第3章 プロローグ

エピソード文字数 3,603文字

「にゅむ? ゆーせー君ゆーせー君。どーして、鞄さんに教科書(きょーかしょ)を入れてるのー?」

 高知から帰ってきた日の夜――8月13日の午後11時半過ぎ。自室で夏のプチイベントの支度をしていたら、レミアが首を傾げた。

「どうしてって。明日から一週間、学校があるからだよ」

 ウチでは夏休みによって完全に怠けてしまわないように、この時期に月曜~金曜まで普段通りの授業を行う。シズナと出会った日に『二十八日後には、本格的に学校が――』と言っていたのは、始業式の前にコレがあるからなのだ。

「にゅむむん、全然知らなかったよー。それならお弁当(べんとー)を作らなきゃだっ」
「いやいや、そこまで気合入れなくていいよ。その分早起きしないといけなくなるんで、残り物を放り込んでくれたら――ちょい待って」

 全然知らなかった、だと?

「おかしいぞ。俺は兎瑠ちゃんにお土産を持って行ってる時に、シズナに伝えたんだがなあ」

 道中で護衛役の変人に伝え、彼女は『お家に帰ったら、フュルさん達にお伝えしておくわ。学校では近くに居られないから、三人でその時の対応等を話し合っておきます』と微笑んだ。なのになぜ存じ上げていない。

『優星、あの女はワザと内緒にしてたんだ。怒られトラップを仕掛けてるぞ』

 うん、そうだね謎の声。あのバカは故意に黙ってる。
 なので僕はレミアを連れて、笑顔で、ヤツがいる和室に向かった。

「あっ、師匠がご機嫌ぜよっ。何かいいコトがあったが?」
「きっとそうよ。従兄くん、なにがあったの?」
「あのねあのね。シズナちゃんっていうアホ女に、迷惑をかけられたんだよー」

 わたくしは声を上擦らせ、にこやかにアホ女に詰め寄る。
 コイツに激怒は逆効果。シズナトラップには引っかからないぞ。

「私、身に覚えがないのだけれど……? 従兄くんが太腿を撫でてくれたら、思い出せそうだわ」
「レミア、フュル。実はね――」

 痴女は無視。俺は2人に、明日からの予定をお教えした。

「しっ、師匠は高校に行くがかえ……。夏休みなのに大変ぜよ……っ。地獄ぜよ……!」
「確かにキツイが、後日その分の休みをくれるからね。そこまで悪くはないよ」
「ねえ従兄くん? 太腿を撫でてくれたら、思い出せそうなのだけど?」

 学校側も配慮してくれていて、休日が減りはしない。先に辛いことをやって後で楽をすると考えたら、なんとか乗り越えられる。

「そんなワケでスミマセンが、朝から夕方までは離れるようになります。そこでその間3人はどこで待機するなど、対策をこれから練りましょう」
「…………従兄くんが、冷たい…………。高知から帰って来ても、冷たいわ……」

 そうですか。よかったですね。

「し、師匠。寂しそうにしゆうき、かまっちゃったら?」
「にゅむむぅ。シズナちゃん落ち込んでるよ?」
「こりゃあ自業自得だ。さあ、打ち合わせをしましょう――???」

 イライラしてて気づかなかったのだけど、テーブルの上にびっしり文字が書かれた紙が置いてあった。二人は俺らが来るまで、何かをしていたらしいな。

「フュル。これってなんなの?」
「それは、誕生パーティーについての案を集めたもんなが。8月28日は、親友先生――伝説の盗賊ドールマスター先生の誕生日で、今回はワシら3人が内容を決めるがよ」
「昔からずっとね、3人1組で全部を担当(たんとー)してるのっ。誕生日(たんじょーび)さんと、残りの親友(しんゆー)さんもビックリさせちゃえーってゆーことなんだよー」

 とレミアが説明して、クイクイ。彼女は、俺の袖を可愛く引っ張る。

「それでねゆーせー君、ご迷惑だと思うんだけどね。この日はあたしたちの日本でパーティーがあるから、一緒に来て欲しーんだよー」
「夏休み終盤は、この世界でのんびりしたいはず。けどこれは大事な行事先生やき、ワシらぁに付き合ってつかぁさい!」
「俺は、アナタ達に守ってもらってるんだ。そのくらいはやりますよ」

 この子達が参加できないと、きっと全員が悲しむ。それに、これまで色々あり過ぎて――


「『金硬防壁』は我らが頂く! 隙ありぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!


「フュルー、腹から腕が生えてる異形が6匹現れたー。デリートしてー」
「了解ぜよ! 『黄(き)の怠惰(たいだ)』っ」

 ぉぉ。魔物さんの身体に黄色い縄が絡み付き、ヤツらはビリビリ感電しております。

「「「「「「ぉぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!? ごびびびびびびびびびびびびび…………」」」」」」

 感電してる彼らは電気から逃れられず、そのまま絶命。湯気のようになって消えましたですはい。

「うん、終わったな。勇者魔法使いさん、お疲れ様っス」

 俺は軽く礼をして労をねぎらい、打ち合わせをするため腰を下ろす。
 話を戻しますとこのように色々あり過ぎて、どんな状況でものんびり出来るようになってきてる。よって地球でなくとも、のほほんとしていられるのです。

「レミアもフュルも、異世界ワープは気にしなくていいよ。その日は、故郷で和気あいあいとやってくださいな」
「師匠っ、感謝するぜよっっ! レミア先生っ、こりゃ何が何でも最高のパーティーにせんといかんにゃぁ!」
「そーだねっ。明日のお話が終わったら、計画さんを練り練りしよー」

 二人はコクンと頷き合い、レミアが『トリオ出し物候補リスト』と記されている紙を異空間に仕舞う。
 ふむふむ、会では幹事となった三人が何かしら芸をするのか。……この人達がどんなことをするのか、非常に気になるな。

「ねえ、皆。そのパーティーで、なにをやろうとしてるの?」
「候補その1。これは、シンプルにマジックよ」

 寂しそうにしていても好転しないと察したシズナが、会話に加わった。
 ほぉ、三人で手品か。こいつは妥当だが、些かベタかな。

「それは、俺的には保留だなぁ。シズナさんや、候補その2は?」
「組体操。扇とかをやろうとしているの」
「そか、そりゃボツだね。誕生日にやることじゃない」

 もし俺がそんなのをパーティーでやられたら、苦笑いを浮かべる。その盗賊さん、反応に困るって。

「ワシはそれを推しよったがやけど、いかんがやね……。悪いけど師匠、明日の相談の前に批評して欲しいぜよ」
「にゅむん、そーだねっ。ゆーせー君の意見を取り入れたほーが、よくなるよー」
「まあ時間はあるんで、お付き合いしましょう。どんどん言ってって」

 ぼくは誕生日会のプロではないが、この人達よりはマシだ。盗賊さんを喜ばせるため、ひと肌脱ぎましょう。

「その3。これは、合唱よ」
「……んーむ、マジック同様新鮮味がないなぁ。こいつも保留で次をヨロ」
「その4。三人羽織」
「盗賊さんにメリットはないから却下です」

 今一度確認しよう。この出し物は、主役を喜ばせるためのモノだ。
 これ、誰が得するん?

「その5は、ええと……。パントマイムね」
「あっ、それいいじゃん! そんな特技があったんだね」
「ううん、誰も持ってないが。これから練習するがよ」
「おいこらパントマイムを舐めんな。そいつもボツだ」

 僅か十数日で、人様に披露できるレベルになるとは思えん。やれないモンを選ぶな。

「では、その6。トリオ漫才」
「おっ、いいね! 大して盛り上がらなくても、お笑い繋がりで俺が面白昔話をやって挽回――」
「こっ、このお話はまたの機会にしましょう! 誕生日会より学校対策の方が大事だものっ!」
「し、シズナ先生の仰る通りぜよ! 誕生日会までは何週間もあるけど、学校は明日やきにゃぁ!」
「にゅっ、にゅむん! そっちを先にしないとだねーっ!」

 突如3人が脂汗を流し、首が取れそうなくらい前に振りだした。
 ぇ? ぁれ?

「いやいやいや、そう急がなくてもいいよ? 俺は、漫才がベストだと――」
「師匠と距離が出来てしまうき、対策はきっちり練らんといかんがよね! 早く始めんと、寝る暇がなくなってしまうぜよ! じぇよっ!!
「これから私達は、一分の隙もない方法を見つけないといけない。こっちが最優先事項だったわね!」
「そ、そだよーっ。こりぇを最優先(さいゆーせん)だよっ!」

 フュル、シズナ、レミアは、怯えたような顔で舌を動かす。
 ??? 今のどこに、恐怖を抱く要素があったんだ?

「ねえ。急にどうしたの?」
「さあ、打ち合わせ開始ぜよ! まずは、どこで襲撃に備えるかやね!」
「お、おい。俺の質問に――」
「ここは重要っ。従兄くん、このお話に集中していきましょう!」

 こんな感じで、完全に話題がチェンジ。その後無事に方針は決まりましたが、結局出し物の話が出ることはありませんでした。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

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