5:現場に移動中という名目の説明回(になってそうでなってないもの)
文字数 1,199文字
サーニャちゃんは現場に向かう車中で、手元の端末を弄り続いていました。
操作に応じて端末から漏れる音声は断片的でしたが。
――緊急速報です。ただいま入った情報によりますと
――現場です! ただいまジン災の発生現場、そのすぐそb――
――既に公表されている情報によると、今回の原因である少年はいじめにあっていた可能性が
――本当に迷惑な話ですよ。たかがいじめに遭っていたというだけでこれだけの被害を出して――
その言葉を聞いて、サーニャちゃんの端末を弄る手が止まりました。
だから、端末から響く男の音声は続いてこう言いました。
ジン災の被害規模は、原因となる人間がどれだけ追い詰められていたかを示す尺度だ。
つまりこれだけの被害が出ているということは、彼がそれだけ追い詰められていたという事実を示しているに過ぎません。
……確かに、多くの方が被害に遭っている現状を看過することはできませんが。
それを止めるために尽力している方がいる。それはそこで終わっている話です。
今我々が議論すべき事柄は、彼が自分の世界を全て擲ってまでこの世にない何かに縋らざるを得なかった、そんな状況を再び作らないための環境作りなどの解決策についてでしょう。違いますか。
――外野は自分の命がかかっていないだけあって、よく吼える。
端末から聞こえる言葉に応じるように、運転席に座る誰かがそう呟くように言いました。
その言葉に応じる形で、サーニャはその発言者に向けて低い言葉でそう言いました。
ただただ強い侮蔑と憤怒を滲ませた一際低い声音に、車中の空気が凍りついたものの、
沙雪さんがそんな言葉を返しました。
サーニャちゃんは目を細めて、視線を沙雪さんに向け直したままにしていました。
しかし、少しの間を挟んだ後で、
サーニャちゃんは溜め息を吐いてからそう言うと、端末の電源を落として瞼を閉じました。
そしてサーニャが目を閉じると、車中に漂っていた緊張感は解けた――ように見えましたが。
……勘違いするなよ、運転手。
お前の仕事はただ我々を輸送することのみだ。
無駄口を叩いている暇があるなら速度をあげろ。
それ以外に求められているものなどない。
そして、それさえ出来ないと言うのならせめて黙っていろ。
沙雪さんの発言によって、再び張り詰めたような空気が車中に漂うことになりました。
サーニャちゃんはそう言って、小さく笑いながら再び目を閉じました。