表のルール、裏のルール

文字数 1,330文字

「不満か?」
 質問を聞いた少年は、アランの方へ顔を向ける。そして、やや目を伏せて息を吐くと、自らの考えを話し始めた。

「別に……色々と聞きたいことなら有るけどね」
 そう返すと、シュバルツは車の進行方向へ顔を向ける。
 
「なんで、お見舞いするだけなのにドアを開けるカードが要るんだろうとか、あれじゃ子供達は外に出られないんじゃないかとか……病院の奥では、何をやっているのかとか」
 シュバルツは目を瞑り、後頭部を座席に付着させる。一方、彼の疑問を聞いた青年は軽く笑い、淡々と答えを返していった。

「カードが必要なのは言うまでもねえ、勝手に入られたら不都合があるからだ。それと、子供達用の中庭が在る。どうせ弱った体だ、その程度が丁度良い」
 アランは、そこまで話したところで少年の顔を横目で見た。
 
「で、病院の奥だが……俺も行ったことはねえからな。まあ、俺たちのパトロンが、大金を得る為に色々とやっているとだけ言っておくか」
 彼の返答を聞いた者は、不満そうに息を吐いた。この為、それに気付いた青年は溜め息を吐き、低い声で言葉を加える。
 
「所詮、お前は末端だからな。捕まり易いし、ともすれば大怪我を負うことだってある。捕まり易い役である以上、多くの情報を与えられる訳はねえし、上が忠実であると判断しねえ以上、権利も与えられねえ」
 その時、進行方向に在る信号が赤に変わり、アランはブレーキを踏んで車を停めた。
 
「車の運転をするにも規則があるように、裏には裏の規則がある。それを破ったらいけねえし、破ったら罰を受けるのも同じだ」
 青年は、そう言ったところで目線を前に向けた。その時、まだ信号は赤のままだったが、アランはシュバルツの方を見ようとはしなかった。
 
「俺だって、まだまだ下っ端だ。だから知らねえことも多いし、大きな失敗をすれば消されるだろう」
 青年は目を細め、苦笑する。この時、信号は青に変わり、アランは車のアクセルを踏み込んだ。
 
「俺達に出来んのは、上の機嫌を損ねないように仕事をして、より多くの命を救うことだ。ま、そのうち見舞い位は、気軽に出来るようになるかも知れねえけど」
 青年は、そう伝えると横に座る者を一瞥する。その話を聞いた者と言えば、不思議そうな表情を浮かべてアランを見た。
 
「病院が一箇所じゃ、不便なところもあるからな。加えて、保護した子供の中から医者や看護師になる者も増えた。そいつらを集めて、新しい病院を作ろうって動きもあるらしい」
 アランは口角を上げ、小さな笑い声を発する。
 
「一から裏の仕事を受ける医者やらを探すより、裏の仕事を少しでも知っている奴を引き入れる方が早いからな。それに、小さい頃に世話になったからって、医療関係につきたがる子供は幾らでも居る」
 青年は話すことを止め、少年は聞き返すことをしなかった。この為、車内は無言のまま、二人はシュバルツの家の前に到着する。
 
「到着したぞ」
 青年は、そう言うと少年の方へ顔を向ける。すると、少年は無言でシートベルトを外し、それから小さな声で言葉を発した。

「今日は有難う、アラン。ちょっと安心した」
 シュバルツは車を降り、助手席のドアをゆっくり閉める。一方、アランは間を置かずに車のアクセルを踏んだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

主人公
ネグレクトされている系男児。
しかし、救いの手が差し伸べられて成長する。

神父
主人公に救いを差し伸べるが、差し伸べ方がやや特殊な年齢不詳な見た目の神父。
にこやかに笑いながら、裏で色々と手を回している。

兄貴分
ガチムチ系脳筋兄貴。
主人公に様々なスキルを教え込む。
難しいことはどこかに投げるが、投げる相手が居ないと本気を出す脳筋。

みんなのオカン
主人公を餌付けして懐かせる系オカン。
料理が上手いので、餌付けも上手い。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み