第17話 逆襲の下準備

エピソード文字数 1,228文字

 取るものも取りあえず、八っつあんとご隠居、小鳥遊は、店じまいをはじめたよろず屋を訪れていた。
「マタタビ?!」
 主は、目をまんまるにした。
「どうしたい、猫でも飼ってるのかい」

「いや、似たようなものだが、少々ヤボ用でな」
 小鳥遊は、懐に手をやって、銭をちゃらりと出した。
「お武家さま、ここはあっしが」
 八っつあんが、たまらなくなって言うのだが、小鳥遊は、よいよい、と言うばかりである。一同は、よろず屋をあとにする。

「あとは猫又の子どもたちに、これをあげれば百人力だ」
 小鳥遊は、マタタビを大事そうに懐にしまい込む。
「神社に奉納したほうが、良くないっすかね? なにぶんにも、あそこがほんとの家でやんしょ?」

「打撃を受けている妖怪は、家には戻らないはずだ。敵が待ち伏せしているとみられるからな」
 小鳥遊は、もっともらしく、答えた。
 八っつあんは、感心した。さすがお武家さま、考えが違っている。そういう戦いのやり方は、町人のあっしらにはサッパリわからねーや。
 
「じゃあ、あやかしの行き先は、どこだと思いやす? 神社じゃねーとしたらどこでやんすかね?」
「わからないな。町を探して歩くことになるだろう。五郎たちに気取られないようにしなくてはな」

 一同は、すぐに行動した。マタタビで力をつけてもらい、あやかしたちを助けるのだ!

 一方、五郎は、権三をかき口説いていた。
「ホントですってば。今度こそ、長屋はこっちのものです。みーんな今晩には、立ち退いてるはずなんです!」
「悪いが、ノンキにやってる場合じゃないんだよ」
 権三は、太い眉をつり上げた。

「おまえのおままごとに付き合うほど、我々はヒマじゃないんでね」
「おままごとじゃねえ、ホントにうまくいったんですって!」
「ふーん。つまり、長屋には、だれもいないってワケだな?」
 権三は、葉巻を取り出してふかしてみせた。五郎の脳裏に、一瞬、仲良く笑っている八っつあん夫婦の顔や、渋い顔でキセルを吹いているご隠居、そしていつも無表情の小鳥遊の姿がちらついた。心のどこかがチクリと痛んだ。

 母の姿が、また思い出される。謝れ。母はキッパリ言っていた。もしかしたら、オレはとんでもないことを……。
 いやいや、オレは一流のヤクザになるんだ。これは手始めなんだ。野心のためには、くだらねえ感傷なんてジャマなだけだ。
 ぶるぶるっと身体を震わせる五郎に対して、権三は意地悪い目である。
「どうした。おじけづいたか」
「武者震いでさ、権三さん!」
 五郎は、ムリヤリ笑顔を作って見せた。

「どうだ、いっしょに来るか? いいものを見せてやろう」
 権三が、席を立った。五郎も立ち上がる。あまり気乗りはしなかった。どうも調子が出ないな、と五郎は思った。これはやはり、あいつを連れてくるべきだろう。
「すいません、ちょっと連れていきたい人がいるんですが……」
 五郎は、口を開いた。
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