第20話 修学旅行(班行動)②

文字数 1,901文字

朝ご飯をホテルの大会場で取ると、班で集まって、電車に乗る。


初めて見た大阪の光景は仙台よりもずっと都会だった。

班長の神谷と副班長の冬月さんが二人で先頭を歩き、俺達を誘導する。


冬月さんの持つカバンには、昨日縁結び神社で渡したお守りがついていた。


(あ!付けてくれてるんだ)


そう思うと、ちょっと嬉しかった。

観光スポットを巡りながら、途中でたこ焼きも食べた。


移動中、ふと酒井さんが冬月さんに話しかける。

ねぇねぇ、冬月さん、それさ縁結びの神社のだよね?


お守り買ったの?

そうだよ。もらった。
え?もらったって、だって清水寺行ったの昨日だよね?


誰から?

え?もらったの?冬月さん昨日部屋で人から物とかもらうの嫌だって言ってなかったっけ?
あ、うん…


でも、嬉しかったから…

そんな女子の会話を神谷が遮った。
まぁ、それは昨日のことだから、今日は今日で、このあと、俺達の班は梅田スカイビル展望台に行くと、少しお茶して休憩したら、USJに向かうことになるから、集合場所に向かうからな。
神谷のおかげでお守りの話は一旦終わってくれてよかった…
少し喫茶店みたいな所に入り、休憩すると、他の高校の修学旅行生の女子に神谷が話しかけられていた…


ちょっと困っている神谷に冬月さんが話しかける。

おーい。時間ないんじゃなかったの?(笑)
あ、あぁ。今戻る。
冬月さんが神谷を呼ぶと、他の高校の序詞は諦めて、自分たちの席に戻っていった。


歩いて戻ってきた神谷が冬月さんに言った。

ありがとう。助かったよ。


冬月さん結構周り見えてるんだね。

まぁ、視野が広いのは身体に染み付いたクセみたいなもんだからね(笑)
なるほどね。
ここにいる全員、酒井さん以外は、冬月さんが白石 千春だって知ってる。


アイドル時代に広いステージで歌ってきたから、記憶を無くしてても、職業病みたく視野が広いんだろう…

俺がそんなふうにおもっていると、酒井さんが言った。
え?冬月さん、染み付いたクセって何で?
人にはね、それぞれ得意なことと、不得意なことがあるでしょ?


冬月さんの得意なことなんだよ。ね?

愛がすかさず、わけのわからないフォローを入れる。冬月さんは頷く。


明は事情を昨日伝えたのに、よくわかっていなさそうな顔をしていた…

とりあえず、ちょっと休憩が終わると、俺達は移動する。


移動してる最中、知らないスーツを来たおっさんに冬月さんは名刺を渡されていた。


酒井さんが騒ぐ

冬月さん凄い!スカウトされたんだよ!


芸能事務所だってさ!

そう言って酒井さんはテンションが上がって騒ぐけど、俺達は全員、そんなにはしゃぐことはなかった…


冬月さんは名刺を持ち歩き始めると少し体調が悪そうな顔をしている気がした…


そして、ふらついて、隣を歩いていた神谷に寄りかかった…

冬月さん大丈夫?歩ける?貧血とかかな?
班のみんなで心配すると、冬月さんが頭を押さえながら言った。
紬さん…
(紬さん?紬さんなんて人は俺達の学年にはいない。前の学校の人かな?)
みんなも誰かわからなくて困惑してそうだった。


ちょっとすると、冬月さんは体調が戻ったみたいで、みんなで再び歩き出し、電車に乗ると午前中の班行動終了時の集合場所に向かった。

冬月 千春Side
芸能プロダクションの人から名刺をもらった私は、急に頭痛がひどくなった…


少し貧血の時のように視界が眩んだ…


みんなの心配する声が少し聞こえるけど、頭痛がひどい…


さっきまでなんともなかったのに…


そして、ぼやけていて分からないけど、私の記憶なのだろうか?


私に名刺を渡す女性の姿が一瞬浮かんだ。


その人はやはり、ぼやけていて、誰なのかわからない…


でも、頭の中に知らない人の名前が浮かんだ…


紬さん…


自然と口に出していた…誰かわからない人の名前…

ひどい頭痛は時間が少し経つと嘘のように痛みが消えた…


今はなんともなくて、みんなと電車で移動して、集合場所に向かっている。


さっきのは何だったんだろうか…


思い出せない昔の記憶の断片の一部なのだろうか…


私は以前そのぼやけていてよくわからない人にスカウトされたのだろうか…


紬さんって私は無意識に言った、その人は私が知っている人なのかもしれない。

記憶が何一つ無い中、思い出したのかもしれないたった1つの手がかり…


全部思い出した方が幸せなのか、そうじゃないのかは、私にはわからない。


でも、今、ここにいる人達と出会えて良かったと私は思っている。


白石 千春に戻りたいとは、今、特に思っていない。


もし、記憶が戻ってしまったら、東京に帰りたいと思ってしまうのだろうか?


あんまり深く考えると、わけがわからなくなりそうだ…


今は周りにいて私を大切にしてくれるこの人達と過ごしていたい。


そう思った…

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登場人物紹介

上田 龍一(うえだ りゅういち)

城西高等学校2年生

成績、スポーツ、容姿全てが平均的男子。同級生で同じ高校で同じクラスの坂木 愛(さかき あい)に恋をしている。

冬月 千春(ふゆつき ちはる)龍一のクラスへの転校生。

両親離婚前は白石 千春(しらいし ちはる)

元アイドル。そして記憶を失くしている。

坂木 愛(さかき あい)城西高等学校2年生。龍一と同じクラス。


目立つタイプではなく、あんまり人の輪に入ることが得意ではないが、容姿が良いため男子から密かに人気がある。

酒井 真美(さかい まみ)。龍一のクラスメイトで、愛の親友。

佐藤 明(さとう あきら)。龍一のクラスメイトで親友。

神谷 俊(かみや しゅん)。龍一と同じクラスで学年一のモテ男。性格もイケメン。

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