科学者と呪い

文字数 4,962文字

「貴様等全員呪い殺してやる!末代まで祟ってやる!許さんぞ!絶対に許さぬからな!」


―――――


「此処が名も分からぬ侍が殺された場所か」
「うん。どうやら此の家の人達の血は途絶えないけど、みんな若くて死ぬらしいね。なぜか不思議と必ず結婚して子を産み、家族が大きくなると必ずバタバタと倒れるらしいよ」
「確か前回起きたのは100年ぐらい前だっけか?」
「うん。大体百年くらいの周期で起こるらしいから、近々何かが起こるんじゃないかってもっぱらの噂だよ」
「馬鹿馬鹿しい。そんな日科学的なものある訳無いじゃないか」
「え~?オカルトとか興味無いの?」
「興味が無いと言えば嘘になるな」
「興味があるんだ」
「まぁな。とは言え、俺が興味を持っているのは、そういう非科学的な現象を当時は呪いとか祟のせいにして、避けて通った道を、今度は科学的視点からそういう現象を暴いてみたいという興味だ」
「ふ~ん、なるほどね~」
「何だ?何か文句でもあるのか?」
「いや、別に文句は無いけどさ~、そういうのって直感的に惹かれない?」
「俺はそういう直感とか言う非科学的な物は信じないことにしているんだ。だからその気持は良く分からん」
「あ、そう」
「突慳貪な言い方をするな」
「いや、別に意図したわけじゃないけどさ……」
「けど?」
「……なんか、嫌な予感というかそういうのがビシビシ感じるんだよね」
「……また非科学的な」
「そう思うなら私に電極を付けて科学的に調べてみたら?」
「……それもそうだな?やるか?」
「やるわけ無いでしょ!」
「何を怒ってるんだ?」
「もう、知らない」
「変なやつだな」
「変なのは貴方。私は正常です」
「オカルトと一括りにして、科学的根拠に基づかない物にしがみついている、お前のほうがよっぽど異常だと思うが?」
「はぁ、あんたは昔からそうだったわね」
「それはこっちの台詞だ」
「まぁ、いいわ。これから此の家の人達がなにか起こる可能性が高いと私は思うの」
「まぁ、その根拠のない直感とやらが正しければな」
「私の直感が結構当たるの知ってるでしょ?」
「根拠が無い。そんな言葉に意味はない。根拠が有り、それに基づき発言した言葉なら信憑性があると思うが」
「あー、もう。堂々巡りはもう結構。私は何かが起こると思ってる。貴方は違う。それでいいじゃない」
「まぁ、そうなんだがな。ただ、何かが起こるなら、その現象は解明したいと思っている」
「もう、好きにすれば」
「まぁ、最初から好きにさせてもらうが」
「はぁ、付き合ってられない」
「別に付き合って欲しいとも思っていないが?」
「……この事、この場所、教えたのは一体誰ですか?」
「お前だな」
「少しぐらい感謝したらどうなの?」
「何だ?感謝を求めていたのか?そうならそうと早く言え。ありがとう」
「その上から目線なんとかしなさいよ」
「その発言自体上から目線だと思うが?」
「あー、もう、あんたとは話しない!」
「?何を怒っているんだ?理解できん」
「しなくてよろしい!」
「……分かった」
「……はぁ、とりあえず、私は宿に戻ってるね?」
「ああ、了解した」


―――――


 部屋の中は沈黙で満たされている。空気が重い。あれからちょうど百年。呪い、祟があるとすれば今年なのだろう。何故その時代に生まれてきたのかと後悔すらしている。

「黙っていたって始まらない」
「ええ、そうね」
「だけど、対策しようにも、どうしようにも無いんでしょ?」
「それはそうだが」
「それこそ、黙っていたって始まらないわ」
「なにか話し合って解決するの」
「……」
「……」
「また霊能者を呼ぶ?」
「それしか無いだろ」
「でも……」
「そうよね。来てくれる人が居るかどうか……分からないものね」
「駄目で元々。手当たり次第に連絡を取ってみましょ」
「判ったわ。じゃあ、それは私がやっておくわ」
「じゃあ、俺と母さんは蔵を調べて見るとする」
「そうね。そっちは任せるわ」
「じゃあ、動きましょう」
「ああ」
「そうね」


―――――


「お稲荷様がお怒りだ」
「供物を捧げねばならね」
「よそ者が都合良く来ると良いのだが」
「そんな都合の良いことが起こるとは限らねぇ」
「……」
「……」
「……」
「村長達が集まっても結局できることは限られるだ」
「それはそうだが……」
「う~む」
「なんとかすねば」
「お~い!村長!お侍が、お侍様が来たべ!」
「何!おい、皆良いな!」
「ああ!」
「それ以外手はねぇべ!」
「よし!お前、村人を全員丑の刻に集めろ!侍様に気付かれないようにな!」


「貴様ら!これはどういうことだ!」
「おめさは、悪いど思ってっけどな、しょうがねぇんだ。お稲荷様がお怒りだで」
「ま、まさか!拙者を供物にするつもりか!」
「すまねぇだな」
「ふ、巫山戯るな!」
「おい、連れでげ」
「貴様等全員呪い殺してやる!末代まで祟ってやる!許さんぞ!絶対に許さぬからな!」


―――――


「おっ、面白いことになってきた」
「どうしたの?」
「お前が目をつけた家から連絡があった」
「本当?」
「ああ、霊能力者に協力を仰ぐんだそうだ」
「それじゃ私達の出番ないじゃん」
「ああ、普通ならな。俺はその霊能者から連絡で科学的視点からなんとかしれくてないかと言う依頼だ」
「へ~」
「ワクワクしてくるな」
「……私は嫌な予感するからパス」
「何だ?行かないのか?こんな面白そうなところに」
「行くわけ無いでしょ!命あっての物種よ!」
「むぅ、つまらんな。とりあえず、事務所に電話して機材を運んで貰うよう手配しよう」
「はぁ、好きにしなさい」
「というか、お前も手伝え」
「嫌よ」
「むぅ、まぁ、良いか。ついでに増員も連れてくるよう指示するか」
「そうして頂戴。私は絶対かかわらない」


―――――


 真夜中の丑の刻。それは起きた。一番小さい子が心筋梗塞になった。勿論対策のために一族は同じ部屋で寝て、近くに医者も待機してもらっている。だけど、どうやっても心臓は動いてくれなかった。此の呪いと言われている特徴は一日一人、人が死ぬ。調査に来た霊能者は軒並み帰っていった。自分では対処できないと。残っているのは変な科学者だけだ。機材を山程持ち込んで、調査しているという。頼りないが、それでも藁にもすがる思いで、彼らを見守った。


「所長、部屋の温度が徐々に下がっていっています!」
「ほぅ、今何度だ?」
「10度を下回りました。まだ下がり続けています!」
「観測を続けろ!」
「はい!」


 俺は皆が寝ている部屋へと向かった。その部屋を開けた瞬間冷気が溢れてきた。

「おお、これはどういう科学現象なのだ!」

 俺は興奮して叫んでしまった。周りの人達が起き出してくる。そして、皆気づく。異常なほどの寒さに。今は夏。それなのに10度を下回っている。なおも下がっているらしい。

「所長!その部屋の温度が7度まで下がりました!」

 無線で耳に声が入ってくる。

「分かってる!特に温度の低い場所はあるか?」
「子供です!子供の一人がものすごい低い温度になってます!」
「子供?はっ!子供の中で冷たくなっている者が居るぞ!」

 そう言うと、医者たちは動き出し、一人の子供の元へ向かう。今回も心筋梗塞。いくら人工呼吸をしても無駄だった。また一人亡くなった。

「なんとかしてくれるんじゃなかったんですか!」
「なんとかしたいと思っている。だからデータも取ったし、今後の対処法を考えている」
「それは本当ですか!」
「嘘を吐いてどうする?データ不足は否めないが、これは科学で証明出来ないものなのかもしれないと少し思っている。が、一応策はある」
「……信じていますよ」
「信じるのは勝手だが、こちらもできる限りのことをするとしか言えない」
「……何かあったら。何かあったら貴方を許しませんからね」
「許さない。ね。好きに思えば良い。その時は此の一族の殆どが死ぬだけの話だ」
「くっ」
「縋れる者が私達しか居ないのだから不安にもなるだろうが、それは我々の知ったことではない。はっきり言うが、私はこの現象の解明ができれば満足だ。それ以上のことはおまけに過ぎない。そのことを忘れるな。失礼する」

 恨むような目をしていた。だが、俺に向けた所で意味は無い。というのにずっとこっちを見ている。無意味だ。何を考えているのか理解が出来ん。知りたいとも思わないがな。

「どうしますか所長」
「うむ。策はあるとは言ったものの、やれることと言えば、暖房器具で一度温めてみるというものだからな。昨晩の映像は残っているのか?」
「それが計器類の一時的な故障で、録画出来ていません」
「ふむ。これが幽霊という奴なのかも知れないな」
「どうしますか?」
「とりあえず、部屋を温めてみよう」
「暖房機の設置ですね」
「まぁ、意味はないと思うが一応やってみよう」
「了解です」


 健闘むなしく。今生き残っている中で一番幼い子が、また心筋梗塞で亡くなった。


「何が策があるよ!部屋を温めただけじゃない!何ともならなかったじゃない!」
「その恨み言を聞くのは構わないが、怒る相手は私では無いのではないのかね?」
「なんですって!」
「我々はやれることを科学的な点からアプローチしているに過ぎない。それとも撤収したほうが良いか?」
「……」

 恨むような目つき。本当に意味がない。私を恨んでどうするというのだろうか?恨めば状況が良くなるとでも思っているのだろうか。

「まぁ、此の一族がどの様に思っていたとしても、我々は観測を続けるがね。非科学的なこの現象を解明、解決するのはとてもやりがいのあることだと思うからね」
「あんたね!人の命がかかっているのよ!何そんな呑気なことを言っているの!」
「そう激高されても困るのだが。我々は先程も言ったが、観測、解明、解決に尽力を尽くすだけだ。今回はこっちのつてを使って医者も呼んだしな」
「……」
「まぁ、色々な点でアプローチはしてみる。期待せず待っていることだな。期待すればするほど、期待が外れたときのダメージは大きいぞ」
「……他人事だと思って!」
「ああ、他人事だ。それが何か?」
「人殺し!」
「私は殺していないが?」
「……人殺し!貴方は人殺しよ!」
「ふむ。どういう観点からその結論が導き出されたのか、興味はあるが、まあ良い。とりあえず、こちらはやりたいようにやらせて貰う。それ以上でも以下でもない」

 そう言うと俺は去った。後ろの方で呪詛のように許さないとつぶやいている人物を無視して。


―――――


「くっ、どうして私が此のような……此処は獣の住処か?」

 暗くてよくわからないが洞窟のようだ。丁寧に此処へ連れてこられる間、ずっと目隠しをされていた。手足を縛られ運ばれてきた。

「刀も取り上げられて、刀は私の魂。絶対に許さん。奴らは。一族郎党呪い殺す。末代まで祟ってやる」

 それから数日が過ぎた。誰もやって来ない。まだ私は息をしている。が、動けず、腹も減ってどう仕様もない。此の洞窟の主も出てこない。ただただ私は此処に放置されたというわけだ。だが、それももう此処までだ。死期が近づくと自ずと分かる者が居るというが、正しいのだろうな。そろそろ私の命が尽きようとしているのが分かる。

「奴ら、だけは、許さない。一族、郎党、呪い、殺して、やる。末代まで。必ずだ。必ず……呪い……殺……す……」


―――――


「ふむ。結局、一族の殆どが死んでしまったな」
「科学的に証明できなかったの?」
「そう言うのはやめたまえ」
「悔しいんだ」
「当たり前だ」

 結局生き残ったのは恨むような目をした女性と、その子供が一人。のみだ。

「まぁ、今回は科学的に証明出来なかったが、何時か似たような機会があれば、次こそは解明しようではないか」
「はぁ、本当に大丈夫なのかしらね……」


 こうして、一連の事件は終わりを迎えた。
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