第104話 3ヶ月と10日目 9月4日(金)

文字数 1,578文字

 派遣バイトに向かう往路並びにバイト中に、
今日1日ずっと考えていたことがある。
 今日の派遣先は肉体労働の為、身体だけ動かしていれば頭の中は何を考えていても自由なのである。
 ここ最近はいつも阿呆なことばかり考えていたのだが、今日はまともなことを考えた。
 実のところ私はホラーが大の苦手で映画やドラマを始め、小説など一切のホラーはスルーしてしまう傾向にある。
 ところがである。
 私は先日ノベルデイズのエッセイで、小説現代の9月号を買ったとしても大塚愛の寄稿した小説は読まないと宣言したのだが、そこで云々した理由がなくとも、どの道その小説を読みはしないだろうことに思い至った。
 何故なら大塚愛の寄稿した小説が、ホラーだったからである。
 尤もそうな理由で怒れる正義の文士宜しくそのエピソードを書いたのだが、自身が大のホラー嫌いだったことを忘れていたのだ。
 何と言う不覚。
 これは黙っているしかない。
 今更そのことを発表して、己の阿呆さ加減を露呈させる訳にはいかぬ。
 この上は給料日に小説現代9月号を購入し、エッセイに書いた通り編集部宛に葉書を送付するしかない。
 もし読者諸兄の中でそのエッセイを読まれた方がいらっしゃるなら、どうか私のこの何とも腑に落ちない間の抜けた事実を内緒にして戴きたい、何卒お願い申し上げる。
 と、言うことで、今日も阿呆な私であったが、しかし阿呆なだけではなかった。
 それ以外では今日は至極まともだった。
 話をホラーに戻そう。
 ホラーのことに思いを馳せた際己の阿呆さ加減にうんざりすると同時に、そんな私でも以前
にホラーを体験したことを思い出したのだ。
 暫く考えた挙げ句それがパチンコだったことに思い至った。
 何とパチンコだとあんなに敬遠していたホラーに自ら立ち向かっていたのである。
 これはどう言うことなのか。
 考えれば考えるほど奇っ怪だ。
 ホラー嫌いの私がホラーを自ら体験するなど、そのこと自体がホラーである。
 そう言えば以前に私は恐怖心を利用して競馬やパチンコへの欲求を抑え込む、自分なりの依存症治療法を編み出した。
 やはり競馬やパチンコの興奮と恐怖心は何か特定の関係があるように思われる。
 思えばホラーのパチンコ機種にも色んなものがあった。
 例えば「呪怨」、「リング」、「貞子」、その他「オーメン」、「黒百合団地」、「ひぐらしの鳴くころに」、など。
 私は依存症治療を始める前までは、これ等の機種のほぼ一通りを打った経験がある。
 何故なのか。
 自身で過去の記憶を呼び覚まし分析してみると、やはり当たらないときと当たったときの落差が他の機種よりも、より大きかったからではないのか、と、そのことに思い至った。
 つまり通常の状態から当りに到るより、恐怖で萎縮しているところから当りに到る方が、より快楽を解放するドーパミンが放出するのでは、と、言う理屈である。
 より多くの興奮を得る為に、私は敢えて苦手なホラーに挑んだのだ。
 と、言うことはその逆も然り。
 それ等の興奮を抑え込むのには、恐怖心を上手く利用することにその秘訣があると言うことになる。
 以前「競馬やパチンコをすると絶対に負けるし、金を失う」、と、その恐怖心を自身に言い聞かすことを心掛け或る一定の成果は収めた。
 うーん。
 これはもう一度カウンセラーの先生に相談し、新たに何か違う恐怖心を利用した治療法を開発する余地ありとみた。
 やはり今日の始まりは阿呆だったが、後半結構賢そうだし為になったぞ。
 と、言うことで、今日の無事は何と言ってもホラーに感謝で、明日の無事もひょっとしてホラーのお蔭で確実なのかもしれない。
 しかしどう考えてもパチンコ以外でホラーを観る気はしない。
 その意味でパチンコは謎だ。
 
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