一般販売の末

文字数 983文字

こうして一般販売が可能となり、最初は興味本位な客が購入していたが、次第に若い子育て世代にも広がり、安心出来る環境作りはトラブルもなく評価は高かった。

 ある若者子育て世代の30代前半の家庭では、芝の上で子供を遊ばせていた。
両端に2体が監視していて子供の動きに合わせて時々見回りをするロボット。外遊びが終わり日が暮れるとセンサーが反応し、ロボットは深夜モードに切り替わる。そしてその後も指定された範囲の監視をロボットは独自で判断して動いている。
 クチコミは広がり、ロボットは意外にも若い世代の購入が目立った。

 ダイアモンドセキュリティの知名度は更にあがっていく。ロボットも進化を遂げ、ヒト型から動物型の販売を始める。動物型はオス・メスの2体でのセットだが、動物の売れ行きは特にお年寄りにウケが良く、クリスマスや新築祝いなどイベント時にプレゼントすることも増えてきた。

 そんなある満月の夜、何が起こったのか。
精巧なロボットに異変が生じた。
 月明かりの静かな夜に、ロボットの目が赤く不気味に光る。ロボットが月を見上げると、満月から力を蓄えて息を吹き込んだ。
 一歩、二歩と指定範囲を逸脱して暗闇に消えていく。


翌朝、テレビの報道番組がざわついた。
空が白むころ、走っていたクルマの前にロボットが立ちはだかり、持ち上げられ海に放り込まれた。そのロボットは移動を続け、また別のクルマを持ち上げては海に放り投げる。

ーー何が起こったのか。


ロボットはいつのまにか都丸の想像をはるかに超え、類まれな知能を習得していた。

月の光……。それが盲点だった。

このロボットを造るとき心臓部に月の欠片を埋め込んでいる。その月の欠片が満月の夜に月とリンクして誤作動を起こした。
ロボットは知恵を授かり知能が芽生える。
満月にチカラを得たロボットは人間を欺き、忠実に従うフリを続け、そして。

一家に2体の備えが当たり前になって広まっていったロボットは、生産数が増えた頃合いを見計らって自らの意志で動き出し、自分たちの世界を築き上げていった。
人間はもはやロボットに忠実な僕となるしかなかった。

精巧さゆえに盲点だった月の光ーー。
それが人間の歴史を変えていくことになろうとは。





      《  完  》
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