メスメリズムとポゼッション
文字数 4,353文字
そのころ、イスラエルには王がなかったので、おのおの自分の目に正しいと見るところをおこなった。
(旧約聖書『士師記』21章25節)
放課後。
愛花の周りに人だかりができ、どこかへと移動していく。
どこか広い所へ移動して、今日も”奇跡のショー”を行うのであろう。
”信者”に引きずられていくように歩いて行く愛花を目で見送る。
そんなところへ、将司と傑の姿が。
幸音がいないのは残念だが、妥当な判断であろう。
愛花の奇跡に興味を持っていると言っても、オカルト好きの連中が詮索すれば、信仰者にとって心地よくない話も出てくるはずだ。
陽太は暇だったし同性の友達がいなくて寂しかったので、傑らについて行くことにした。
喫茶店へ。
陽太、聡美、将司、傑。奇妙な組み合わせ。愛花が騒ぎを起こさなければ出会わなかったであろうメンバーだ。
適当に注文を済ませた後、適当な世間話を始める。
数分後にそれぞれの飲み物が運ばれてきたところで、傑が本題を切り出す。
その様子を見て傑はクスリと笑う。
傑は一呼吸置いてから、話し始める。
愛花が聖書科の教師に異を唱えたこと、そして愛花と聡美の論争から、プロテスタントが一枚岩でないことはこれまでも散々見せつけられてきた。しかし、学内の生徒が”奇跡”に熱狂する中、冷めた視点を持っている聡美を見て、その違いを改めて痛感させられたのであった。
そんなことを陽太が考えながら、コップに残った氷をストローで突いていると、将司は得意げに笑い始めた。
改めて突きつけられる、”ペンテコステ派”がいわゆる穏健派とは対極に位置する現実。かつて聡美が愛花に対し、「キリスト教のイメージダウンにつながる」と批判したことも頷ける。
聡美は自分のコップに視線を落とす。
その後、4人は奇跡や信仰について、とりとめのない雑談をしてから、解散していった。
帰り道の中、陽太は人間の信仰について思いを馳せていた。