第4話
文字数 1,209文字
普段使いではないサンローランのティントを唇に塗って完成だ。
化粧は嫌いじゃない。
鏡の向こうにいる自分が少しずつ、美しくなっていく。その過程が好きだった。
「随分おめかししてますね」
サダコが鏡ごしにひょこっと私を覗き込んだ。
「そう?いつも通りよ」
「彼氏さんでしょ。わかりやすい人ですねえ」
「久しぶりに会うのよ」
インスタグラムを開くと、楽しそうなストーリーの数々。24時間ポッキリで消えてしまう思い出の刻印たちが丸い縁を赤で飾って顔を連ねている。
「あら、そういえば……」
ふと、妙なことを思いついた。
「サダコってインスタやってなかったの?」
無論、生前の話だ。
「やってましたよ」
「うそ、フォローさせてよ。まだアカウント残ってるの?」
「じゃあ、あとでフォローしときますね。エツ子さんのpcからログインしてもいいですか?」
「おけおけ、なんかちょっと楽しみ」
「ところでエツ子さん、時間大丈夫ですか?」
時計に目をやると、家を出る出るはずの時間をすぎていた。
「やばい、行くね。留守番よろしく」
「彼氏さんと、仲良くしてくださいね。いってらっしゃい」
久しぶりのケイスケとの待ち合わせは洒落たレストランだった。いつもの場末の居酒屋ではない。
「じゃあ、乾杯しようか」
私たちは、高めの赤ワインで最初の乾杯をした。
久しぶりに会う彼はちょっと色気があってドキドキした。
「あのさ、ここ数週間会えなくてごめんな」
「いいのいいの。妹さんの容体はもういいの?」
「そのことなんだけど……」
彼は俯きがちに言葉を続けた。
「妹は亡くなったんだ。3週間ほど前かな」
「え……?」
言葉が続かなかった。
「もともと病気があって、それが悪化して急にね。それでバタバタしてて、俺も塞ぎ込んじゃって」
「あ、そうなの……」
「もう落ち着いたんだけどね。今度焼香でも上げてやってくれないか?両親にも紹介したいし」
妹さんのことは残念だ。ぜひ会ってみたかった。ただ、面食らったものの、面識のない彼女の死よりも、“両親にも紹介したい”というその言葉に私はどこか浮かれていた。
「私でよければぜひ。妹さん、どんな子だったの?」
「写真あるよ。綺麗なやつだったんだぜ」
ケイスケはスマートフォンで私に1人の少女の写真を見せた。
白い肌に、肩まで伸びた綺麗な黒髪。長いまつ毛に、吸い込まれそうな大きな瞳。
私はその写真を見てゾッとした。
彼女が美しい少女だったからではない。
写真に写っていたのが、サダコだったからだ。
体から一気に血の気が引いた。
「おいどうした?」
ケイスケの声は頭に入ってこない。
咄嗟にインスタグラムを開いて、フォローリクエストを確認した。
新しい申請があった。
中村チアキ。
それがサダコの本当の名前だった。
化粧は嫌いじゃない。
鏡の向こうにいる自分が少しずつ、美しくなっていく。その過程が好きだった。
「随分おめかししてますね」
サダコが鏡ごしにひょこっと私を覗き込んだ。
「そう?いつも通りよ」
「彼氏さんでしょ。わかりやすい人ですねえ」
「久しぶりに会うのよ」
インスタグラムを開くと、楽しそうなストーリーの数々。24時間ポッキリで消えてしまう思い出の刻印たちが丸い縁を赤で飾って顔を連ねている。
「あら、そういえば……」
ふと、妙なことを思いついた。
「サダコってインスタやってなかったの?」
無論、生前の話だ。
「やってましたよ」
「うそ、フォローさせてよ。まだアカウント残ってるの?」
「じゃあ、あとでフォローしときますね。エツ子さんのpcからログインしてもいいですか?」
「おけおけ、なんかちょっと楽しみ」
「ところでエツ子さん、時間大丈夫ですか?」
時計に目をやると、家を出る出るはずの時間をすぎていた。
「やばい、行くね。留守番よろしく」
「彼氏さんと、仲良くしてくださいね。いってらっしゃい」
久しぶりのケイスケとの待ち合わせは洒落たレストランだった。いつもの場末の居酒屋ではない。
「じゃあ、乾杯しようか」
私たちは、高めの赤ワインで最初の乾杯をした。
久しぶりに会う彼はちょっと色気があってドキドキした。
「あのさ、ここ数週間会えなくてごめんな」
「いいのいいの。妹さんの容体はもういいの?」
「そのことなんだけど……」
彼は俯きがちに言葉を続けた。
「妹は亡くなったんだ。3週間ほど前かな」
「え……?」
言葉が続かなかった。
「もともと病気があって、それが悪化して急にね。それでバタバタしてて、俺も塞ぎ込んじゃって」
「あ、そうなの……」
「もう落ち着いたんだけどね。今度焼香でも上げてやってくれないか?両親にも紹介したいし」
妹さんのことは残念だ。ぜひ会ってみたかった。ただ、面食らったものの、面識のない彼女の死よりも、“両親にも紹介したい”というその言葉に私はどこか浮かれていた。
「私でよければぜひ。妹さん、どんな子だったの?」
「写真あるよ。綺麗なやつだったんだぜ」
ケイスケはスマートフォンで私に1人の少女の写真を見せた。
白い肌に、肩まで伸びた綺麗な黒髪。長いまつ毛に、吸い込まれそうな大きな瞳。
私はその写真を見てゾッとした。
彼女が美しい少女だったからではない。
写真に写っていたのが、サダコだったからだ。
体から一気に血の気が引いた。
「おいどうした?」
ケイスケの声は頭に入ってこない。
咄嗟にインスタグラムを開いて、フォローリクエストを確認した。
新しい申請があった。
中村チアキ。
それがサダコの本当の名前だった。