勝手に、嗚咽の声が漏れてしまう。

誰かに傍にいて欲しかった。誰かに抱きしめて欲しかったし、誰かにケツ穴を舐めて欲しかったし、最高のケツ穴だ、甘美なケツ穴を持つあんたのこと世界で一番に愛してるって言って欲しかった。

太った毛深い、だらしのない身体、その全裸の状態で、森沢ヘンドリックス武則氏はホテルの裏口からでていく。

時間はすでに昼間の14時で、日曜日だった。

繁華街には家族連れ、カップル、ぼっちの人、多くの人々が歩いていた。

森沢ヘンドリックス武則氏は、多くの人で賑わう繁華街の大通り(歩行者天国の最中であり車は通らない)の真ん中で全裸の状態で四つん這いになり、そのデカイケツ、毛深く臭いケツ穴を、大勢の大衆の前に晒したのだった。

「見てよ!誰か!ぼくを愛して!!ぼくは悲しい!!誰もぼくを愛してくれないの?そんなの嫌だよ!ほら見てよ!!すごく!!すごくクパクパしているんだ!!ぼくのマンコ!!!!甘美なケツ穴!!すごくクパクパ!!ねえ!!すごくクパクパ!!!」

森沢ヘンドリックス武則氏は顔を真っ赤にして絶叫した。

「なにあれ!!」
「きもっ!!」
「くっせえわ!!!」
「気色悪い奴なにあれ!!」
「ああいうの迷惑!!死ぬべきだ!!!」
激しい罵詈雑言の嵐である。場は騒然とした。

通報によって到着した警察官たちが、泣き叫ぶ全裸の森沢ヘンドリックス武則氏をボコボコにした。

「気色悪い!!お前みたいな奴は愛とか恋愛とか語るな!!ただ死ねばいいんだ!!」

「気持ち悪い奴がスカした感じで恋愛とか語るな!!気色悪い!!それが多くの人々に不快な思いをさせていると知れ!!知った上で死ね!!!」

若い精悍な顔立ちの警察官たちは半ば嘲笑しながら、だらしのない身体を白日の下に晒している森沢ヘンドリックス武則氏の体を蹴りつけ、警棒で殴った。リズミカルな暴力の楽しみとでもいうべきものが、その場に発生していたのは事実である。

叫び声は弱まり、やがて消えていった。

深夜になると、当たり前だが繁華街の大通りから大勢の人が消える。家に帰るかラブホテルに行ってセックスするのか知らないが、とにかく消える。店も大半が閉まる。

そんな暗く静かな繁華街の大通りの真ん中に、森沢ヘンドリックス武則氏の全裸の死体が、転がっている。

毛深い、太った、だらしない身体つき……白目を剥いて、口を開け、涎を垂らして……。体中に多くの打撲のあとがある。顔も、グロテスクに腫れ上がっていた。

一匹のハエが飛んでくる。ハエは、森沢ヘンドリックス武則氏の萎みきった黒いチンポコに止まる。そこに、卵を産み付け始める。

《少子化対策。人口減少は喫緊の課題。》

やがて彼の死体は多くの蛆虫によって覆われ、喰いつくされることだろう。

まずは卵を産み付けられた黒いチンポコから食われ始め、ドロドロに溶けていくに違いない。

ハエは増えていた。

数時間後には、死体の全身が、ハエたちによって覆われていた。

地鳴りにも似た、ハエたちの羽音の唸りが大きく、静かな繁華街の路上に響いていた。
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