『思い人は透き通る』プロット及びあらすじ

文字数 2,514文字

起)夏休みも終盤。小学五年生の佐倉須美子(さくらすみこ)は宿題も全部片付け、週末二日に渡って催される夏祭りを楽しみにしていた。特に打ち上げ花火が楽しみだ。が、祭が翌日に迫ってきた朝、目がチクチクする違和感を覚える。母親に連れられ病院で診てもらうと、逆まつげとのこと。たいした病気ではないがすぐに手術しないと目が傷付く恐れがある。ただし、術後数日間は目を覆わねばならない。嫌がる須美子だったが母に説得され、渋々承知。手術は短時間で終わり、成功するも、包帯をぐるぐる巻きにされた須美子は何も見えない。

承)次の日、田舎からの電話で、おばあちゃんが倒れたという。須美子の両親は飛んで行かねばならない。須美子自身は長距離移動は難しいだろうとの判断で、隣家の石森(いしもり)さんに面倒を見てもらうことに。石森家の子供三兄弟(高一、中二、小五)の内の一人、寛太(かんた)は須美子と同級生で、密かに好意を持っており、夏祭りを楽しみにしていたことも知っている。祭初日の夜を迎え、三兄弟も当然、出掛けるつもりでいる。このタイミングで寛太は須美子も連れて行きたいと言い出した。兄弟揃って行動するのはそれぞれ友達と合流するまでと決めていたため、須美子は小五のグループに混じることになるが、それは不安だと石森の母親が懸念を示す。寛太が目を離さないようにするからと粘っていると、長男の勇也(ゆうや)が「俺が付き添ってやるよ」と言ってくれた。
 外出してから寛太と須美子が礼を言うと、勇也は気まずそうに「実は彼女とデート予定だったのが一昨日、ふられた」と苦笑い。
 寛太は須美子の目になって、露店を巡る。程なくして寛太の友達と合流。冷やかされた。

転)付き添い役の勇也は思い掛けず、ふられた相手・真田月渚(さなだるな)と出くわし、動揺。相手は何故か「やっぱり一緒に回りたい」と言い出してきて、困惑する勇也。弟たちの面倒見なきゃいけないんだけどなと迷いを見せる勇也の前に、月渚を追い掛けてきた男が現れる。
 たちまち揉め事に発展。折からの人混みもあって、須美子は寛太達とはぐれてしまう。
 目が見えない状態で一人放り出された形の須美子。不安に襲われ、包帯を取ってしまおうかとも考えるが、医者からは禁じられている。とにかく友達に連絡を取ろうと、携帯端末を取り出した矢先、背中に人がぶつかって、取り落としてしまう。拾おうにも見えないし、しゃがむだけでも周りの人から見えにくくなって、さらなるトラブルになる恐れが。どうしようもなく、泣きそうになる須美子に、「あっ」という男の子の声がしたかと思うと、一拍置いて「ごめん!」と言われた。何事か分からぬ須美子が首を傾げるのへ、男の子は「スマホ落としたんじゃ?」と聞いてくる。彼の話では、落ちていた携帯端末に気付かず、蹴っ飛ばして溝に落としてしまったという。その後、彼が拾い上げてくれた携帯端末は水没のため不調を来しており、連絡が取れない。
 男の子は上条透(かみじょうとおる)と名乗り、修理代を払いたいが手持ちがないという。須美子は修理は自分が落としたせいだからいい、それよりも友達と合流したいと伝える。上条は「この辺のこと詳しくないんだ。ばあちゃん家があって夏休みとか冬休みとかに遊びに来るだけだったから」と弱り声。おばあちゃんという単語を耳にして、今度は自分の祖母のことが心配でたまらなくなる須美子。とうとう涙が出て来てしまった。
 上条は「分かった。見付かるまで一緒にいる」と言い切ると、須美子の手を引いて祭りの雑踏の中を歩き出す。須美子は戸惑いながらも、彼の手の力強さに安心感を覚える。「名前は?」と問われて答えると、上条は「佐倉須美子ちゃんの知り合いの人! いませんかぁ!」と声を張り上げた。これならじきに見付かるはずと思った矢先、打ち上げ花火が始まる。どーん、ドンという大きな音が響き渡り、上条の声をかき消した。
 それでも精一杯叫ぶ上条を、須美子はいたたまれなくなったこともあり、とめる。しばらく花火の雰囲気を味わいたいと伝えて、どんな花火が空を彩っているのかを教えて欲しいと頼む。
 そうして花火の打ち上げがクライマックスに差し掛かった頃、突然、後ろから肩を引かれる須美子。そのままぐいと引き寄せられた。花火が終わると同時に、寛太が怒った声で「おまえ誰だ? 何をしてるっ」と言うのが耳に届く。それは須美子にではなく、上条に向けられたものだと分かった。緊張が高まるのが見えてなくても感じ取れた。
 しかしすぐさま上条が退いた。「同じ学校の友達みたいだね。合流できてよかった。じゃ、あとは任せた」と立ち去る。「何だあいつ」と憤る寛太だったが、須美子がいきさつを話すとようやく落ち着いてくれた。
 石森家に戻り、田舎に行っている父母に連絡を取る。祖母の容態は安定しつつあると聞いて一安心。こちらで一騒動あったことは隠し通した。床に就く須美子。思い返されるのは上条の声。どんな顔なんだろう? 寛太に尋ねればある程度教えてくれるかもしれないけれども、聞きづらい。

結)逆まつげはすっかり治り、夏休みが明けて、新学期初日を迎える。須美子のクラスに転校生が来るという。教室にその転校生が入って来た途端、寛太が大声を上げた。
 その反応から察しが付いた須美子。転校生の自己紹介、第一声はあのときの声で、「上条透です」
 その後、上条に尋ねる。あのときいかにも夏休みで遊びに来ただけって風に話していたけれども、転校してくるんだったら言ってくれたらいいのに。上条は頭に手をやって答えた。「休みのときに遊びに来ていたけど、今度転校が決まったんだって言おうとしてた。けど、君が泣き出したから慌ててそれどころじゃなくなったんだよ」と。



あらすじ)
 小五の須美子は逆まつげの治療でしばらく目が見えない状態に。楽しみにしていた夏祭りに行けないと悲しむも、同級生の寛太らが付き添ってくれることに。ところが祭の最中にはぐれてしまう。見えない状態で雑踏に一人。不安に押しつぶされそうな彼女に、同じ年頃と思しき男の子・透が声を掛けてきた。地元の子ではないらしいが懸命に探してくれたおかげで友達と会えた。けど、顔を見ずに分かれてしまい、気になって仕方がない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み