第15話:人魚姫は仲間と再会する
文字数 1,541文字
空は快晴です。
素晴らしいお天気にも関わらず、エンパイア号の上にはまるで雨雲がかかっているかのような雰囲気です。
マリーの誘拐に続きアン、もといシュプリーまで消えてしまったからです。みんなはシュプリーを人間だと思っていますから、海の真ん中で彼女が消えてしまった以上、彼女は海に落ちて、死んでしまったものと思っていました。
その時、海賊達の一人が、手摺によりかかって魚釣りをしていました。
彼は気だるげに釣り糸の先を眺めていましたが、その隣に、ぽっかりと顔が浮かんできたのを見ました。何とそれは、シュプリーの顔だったのです。
「ぎゃーっ、でででで、出たぁあ!」
昼間から出る幽霊など珍しいような気もしますが、そう思った男は釣竿を放り出して仲間に飛びつきました。
「何だ、何が出たんだ」
どよめきながら集まってきた仲間達の中に、ヴァイオラ船長が加わりました。彼女達は寄り集まって、男が震える指で指し示す手摺の向こうを覗き込みました。
そこには、ずぶぬれのシュプリーの首が、にこにこして浮かんでいたのです。
「生きてたのか!」
船長が驚きを隠さずに叫びました。シュプリーは「はい、船長」と明るい声で返事をしました。
*
シュプリーは今まであったことすべてを、船に乗っているみんなに正直に説明しました。
みんなの中にはもちろん公爵も含まれていて、一番びっくりしていたのは、どうやら彼のようです。シュプリーは今まで色々な事を隠していたこと――もっとも話せないのでどうしようもなかったのですが――を、公爵に謝りました。
「でも、君が無事でよかったよ。それに、話せるようになってよかった」
手摺越しに、公爵はシュプリーに微笑みかけました。
そしてもっとも嬉しそうにしているのが、何といってもヴァイオラ船長でした。
「シュプリー、よくやってくれた!ルブをこの手で倒せないのは惜しいが、もうゴルトリック卿を怖れる必要はない。七日後に、正々堂々と叩きのめしてやる」
その横で首を振ったのがライラです。
「でも待ってヴァイオラ、ゴルトリック卿のことよ、ルブがいなくなったとわかったら、七日後の約束なんて反故にして、マリーを捕虜にしたまま条件の変更を要求してくるに違いないわ。そうしたら正々堂々勝負なんて無理よ」
それを聞くとヴァイオラ船長の顔が、一気に不機嫌そうに萎みました。
「…確かにその通りだ。…どこまでも女々しい奴め、どうやって片をつけてやろうか」
悔しそうに歯噛みしたヴァイオラ船長に向かって、アントーニオが言いました。
「恐らくゴルトリック卿は、捕虜交換の場所を、船上ではなく陸の上に変更しようと言ってくるのではないでしょうか。…しかも、使者の人数を限定してくるはずです」
「そしたらこっちは、単身敵の巣窟に乗り込んでくようなもんじゃないか!」
怒りのこもったヴァイオラ船長の拳が、手摺の上に叩き付けられました。
溜め息を吐くように、ライラが呟きました。
「毒をしみ込ませた手紙でも送る?…ダメね、ゴルトリック卿に陸の上で死なれても、マリーは取り返せないわ。第一そんな手で倒せる男なら、とっくに誰かがそうしてるわね」
しかしその言葉を聞いた瞬間、ヴァイオラ船長の瞳が、ひらめきを得たようにきらりと光りました。
船長の顔にみるみるうちに不敵な笑いが広がります。船員達が、何だ何だと船長に視線を集めました。
ヴァイオラ船長は手摺から身を乗り出すと、シュプリーに向かって不穏な笑顔を向けました。
「悪いがシュプリー、ひとつ頼みたいことがある」
一体船長の頭に思い浮かんだ名案とは何でしょう。シュプリーは不思議に思いながらも頷きました。
*
素晴らしいお天気にも関わらず、エンパイア号の上にはまるで雨雲がかかっているかのような雰囲気です。
マリーの誘拐に続きアン、もといシュプリーまで消えてしまったからです。みんなはシュプリーを人間だと思っていますから、海の真ん中で彼女が消えてしまった以上、彼女は海に落ちて、死んでしまったものと思っていました。
その時、海賊達の一人が、手摺によりかかって魚釣りをしていました。
彼は気だるげに釣り糸の先を眺めていましたが、その隣に、ぽっかりと顔が浮かんできたのを見ました。何とそれは、シュプリーの顔だったのです。
「ぎゃーっ、でででで、出たぁあ!」
昼間から出る幽霊など珍しいような気もしますが、そう思った男は釣竿を放り出して仲間に飛びつきました。
「何だ、何が出たんだ」
どよめきながら集まってきた仲間達の中に、ヴァイオラ船長が加わりました。彼女達は寄り集まって、男が震える指で指し示す手摺の向こうを覗き込みました。
そこには、ずぶぬれのシュプリーの首が、にこにこして浮かんでいたのです。
「生きてたのか!」
船長が驚きを隠さずに叫びました。シュプリーは「はい、船長」と明るい声で返事をしました。
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シュプリーは今まであったことすべてを、船に乗っているみんなに正直に説明しました。
みんなの中にはもちろん公爵も含まれていて、一番びっくりしていたのは、どうやら彼のようです。シュプリーは今まで色々な事を隠していたこと――もっとも話せないのでどうしようもなかったのですが――を、公爵に謝りました。
「でも、君が無事でよかったよ。それに、話せるようになってよかった」
手摺越しに、公爵はシュプリーに微笑みかけました。
そしてもっとも嬉しそうにしているのが、何といってもヴァイオラ船長でした。
「シュプリー、よくやってくれた!ルブをこの手で倒せないのは惜しいが、もうゴルトリック卿を怖れる必要はない。七日後に、正々堂々と叩きのめしてやる」
その横で首を振ったのがライラです。
「でも待ってヴァイオラ、ゴルトリック卿のことよ、ルブがいなくなったとわかったら、七日後の約束なんて反故にして、マリーを捕虜にしたまま条件の変更を要求してくるに違いないわ。そうしたら正々堂々勝負なんて無理よ」
それを聞くとヴァイオラ船長の顔が、一気に不機嫌そうに萎みました。
「…確かにその通りだ。…どこまでも女々しい奴め、どうやって片をつけてやろうか」
悔しそうに歯噛みしたヴァイオラ船長に向かって、アントーニオが言いました。
「恐らくゴルトリック卿は、捕虜交換の場所を、船上ではなく陸の上に変更しようと言ってくるのではないでしょうか。…しかも、使者の人数を限定してくるはずです」
「そしたらこっちは、単身敵の巣窟に乗り込んでくようなもんじゃないか!」
怒りのこもったヴァイオラ船長の拳が、手摺の上に叩き付けられました。
溜め息を吐くように、ライラが呟きました。
「毒をしみ込ませた手紙でも送る?…ダメね、ゴルトリック卿に陸の上で死なれても、マリーは取り返せないわ。第一そんな手で倒せる男なら、とっくに誰かがそうしてるわね」
しかしその言葉を聞いた瞬間、ヴァイオラ船長の瞳が、ひらめきを得たようにきらりと光りました。
船長の顔にみるみるうちに不敵な笑いが広がります。船員達が、何だ何だと船長に視線を集めました。
ヴァイオラ船長は手摺から身を乗り出すと、シュプリーに向かって不穏な笑顔を向けました。
「悪いがシュプリー、ひとつ頼みたいことがある」
一体船長の頭に思い浮かんだ名案とは何でしょう。シュプリーは不思議に思いながらも頷きました。
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