第1話 魂の遍歴

文字数 1,025文字

 きみよ、見たか、あのむせび泣く哀れな小鳥を。
 飛べなくなったから、飛べる者を妬んでいる。他物とくらべて、自分が惨めだと思い込み、泣いている。飛べていた過去の自分とくらべて、今を嘆いている。さらに、くらべて、何にもならないのにくらべてしまう自分を嘆いている。
 ああ、能力! そのままで、きみは完全だったのに。きみはきみのままで、全うな生物だったのに。くらべること、それはきみの十全たる能力だ。それを、自ずからマイナスへマイナスへ、きみ自身を貶める具材になろうとは!
 きみはきみを憎んでいる。憎悪の虜となって、ねじくれた目で、周囲へ流し目を送っている。
 憎むパワー、power, 源泉の湧水を、そんなふうに使ってしまうとは。
 憎悪の嵐、怨念の吹き溜まり。清らかな風を、うららかな陽光を、自ら断じて、その岩陰に身を籠らせている…、よろしい。どんどん爆発させよ。周囲へ、岩石をまき散らせ。鎮火した? まだ足りぬ、まだ足りぬ。もっと、爆発せよ!
 きみの渾身からほとばしる力、エナジー、energy, 使い切れ。燃焼させよ。

 それから、きみは我に返る。ワレニ・カエル。見よ、これがきみ、きみ本来の、生来のきみなのだ。
 きみは、我に返った。あの、容赦しない爆発、きみの憎悪の疾走の果てに。きみは我に返った、穏やかな、たおやかな時間、平安と安穏、甘美な愛の果実に舞い戻った。
 そしてきみは、つつきはじめる。そのくちばしで、とんとん、こつこつ、きみ自身の果実をつつきはじめる。
 創作せよ。きみは小鳥の声を聞く。創作せよ。わたしをつくれ。「わたしをつくれ。」
 見よ、あの憎悪の、悪臭に満ちていた泉から、いまや香しい、清らかな聖水が流れ出ている。同じ、きみから!
 それはきみに、必要な道程だったのだ。荒ぶる魂をもった狂犬が、安静の魂をもつ賢馬になるまでの遍歴だったのだ。きみは今、まるで自由になっている。
 きみは、そのままきみの人生を完成させよ。有無の称号などに、捕らわれてはいけない。きみは、きみの生を創造し、一生を貫徹させよ。真の成功者、勝者は、天に向かわず、地を歩く。
 きみの創造した作品は、きみ自身の魂の遍歴となる。そして、願わくば── きみ自身の魂が体験した生きた記録を、この世界に生かされんことを。すなわち、「死刑囚を解放せよ。」きみが荒涼殺伐としたかの地から、安静平安を得た徳を、この世に還元されんことを。その道へ、囚人を誘い導く、善導者であることを。
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