第1話  エール

文字数 891文字

おかあさん。

冗談だろ、と思っていました。

今朝、あなたの言った言葉。

「ちょっと、冥王星に行って来るから。
ごはん、昼の分は作ったけどさ、あとはテキトーに食べててね!あ、あと、寝る前に戸締まりはちゃんとしてよ!」

「はいはい、行ってらっしゃい。気をつけて。」

一昨日電話して、「あさって帰るから」と言ったときも「えーっ!もっと早く言ってよ!冥王星行く予定入ってるんだからー!でも、まあ来てゆっくりしてってもいいよ、母さんはしばらくいないけど。」と、確かに言ってた。

その時はメイオウセイ?なんだよ、メイオウセイって。どっか、温泉の旅館か?

そんな風に思って、特に気にしていなかった。

でも、よくよく考えてみれば、オレが家を出てからの何年間か、母さんはやたらと忙しそうだった。
「宇宙に行く準備で忙しい」
「宇宙飛行士って難しいのよー」
何回か、そんなこと言ってたな。

思えば、母はいつも唐突で、予想外の行動をとる人生を送ってきた。
そんな彼女に育てられたオレは、母を反面教師として、真面目で常識的に育った。

だから、思ってもみなかったのだ。

でも、思うべきだったのだ。

あの母なのだから。

母なら、「ちょっと冥王星に行ってくる」と言って、本当に行ったとしても不思議じゃないじゃないか。

急にオレはソワソワし始めた。
次の日になっても、予告通り、母は帰って来なかった。


テレビをつけた。
ニュース番組の画面の右上に『人類初!冥王星に出発した主婦』の文字。

まさか。
次の瞬間、どアップで母の写真が写り、
「高橋カツ子さん(68)」
と書いてある。

ロケットの中で元気に浮いている母の姿も写し出された。
「人生でこんなことが待っていたなんて、サイコーで~す!」と、母はコメントした。

何がどうなったらこーなるのか知らないが、ナゼだかオレはものすごく感動して、気づけば両目から涙がダラダラとこぼれ落ちていた。

オレも、サイコーだと言える人生を送りたい。

長年反面教師と思っていた、冥王星に行った彼女をオレは、生まれて初めて心の底から尊敬したのだった。

おかあさん、あなたの息子で良かった。

どうか無事に帰って来て下さい。

願わくば、オレが生きてる間にね。
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