第36話 極端すぎるのも……

文字数 1,042文字

「確かにそうだ! 彼女は全く正しいことを言っている! 地球環境を守るためには、今、僕ら若い世代が立ち上がらなければ!」
 16歳の環境活動家の演説を聞いた良介はそう心に誓った。
 良介は学業優秀で品行方正な優等生だが、現在中学二年生。
 ご多分に漏れず『中二病』の真っただ中にいる。
『中二病』の症状は様々だが、良介の様な優等生の場合は極端な思想にどっぷりとつかってしまい、その思想に合致しないことを否定したがる傾向にある。
 そして良介が感染したウィルスはかなり強力なものだった。

「今度の連休、旅行でも行こうか、北海道なんかどうだ?」
「飛行機は二酸化炭素をまき散らす乗り物だから乗りたくない」
「そうか? それじゃ車で近場かな」
「自動車も環境に良くないよ」
「そんなことを言ったらどこにも行けないだろう? 自転車で行ける程度の近場か?」
「自転車は主に鉄で出来てる、製鉄に二酸化炭素が出るのを知らないの?」
「だったら歩きしかないじゃないか」

「今夜はステーキよ」
「牧畜は二酸化炭素を排出するんだよ、だから僕はこれから野菜しか食べない」
「そんなこと言ったら付け合わせのポテトと人参しかないわよ」
「調理にガスを使うよね? だから僕は生野菜しか食べないことにする」
「毎日サラダばっかり食べる気なの?」
「ドレッシングは工場で作られるよね、だから塩だけでいい」

「良介! 一体どうしたの電気もストーブもつけないで!」
「電気は火力発電だから使いたくない、ストーブも灯油だから点けない」
「だからって、そうやってずっと布団にくるまってじっとしてるつもりなの!?」
「だって地球環境を破壊したくないから……」

「良介君、ずっと登校していませんが、一体どうされました?」
「何をするにも『地球環境に悪い』の一点張りで、食事も塩をかけた生野菜しか口にしないもので体力が落ちてしまって風邪が一向に直らないんです」
「お医者さんには行かれましたか?」
「薬は本来自然環境にないものだからいけないんだそうで……」
「う~ん、良介君のように真面目で優秀なお子さんは一旦思い込んだら聞かない傾向がありますからね」
「ええ……本当に困っているんです、どうしたら良いでしょう?」
「そう仰られましても……確かに地球環境を突き詰めて行くと人類が存在するだけで環境破壊になりますからねぇ……極端過ぎますがあながち間違ってもいないわけで……」
「ええ、でも本当に困ります……息子がグレタ……」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み