第1話

文字数 1,006文字

ああ、失敗したーー。
今日の帰り、絶対に言おうと思ってた。

「オレと、つきあって」

シンプルイズベスト。

ミキは1つ下の部活の後輩。

1年生に部活紹介をしに前に出ていったとき。
あんなにいっぱいの人の中で、なぜだかミキとずっと目が合っている気がしていた。

あの瞬間から、きっと好きだった。

あ、まず「好きだ」も言わなきゃ。
「一目惚れだった」もつけ加えた方がいいかな。

玄関で待ち伏せして、人気(ひとけ)がないのを確認して声をかけたのに、下駄箱の裏にミキの友達がいることに気づかなかった。

結果、「あ、やっぱいい、なんでもない」
と、そそくさと逃げてしまった。

あれは何だったんだと思われただろうな。

「本当はあの時告白するつもりで」
って、説明した方がいいかな。

ミキが部活に入ってきた時、これはもう運命だと勝手に感じた。

「マサキ先輩」と呼ばれる度に心臓が跳ねる。
子どもみたいでちっちゃくて人なつっこいコ。
明るくて一緒にいるといつもめちゃくちゃ楽しい。

あ、好きだから、いっしょにいられるだけで楽しいんだ。
それも付け加えた方が…。

…って、シンプルイズベスト、どこいった。

男らしくストレートに告白したい。

…まあでも、今日逃げてきちゃったからな、男らしくも何もないか…。

やっと連絡先交換できたんだから、早く送ればいいのに、ケータイの
『ミキ』
の2文字を見ただけで指先に緊張が走る。

文字を書いては消し、ケータイを開いては閉じるの繰り返し。

何やってんだ、オレ。

いっそのこと、ミキから連絡してきてくれないかと期待すること数時間。

あー、バカだ、オレ。
こんな時間になったら、もーふつーに連絡もできない。

こんなこともできないで、告白なんかできんのか?

ケータイ片手にベッドの上で大の字になる。

ああ、でも、こんな夜だから。
夜だからこそ、いける気がする。
高まる気持ちに後押しされて、
こんな夜更けに送ってしまった。

『まだ起きてる?』

『起きてます!』

返信、早!

送ったくせに、心の準備がまだできてない。
『明日会ったら、話したい』

そう、大切なことはちゃんと会ってから。

『はい、明日!待ち遠しいです!』
やっぱり早い。

どうする、オレ。
この勢いで自転車こいで、今から行っちゃう?
意味もなく、枕をバシバシ叩く。
いや、待て待て。こんな夜更けのノリじゃダメだ。


本当に伝えたいことはシンプルなのに、伝えたい想いがあふれてくる。
24時50分。
眠れないこの気持ちを抱えたまま、明日はシンプルにいけるかな。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み